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君を想う
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放課後、職員室に行った。
開いているドアから中を覗く。
音楽の中村先生がいた。
「中村先生、ちょっといいですか?」
先生が振り返る。
黒い髪、眼鏡をかけた女性教師。
「あ、柏木くん!最近二人とも弾いてないから寂しくて」
こっちに来る。
「どうしたの?」
スマホの画面を見せた。
「この曲知ってますか?」
「知ってるよ!この曲大好き」
先生の顔が高揚する。
「この曲の楽譜がほしくて…」
「ネットにあるかもしれないから探してみようか?」
先生が席に戻って、ノートパソコンで調べている。
「これがいいかも!」
楽譜をプリントしてくれた。
「ありがとうございます。あと、歌詞も知りたいんです」
先生が目を丸くする。
「え、もしかして歌うの?」
「はい、弾き語りがしたくて」
「私も聴きたい!」
まずいこれは。
でも背に腹は変えられない。
「……協力してくれませんか?」
「え、他に何か?」
「高くて歌えないんです」
先生がプリントを覗き込む。
「女性ボーカルだもんね。サビが高いでしょ」
「はい。喉がひっくり返りそうで…」
「キーを下げてみよう」
先生が赤ペンを取り出す。
「二つ下げれば歌いやすくなる」
「音も変わっちゃいますか?」
「少し落ち着いた響きになる。でも自分の声に合うほうが大事」
先生が微笑む。
「音楽室、行ってみる?」
「はい!」
***
音楽室の鍵が開く音が響く。
薄暗い部屋。
夕陽がピアノを照らしていた。
先生がピアノの前に座る。
「まず、原曲のキーで弾くね」
高く明るい音が流れる。
「ほら、少し眩しい音でしょ?」
次に、先生は少し左に手をずらした。
「これが下げた音」
低く優しい音が広がる。
「……こっちのほうが、合いそうです」
「そう。無理しないで、自分に合う高さで響かせるの」
先生が席を譲った。
「弾いてみて」
ピアノの前に座る。
楽譜を見つめる。
赤ペンで書かれた音。
指を置いて、一音を鳴らす。
低めの、優しい響き。
「うん、いい音」
先生の言葉に小さく頷いた。
胸の奥に、小さな火が灯る気がした。
しばらく練習したあと、先生が時計を見た。
「そろそろ会議があるから戻るね。鍵はあとで職員室に持ってきて」
「はい。ありがとうございました」
「頑張ってね」
ドアが閉まる。
静寂が戻った。
もう一度、鍵盤に指を置く。
和音をゆっくり鳴らす。
低くて優しい音が、空気を震わせる。
繰り返すたびに、指先が迷わなくなっていく。
サビを歌ってみた。
自分が歌いやすい音になった。
これなら、いける。
楽譜を見つめる。
完璧じゃない、俺の音楽に魂が宿った。
それから唯川の誕生日まで、毎日音楽室で放課後練習をした。
唯川を思い浮かべながら。
開いているドアから中を覗く。
音楽の中村先生がいた。
「中村先生、ちょっといいですか?」
先生が振り返る。
黒い髪、眼鏡をかけた女性教師。
「あ、柏木くん!最近二人とも弾いてないから寂しくて」
こっちに来る。
「どうしたの?」
スマホの画面を見せた。
「この曲知ってますか?」
「知ってるよ!この曲大好き」
先生の顔が高揚する。
「この曲の楽譜がほしくて…」
「ネットにあるかもしれないから探してみようか?」
先生が席に戻って、ノートパソコンで調べている。
「これがいいかも!」
楽譜をプリントしてくれた。
「ありがとうございます。あと、歌詞も知りたいんです」
先生が目を丸くする。
「え、もしかして歌うの?」
「はい、弾き語りがしたくて」
「私も聴きたい!」
まずいこれは。
でも背に腹は変えられない。
「……協力してくれませんか?」
「え、他に何か?」
「高くて歌えないんです」
先生がプリントを覗き込む。
「女性ボーカルだもんね。サビが高いでしょ」
「はい。喉がひっくり返りそうで…」
「キーを下げてみよう」
先生が赤ペンを取り出す。
「二つ下げれば歌いやすくなる」
「音も変わっちゃいますか?」
「少し落ち着いた響きになる。でも自分の声に合うほうが大事」
先生が微笑む。
「音楽室、行ってみる?」
「はい!」
***
音楽室の鍵が開く音が響く。
薄暗い部屋。
夕陽がピアノを照らしていた。
先生がピアノの前に座る。
「まず、原曲のキーで弾くね」
高く明るい音が流れる。
「ほら、少し眩しい音でしょ?」
次に、先生は少し左に手をずらした。
「これが下げた音」
低く優しい音が広がる。
「……こっちのほうが、合いそうです」
「そう。無理しないで、自分に合う高さで響かせるの」
先生が席を譲った。
「弾いてみて」
ピアノの前に座る。
楽譜を見つめる。
赤ペンで書かれた音。
指を置いて、一音を鳴らす。
低めの、優しい響き。
「うん、いい音」
先生の言葉に小さく頷いた。
胸の奥に、小さな火が灯る気がした。
しばらく練習したあと、先生が時計を見た。
「そろそろ会議があるから戻るね。鍵はあとで職員室に持ってきて」
「はい。ありがとうございました」
「頑張ってね」
ドアが閉まる。
静寂が戻った。
もう一度、鍵盤に指を置く。
和音をゆっくり鳴らす。
低くて優しい音が、空気を震わせる。
繰り返すたびに、指先が迷わなくなっていく。
サビを歌ってみた。
自分が歌いやすい音になった。
これなら、いける。
楽譜を見つめる。
完璧じゃない、俺の音楽に魂が宿った。
それから唯川の誕生日まで、毎日音楽室で放課後練習をした。
唯川を思い浮かべながら。
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