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二章 やっと始まるラウトの旅
35.王子モスティー
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「誰か来たわね。王子かしら・・・」
私は足音が近づいてくるのに気づいてそう呟いた。
足音は部屋のドアの向こうで止まった。
ーートントン
「入るよ」
ノックと同時に聞こえたのは、若い男の声だった。
男はドアが開き中に入って来た。
それに続くように3人の護衛らしき女も入って来る。
男は鎧を身に纏っていた。
体格もよく、背も高かったから近づいた時、見上げる形となった。
「初めましてだね。私はこの国の王子で、この街を治めているモスティーだ。普段はモッティーと呼ばれている。覚えておくと良い」
「・・・はぁ」
私はモスティーとか言う王子の自己紹介を聞き、興味なさげに相槌を打った。
しかし、言葉が分からないのではない。
ちゃんと、自動翻訳の効果が出て意味は伝わった。
「少し質問をしてもいいかね?」
「何かしら」
「君は異世界人だね?」
モスティーと名乗った王子から飛び出た言葉は衝撃的で思わず身構えてしまった。
「その反応は当たりのようだね」
しまった、失態だ。
一方的に情報を渡してしまったようなものだ。
私は王子への警戒を強めた。
「そう警戒しないでくれないか。私は別に害そうと考えているわけではない。ただ、異世界というものに興味があるのだ。この世界には様々な世界から転生や転移して来る者がいると、王族の伝承に残っている。その伝承には君の外見によく似た者の言い伝えも残っていてな。私はそういう異世界人らしき者を見つけて、異世界について色々と聞いて回っている」
モスティーはそう説明した。
だが、私はそう簡単に信用しない。
交渉は昔から得意ではなかったから、弟の春輝に任せることが多かった。
私は春輝に「姉さんは安易に信用せず、自分にも相手にも損益が出ない道を探すのが合ってると思う」とアドバイスされたことがあったのを思い出し、それに従う。
「あなたが異世界について知りたいのは分かったわ。でも、話してあげる筋合いもないわね」
「貴様!!」
私がそう結論づけると、後ろに控えていた女の護衛が鬼のような形相で掴みかかろうとしてきた。
私の口調が気に入らなかったようだ。
私は伸びてきた手を躱し、後ろに回り込んで腕を締め上げた。
「何をする!!」
「こっちのセリフよ。あなたが掴み掛かってきたのでしょう?」
ーーパチパチパチ
音の方を見るとモスティーが拍手をしていた。
「素晴らしい動きだ。それでも彼女は優秀な騎士なのだ。それを一瞬で無力化できる者はそういない。しかし、部下が失礼を働いたのは謝罪するから、許してやってくれないか?」
モスティーは護衛の女を指差しながら言った。
私は脅威になりそうにない護衛の女を解放してあげた。
「申し訳ありません。モスティー様の顔に泥を塗る真似をしてしまいました」
女の護衛は解放されるなり、モスティーに頭を下げた。
「謝る相手が違うよ」
モスティーは笑いながら言った。
「申し訳ありませんでした」
モスティーの言葉にハッとした護衛の女は、振り返って謝罪してきた。
「別に怒ってないわ。護衛としては正しいもの。ただ、一人の人間としては礼儀がない行動ね。気をつけなさい」
私は窘めるような口調で告げた。
昔から、誰にものをいう時にも、物怖じしない性格なため、大人にもしばしば命令口調をして、怒りを買うことがあった。
でも、それを正論で説き伏せるだけの知識と胆力があったため、大人からは嫌われ、お調子者でよく叱られるような子供からは親しまれた。
「君には教育者の素質がありそうだね」
私の言動を見ていたモスティーがそう言った。
前に春輝にも言われたことがある。
少し懐かしさを感じた。
ただ、今そんな事はどうだっていい。
「これ以上、話がないなら私は帰らせてもらうわ」
私は関係ない話題に会話が進みそうだったので、そう言った。
「そうだね。なら最後にひとつだけアドバイスをあげよう。この世界で異世界人が生きていくには、2つの要素が必要だ。一つは強さだね。君は強さに関してはあまり心配しなくて良さそうだけど、油断はしないことだね。
そしてもう一つの要素はフレキシビリティーだ」
「フレキシビリティー?柔軟な対応力ってことかしら?」
「正解。ここは君のいた世界とは似ても似つかないことがたくさんあるだろう?それに自分の常識を押し付けるのは良くない。分かるかい?」
「確かにそうね」
「この2つの要素があれば、君はここでの生活に苦労はしないだろうね」
「アドバイスはありがたく受け取っておくわ。それと貴方も教育者の才能があるわよ」
私は軽口を挟みつつお礼を言った。
その軽口にモスティーは笑って答えた。
「私は教育者ではなく、啓蒙者だよ」
その言葉に私は納得した、今までの彼の言動は確かに啓蒙の類いが多い。
なるほど、そういう意味では彼は立派に王子たる働きをしている。
私は素直に感心した。
「彼女を近くの宿まで案内してあげなさい」
モスティーは護衛の一人にそう声をかけた。
「はっ!では、ついて来てください」
声をかけられた女が立ち上がり、私を案内してくれた。
色々あったが、こうして私は街に入ることが出来たのであった。
ただ、私は大事な問題を見逃していた。
それは美玲がモスティーと会話している間、美玲が手に持って開かれていた説明書に《なんで、こいつがここにいるんだよ》という文章を密かに表示していたことだ。
