夜明けの旋律─二人の繋いだ手の先に待ち受けるもの─

七転び八起き

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新しい音3

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「いぶきくん?」

 青柳さんの声で、我に返る。

「あ、すみません」
「大丈夫?」
「はい」

 また弦を弾く。

 でも、さっきまでの無邪気な楽しさは、少しだけかげっていた。

「どう?ギター」
「楽しいです」
「だよね」

 青柳さんが笑う。

 窓の外では、秋の夕日が沈みかけていた。
 部屋に差し込むオレンジ色の光。
 ギターを抱えたまま、ふと思う。

 ──唯川は、今どこで何をしてるんだろう。

 ***

 気づけば、二時間が過ぎていた。

「あ、もうこんな時間……」
「今日はこのくらいにしよう」

 ギターを置くと、左手の指先が赤くなっていた。
 ヒリヒリする痛み。上達している証に思えた。

「また教えてあげるよ」
「いいんですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます」

 帰ろうとした時、青柳さんが呼び止めた。

「待って」

 青柳さんはさっき使っていたアコースティックギターを持ってきた。

「これ持って行っていいよ。家でも練習して」

 ギター。
 弾きたい。でも……
「家に小さい弟や妹がいて、壊すかもしれないのでやめときます」

「そうか~。新しいの買おうと思ってたから別にいいんだけど。」
「すみません」
「じゃあ、別のもの渡す」

 青柳さんは、机から何かを取り出していた。

「これ」

 差し出されたのは、青いピック。
 深い海のような色をしていた。

「さっき使ってた赤いやつの相棒。昔誰かにもらったんだけど、最初の一本は、これがいいと思う」

 青柳さんは懐かしむようにそれを見ている。
 受け取った瞬間、何か大切なものを預かったような気がした。

「ありがとうございます」
「落とすなよ。それ、世界に一つしかないから」
「え、そんなの使えませんよ」
「嘘だよ」

 青柳さんは笑ったあと、煙草を取り出した。
「じゃあいぶきくんまたね」
「はい」

 部屋を出る前に、もう一度振り返った。
 青柳さんは窓際で煙草を吸っていた。
 夕日に照らされた横顔が、少しだけ寂しそうだった。

 その煙の向こうで、ギターが静かに光っていた。

 ***

 帰り道、スマホを見た。
 唯川からの連絡はなかった。

 もらったピックをポケットから出した。

 唯川のピアノの音。
 青柳さんのギターの音。

 どちらも音楽。
 でも、俺の中で何かが変わり始めていた。

 それが何なのか、まだわからない。
 ただ、胸の奥が少しざわついていた。

 スマホを手に取る。
 唯川の名前を見つめる。

 でも、メッセージは打てなかった。
 何を伝えればいいのか、わからない。

 暗い夜道を街頭の光だけが照らしていた。
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