夜明けの旋律─二人の繋いだ手の先に待ち受けるもの─

七転び八起き

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新学期

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 とうとう新学期が始まった。

 新年初の学校。
 澄んだ冬の空、澄んだ空気。
 一度リセットされたような世界。

 でも同じように続く日常。

 息が白く空中に溶ける。

 分厚いコートを着て校門まで歩いていると、声がする。

「いぶきあけおめ~」
 前田だった。

「唯川と年越しした?」
 またからかってくる。

「……うるさい」
「あ、唯川来た!」

 前田の言葉に驚いて振り返ると、少し離れた場所から唯川が見えた。

 クリスマス以来会っていなかった。
 話したい。

「いぶき、行けよ」
 前田に押される。

「いや、でも」
「いや、行け」

 思い切り唯川の方に押し出された。
 唯川の目の前に飛び出してしまった。

 二人で立ちすくんでいた。

「……おはよう、いぶき」

 電話越しじゃない、唯川の優しく澄んだ声。
 少し短くなった髪。
 陽に照らされて優しく煌めく瞳。

「おはよう」

 そのまま二人で昇降口に行った。

 上靴に履き替える。
 唯川が待っている。

 二人で階段を上る。
 別の教室に分かれる直前。

「あ、唯川、昼休み、屋上で待ち合わせ、いいかな」
 ぎこちなく言ってしまう。

「うん、行く」
 そう言って、唯川がクラスに行く。

 その後姿を見ていた。

「いぶき、やっぱり好きなんだな唯川のこと」
 前田がいつの間にか近くにいる。

「だったらなんなんだよ」
「もう隠さないんだな」

 堂々と言うつもりも、こそこそ隠すつもりもない。

 ただ、一緒にいたい。それだけだ。

 ***

 寒い。
 一月の風が身に染みる。
 でも心は燃えている。

 待っている。

 唯川と二人になれる瞬間を。

 暫くすると足音が聞こえてきた。

 唯川が来た。

 胸に熱いものが込み上げてくる。

「来たよ」
「うん」

 唯川が隣にくる。

「寒いよね」
「うん。でも大丈夫」

 暫く沈黙が続いた。

 話すことが浮かばなくて困っていた。
 会いたいだけで何もそれ以上考えてなかった。

「いぶきの歌また聴きたい」

 突然唯川がいいだした。

「え?」
「すごくよかった」

 唯川に褒められて嬉しくてたまらなかった。

「ありがとう」
「次はピアノで弾き語りして欲しいな」

 目が合う。

「わかったよ。自信ないけど」
「楽しみ」
「ちなみにどんな曲がいい?」
「えーとね……」

 唯川がスマホで見せてきた曲は、たまにテレビで聴く有名な昔の邦楽だった。

 切ないバラード。
 でも希望がある優しい曲。
 愛する人の幸せを願う歌。

 でも

「これ女性アーティストだよね」
「うん」
「音程が……」
「音程を変えればできるよ」

 楽譜がないと弾けない。
 でも願いを叶えたい。
 でもまだ実力がない。

「はぁ」
「いぶきどうしたの?」

 空を見上げる。

 唯川と並びたい。
 同じ場所に立ちたい。

 また一緒に音楽を奏でたい。

「俺、頑張る」
「あ、別に今すぐ聴きたいとかじゃないから、いつか聴けたらで」
「いや、そうじゃない」
「え?」

 唯川がやや困っている。
 唯川の手を優しく握った。

 細い指先。
 柔らかくて暖かい。

 冷たい風に吹きつけられながらも、俺たちはずっと屋上にいた。

 ***

 昼休みが終わり、教室に戻った。
 席に着く。
 頭の中で、あの曲のメロディが流れ続けている。

 スマホを取り出した。
 イヤホンをつけて、もう一度曲を聴く。

 優しいメロディ。
 切ない歌詞。

 サビに入る。
 声が高くなる。

 小さく口ずさんでみた。
 声が裏返りそうになる。

「……無理だ」

 でも諦めたくない。

 どうすれば。

 ──そうだ。

 音楽の先生なら、何か方法を知ってるかもしれない。

 チャイムが鳴った。
 次の授業が始まる。
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