夜明けの旋律─二人の繋いだ手の先に待ち受けるもの─

七転び八起き

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誕生日

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 唯川の誕生日。

 今日は朝から空が重かった。
 静かな寒さと静けさに包まれていた。

 自宅から出ると、息が真っ白になった。
 ヒリヒリする寒さだった。

 バス停に並んでる間に唯川とのトーク画面を見て会話を遡る。
 二人の記憶の爪痕。

 バスが来て排気ガスが真っ白に吹き上がる。

 既に人が入る余地がない空間に無理やり体をねじこむ。
 空気が薄く、色々な人の匂いが混ざる。
 バスに揺られながら、暫くしてやっと学校が見える。

 やっと解放される。

 冬の匂いを体中に吸い込む。

 いつものように、校門をくぐり、昇降口に入る。
 上履きに履き替える。
 階段を上って教室に着く。
 席について荷物を置いて一息。

 リュックから水筒を取り出して、熱いほうじ茶を飲む。
 全身にやっと血が廻ったような気がした。

 朝のホームルームが始まる。

「あ、雪!」

 クラスの女子が騒いだ。

 窓の外を見ると、小さな花弁のように雪がゆっくりと落ちていく。

 これは積もるのだろうか。
 帰りはどうなるか。
 そんな心配をしていた。

 ***

 昼休み、唯川と屋上の軒下で空を眺める。

 はらはらと雪が舞う。

「積もるかな」
 俺が呟く。

「積もることってかなり珍しいよね」
 唯川が答える。

「唯川」
 俺が呼ぶ。

「なに」
 唯川が振り向く。

「誕生日おめでとう」

 唯川が少しだけ微笑む。
「ありがとう」

 あまり言葉も交わせないまま終わる昼休み。

 それだけでも十分だった。

「じゃあ、放課後音楽室で」
「うん」

 二人で屋上から教室に向かって歩く。

 離れる瞬間少しだけ手に触れる。

 教室に戻る。

 ***

 雪はだんだんと勢いを強めて、ぼたぼたと空から落ちてくる。
 グラウドの土はほとんど見えなくなった。
 窓の外が白い世界に包まれる。

 授業が終わるころには、積もっていて、バスも遅延しているとのことだった。

 俺は予定通りに音楽室に行く。
 三階の音楽室周辺はとても静かだった。
 音楽室を覗くと、まだ誰も来ていなかった。

 リュックを置いて、ピアノの前に座る。
 鍵盤の蓋を開けて指を置く。
 和音を鳴らす。

 とても澄んで聞こえる。
 雪のせいだろうか。

 ゆっくり落ち着いた足音が遠くから聞こえる。
 唯川の音だ。
 唯川がゆっくりと入ってきた。

「忙しいのにごめん」
「大丈夫だよ。今日は少し遅れるって伝えたから」
「そうか」

 俺は、自分のリュックから箱を取り出した。
 それを唯川に差し出した。

「これ、誕生日プレゼント」
「え、プレゼント」

 唯川が驚いている。

「うん、開けて」

 唯川が包み紙を丁寧に開け、箱を取り出す。
 箱をゆっくりと開ける。

「あ、時計……!」

 唯川が時計を手に持つ。
 じっくりと眺めている。

「素敵な時計だ。ありがとう。大切にする」

 唯川は時計を腕につけた。
 まるで唯川のために存在しているかのように、違和感なくなじんでいる。

「唯川、そこに座ってほしい」

 ピアノの近くの座席を指定した。
 唯川は頷いてその席に腰を下ろした。

 ピアノの椅子に座る。
 深呼吸をする。
 鍵盤に指を置く。

 ゆっくりと前奏を弾き始めた。
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