しかし、それに気づいた者は誰一人いなかった。
私は足音が近づいてくるのに気づいてそう呟いた。
足音は部屋のドアの向こうで止まった。
ーートントン
「入るよ」
ノックと同時に聞こえたのは、若い男の声だった。
男はドアが開き中に入って来た。
それに続くように3人の護衛らしき女も入って来る。
男は鎧を身に纏っていた。
体格もよく、背も高かったから近づいた時、見上げる形となった。
「初めましてだね。私はこの国の王子で、この街を治めているモスティーだ。普段はモッティーと呼ばれている。覚えておくと良い」
「・・・はぁ」
私はモスティーとか言う王子の自己紹介を聞き、興味なさげに相槌を打った。
しかし、言葉が分からないのではない。
ちゃんと、自動翻訳の効果が出て意味は伝わった。
「少し質問をしてもいいかね?」
「何かしら」
「君は異世界人だね?」
モスティーと名乗った王子から飛び出た言葉は衝撃的で思わず身構えてしまった。
「その反応は当たりのようだね」
しまった、失態だ。
一方的に情報を渡してしまったようなものだ。
私は王子への警戒を強めた。
「そう警戒しないでくれないか。私は別に害そうと考えているわけではない。ただ、異世界というものに興味があるのだ。この世界には様々な世界から転生や転移して来る者がいると、王族の伝承に残っている。その伝承には君の外見によく似た者の言い伝えも残っていてな。私はそういう異世界人らしき者を見つけて、異世界について色々と聞いて回っている」
モスティーはそう説明した。
だが、私はそう簡単に信用しない。
交渉は昔から得意ではなかったから、弟の春輝に任せることが多かった。
私は春輝に「姉さんは安易に信用せず、自分にも相手にも損益が出ない道を探すのが合ってると思う」とアドバイスされたことがあったのを思い出し、それに従う。
「あなたが異世界について知りたいのは分かったわ。でも、話してあげる筋合いもないわね」
「貴様!!」
私がそう結論づけると、後ろに控えていた女の護衛が鬼のような形相で掴みかかろうとしてきた。
私の口調が気に入らなかったようだ。
私は伸びてきた手を躱し、後ろに回り込んで腕を締め上げた。
「何をする!!」
「こっちのセリフよ。あなたが掴み掛かってきたのでしょう?」
ーーパチパチパチ
音の方を見るとモスティーが拍手をしていた。
「素晴らしい動きだ。それでも彼女は優秀な騎士なのだ。それを一瞬で無力化できる者はそういない。しかし、部下が失礼を働いたのは謝罪するから、許してやってくれないか?」
モスティーは護衛の女を指差しながら言った。
私は脅威になりそうにない護衛の女を解放してあげた。
「申し訳ありません。モスティー様の顔に泥を塗る真似をしてしまいました」
女の護衛は解放されるなり、モスティーに頭を下げた。
「謝る相手が違うよ」
モスティーは笑いながら言った。
「申し訳ありませんでした」
モスティーの言葉にハッとした護衛の女は、振り返って謝罪してきた。
「別に怒ってないわ。護衛としては正しいもの。ただ、一人の人間としては礼儀がない行動ね。気をつけなさい」
私は窘めるような口調で告げた。
昔から、誰にものをいう時にも、物怖じしない性格なため、大人にもしばしば命令口調をして、怒りを買うことがあった。
でも、それを正論で説き伏せるだけの知識と胆力があったため、大人からは嫌われ、お調子者でよく叱られるような子供からは親しまれた。
「君には教育者の素質がありそうだね」
私の言動を見ていたモスティーがそう言った。
前に春輝にも言われたことがある。
少し懐かしさを感じた。
ただ、今そんな事はどうだっていい。
「これ以上、話がないなら私は帰らせてもらうわ」
私は関係ない話題に会話が進みそうだったので、そう言った。
「そうだね。なら最後にひとつだけアドバイスをあげよう。この世界で異世界人が生きていくには、2つの要素が必要だ。一つは強さだね。君は強さに関してはあまり心配しなくて良さそうだけど、油断はしないことだね。
そしてもう一つの要素はフレキシビリティーだ」
「フレキシビリティー?柔軟な対応力ってことかしら?」
「正解。ここは君のいた世界とは似ても似つかないことがたくさんあるだろう?それに自分の常識を押し付けるのは良くない。分かるかい?」
「確かにそうね」
「この2つの要素があれば、君はここでの生活に苦労はしないだろうね」
「アドバイスはありがたく受け取っておくわ。それと貴方も教育者の才能があるわよ」
私は軽口を挟みつつお礼を言った。
その軽口にモスティーは笑って答えた。
「私は教育者ではなく、啓蒙者だよ」
その言葉に私は納得した、今までの彼の言動は確かに啓蒙の類いが多い。
なるほど、そういう意味では彼は立派に王子たる働きをしている。
私は素直に感心した。
「彼女を近くの宿まで案内してあげなさい」
モスティーは護衛の一人にそう声をかけた。
「はっ!では、ついて来てください」
声をかけられた女が立ち上がり、私を案内してくれた。
色々あったが、こうして私は街に入ることが出来たのであった。
ただ、私は大事な問題を見逃していた。
それは美玲がモスティーと会話している間、美玲が手に持って開かれていた説明書に《なんで、こいつがここにいるんだよ》という文章を密かに表示していたことだ。
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