夜明けの旋律─二人の繋いだ手の先に待ち受けるもの─

七転び八起き

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仲間

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 ハンドベルを持った人が青柳さんに近づく。

「あの……一緒に演奏参加してもいいですか?」

 突然の提案。

「いぶきくん、どうする?」
 青柳さんがいぶきに聞く。

「いいですよ。是非、一緒に演奏してください」
 いぶきに躊躇はなかった。

 青柳さんが場を仕切っていく。
 この人はたぶんこういう経験を何度もこなした人だ。

 一人で弾いてきた俺。
 バンドで集団で合わせる音楽をしてきた彼。

 人との調和、協調性が全然違う。

 いぶきはこの人の音楽に触れて、大きく変わったのだろう。

 閉じた音楽の世界ではなく、自由な音楽の世界。
 特別じゃなくても楽しめるステージ。

 完璧でなくても調和がとれている音楽。
 一体感。

 初めての感覚だ。

 自分の中でも何かが目覚めていく。

 ***

 本番までステージを見ながら考える。
 音楽とはいったいなんなのか。

 己の才能を披露し、評価される世界にいた。
 でもきっともっと自由でいいのかもしれない。

 とうとう本番がくる。

 皆がステージの所定の場所につく。

 いぶきが緊張した面持ちで椅子に座ってギターを構える。
 いぶきの目の前にスタンドマイク。

 ──まさか

 青柳さんがカウントを出した後。
 いぶきが歌いだした。

 いぶきの歌声。
 いつもの声と違う。

 語りかけるような声。
 拙い英語の発音。
 でも心に触れるような優しさがある。

 それに合わせてギターを弾く。
 青柳さんがいぶきを見て合わせる。

 予定していた通りに弾く。
 慎重に。
 いぶきの世界を壊さないように。

 いぶきの真剣な眼差しでわかる。
 一生懸命練習したんだろう。

 いぶきは完璧じゃない。
 でも一生懸命音楽に向き合っている。

 それが伝わる。
 だから俺も、音楽にちゃんと向き合おうと思えた。

 いぶきは俺を追いかけて弾いているわけじゃない。
 自分の音楽を奏でている。

 いぶきに縋っていた俺。
 いぶきのために続けようとしたピアノ。

 それはただいぶきを縛ろうとしていたのかもしれない。

 いぶきはもっと自由でいるべきだ。
 そしたらいぶきの世界はもっと広がる。

 ハンドベルが響く。
 鈴の音が鳴る。

 会場から歌声が聞こえる。
 観客との一体感。

 ピアノを上手に弾く、そんな気持ちはなくなっていた。

 ただ、この世界に溶け込んでいた──

 気が付いたら終わっていた。

 いぶきは放心状態だった。

 いぶきが俺を見る。

 お前は立派だった。
 俺の想像のはるか上をいっていた。

 青柳さんがいぶきに親指を立てる。

 会場から温かい拍手。

 この時、心に温かいものが溢れてきた。
 もしかしたら、俺がほしかったものはこれなのかもしれない。
 孤独な音楽ではなく、人の心を動かす音楽。
 この瞬間のこの気持ちを胸に刻んだ。

 舞台脇に戻る。

「いぶき、凄く歌よかったよ」

 いぶきが振り返る。

「ありがとう」

「惚れ直すね」
 青柳さんがからかう。

「じゃあ、俺は行く。いぶき、一緒に演奏させてくれてありがとう」

 いぶきと目が合う。

 俺たちは、ステージで音楽を奏でた仲間だ。
 自分の足で立ったいぶきを、この時、一人のアーティストとして見ていた。

 二人の未来がずっと見えなかった。
 でも、この時、少し何かわかった気がした。

 離れていても、俺たちは繋がっていると。
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