夜明けの旋律─二人の繋いだ手の先に待ち受けるもの─

七転び八起き

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弾けない2

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 その言葉を嬉しく感じた。
 それなのに、同時に何かがのしかかってくる。

 ──制服を脱いだ瞬間から、もう青春は終わるんだよ。そして夢から覚める。

 青柳さんの言葉が浮かんだ。

「唯川…今はそう感じるかもしれないけど、この先の人生の方が長いだろ。俺たち」

 唯川に言いながら、自分にも言い聞かせていた。

「俺、ここで、唯川が立ち止まってしまったら。ピアノを始めたことを後悔する」

 まるで時が止まったかのように、俺達は動けなくなってしまった。

「いぶきがいたから、また弾けるようになったんだよ」

「…うん」

 俺は、この美しい、孤高の天才をどう扱えばいいか全くわからなかった。

 俺はただのきっかけにすぎない。
 俺は特別でもなんでもない。
 唯川のこれからの人生を自分が狂わせるのは絶対嫌だった。

「ピアノはちゃんと続ける。唯川と時間が合った時。だから…それでいいだろ」

 暫く沈黙が続いた後、唯川の手が俺の手に触れた。

「いぶきは俺のこと、どう思っているの?」

 それは──
 未だにはっきりしていない。でも。

「憧れているし、尊敬している。大切で特別な存在だよ」

 それに間違いはなかった。

「俺もそうだよ。いぶきは大切で特別」

 それは今だけかもしれない。
 もうどうすればいいかわからない。

 その時、唯川と唇が重なった。
 舌先が触れた。

 初めての感覚に体がこわばった。
 唯川はそのまま境界を越えて踏み込んでくる。

 これはなんなんだ。
 俺をどうしたいんだ。

 シャツの裾から細い指先が入ってきて、あばら骨をつたう。

 冷たい。

 唯川が熱を帯びていく。
 衿がはだけて、唇が寄せられる。

 この先にはいったい何があるのか、まったくわからない。

「いぶき、好きだよ」

 その時、唯川の手が中心に触れた。

 びっくりして腕を掴んだ。

「なにするんだよ」

 乱れる呼吸の中、戸惑いで胸の中がざわめく。

 唯川は俯いた。

「ごめん。俺、頭おかしいのかもしれない」

 綺麗な顔が歪んでいく。

「止められない。いぶきが欲しくて仕方がない」

 唯川は身だしなみを整えて、鞄を持って、足早に音楽室を出て行った。

 静寂に包まれた。

 心臓は破裂しそうなくらい、脈打っている。
 唯川とどう接すればいいか、全くわからない。

 混沌とした闇の中、答えを探し続けていた。
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