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4章 商人ピエールの訪れ
69.新しい仲間
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エルフは精霊族のうちの一つで代表的なものだと他にはドワーフなどがいる。
精霊族は共通して寿命が長く、歳をとっても外見があまり変化しないことも特徴的だ。
人間と似た外見だが、エルフは耳が長く、ドワーフは背丈が低いのであまり間違える事は少ない。
それは目の前にいるエルフの女性も同じで、耳が長く尖っている。
彼女は片方しかない腕で食事を取っていた。
スーはエルフの女性の前に立ってじっと見つめていた。
スーに見られていると気づいた彼女は微笑みを返していた。だが、その顔はどこか悲しげだった。
その表情は出会ったばかりのスーの顔に似ていて俺はその理由が気になった。
「失礼ですけど、どうして腕を失くしたのか教えてくれませんか?」
「良いですよ。でもあまり気持ちの良い話ではないのですが、大丈夫ですか?」
エルフの女性は見た目は幼いスーに視線を向けて言う。
「スーは聞きたくなければ聞かなくても良いよ」
「ううん、聞きたい」
「そうですか・・・」
スーの言葉を聞くとエルフの女性は顔を若干伏せて語り始める。
「私には妹がいたんです。私達が育った村の近くには森があって毎日のように2人で遊びに行ってました。それである日、妹が隠れんぼしたいと言って森で隠れんぼをしました。でもなかなか妹を見つけられず、困っていたときに妹の悲鳴が聞こえたんです。その声の方に走ると妹が魔物に囲まれていました。私は咄嗟に両親に護身用に持たされていた守護の結界という魔導具を妹に投げました。それで妹は守られたのですが、魔物の標的は私に変わったんです。私は標的が私に向いてる内に出来るだけ魔物を妹から遠ざけたくて、森の奥へ逃げました。でも、とうとう体力の限界がきて魔物に噛みつかれたときに、たまたま通りがかった冒険者の人に助けられたのです。でもその時にはもう腕はなく、折角助けてもらったのですが、この体ではまともに働くことも出来ず奴隷になったのです」
「妹さんは?」
「分かりません。無事だと良いのですが・・・」
彼女は話し終えると辛そうな笑顔を見せる。
スーがそっと手を伸ばして彼女の頬に触れる。
エルフの女性はスーの手を自分の右手で包みながら「ありがとう」と言って涙を流した。
辛い経験があるスーには分かることが多いのだろう。
俺も何かを失う辛さは分かるつもりだ。
エルフの女性は妹という大切な人との時間を失った。
「スーはどうしたい?」
俺は彼女を奴隷として買うか、いや、スーのある意味で家族のような存在になるに相応しいかどうか、それを聞いた。
「名前を教えて」
スーはエルフの女性に名を尋ねる。
「私はエラと言います」
「ラウト様、私はエラ、ううんエラお姉さんが良い」
スーはエラをお姉さんと言った。
彼女の心は決まったようだ。
「エラさん、俺たちはあなたを買いたいと思っています。あなたが望むなら失くした腕も俺なら治せます。どうかスーを守ってくれませんか?」
俺の言葉にエラだけでなく、スーも驚愕を露わにする。
欠損を治す魔法は不可能とされている。
理論的には可能でも人間が持つ魔力の量では何人集めても全く足りないからだ。
それが常識なのだ。
でも、常識とは常に事実と紙一重で異なるものである。
その証拠に俺という存在は常識では測りきれない点がいくつもある。
それを知ってるスーは俺が出来るという事も驚きはしたが、疑ってはいない様子だ。
一方でエラは信じていないらしく難色を示した。
「失った腕が戻ることはありません。私にはスーさんを守りたくても守れません」
「腕を治せる証拠を見せましょう」
それならばと俺はアイテムボックスからナイフを取り出すと腕を切りつけた。
切った所から血が滴る。
「何を!!」
エラもスーも顔を青くして見つめる。
「見ててください」
俺はそう言って切った腕に回復魔法を掛ける。
するとトクトクと流れ出ていた血が止まる。血を拭うと切ったはずの場所には傷ひとつなかった。
「そんな!?」
エラは目を疑った。
そこには切った形跡すらない。
でも床に落ちた血がさっきの出来事が夢でも幻でもないことを伝えてくる。
「本当に治せるんですか?」
「嘘でこんな面倒なことはしません。僕はあなたの本心を聞きたい。別に断ってくれても構いません。でも引き受けてくれるなら腕は必ず治します。スーを守ってくれませんか?」
「私なんかで良いのですか?妹すら守れたか分からないのに・・・」
そこで今まで黙って話を聞いていたスーが口を挟む。
「私はエラが良い」
短い言葉だが、本心からの言葉だった。
エラは少しスーを見つめてから俺に向き直って言った。
「任せてください。命に変えても守り抜きます」
エラから強い意志を感じた。
でも訂正するところもある。
「その気持ちは嬉しいですが、命と引き換えは許しませんよ」
こうして俺たちに新しい仲間ができたのだった。
精霊族は共通して寿命が長く、歳をとっても外見があまり変化しないことも特徴的だ。
人間と似た外見だが、エルフは耳が長く、ドワーフは背丈が低いのであまり間違える事は少ない。
それは目の前にいるエルフの女性も同じで、耳が長く尖っている。
彼女は片方しかない腕で食事を取っていた。
スーはエルフの女性の前に立ってじっと見つめていた。
スーに見られていると気づいた彼女は微笑みを返していた。だが、その顔はどこか悲しげだった。
その表情は出会ったばかりのスーの顔に似ていて俺はその理由が気になった。
「失礼ですけど、どうして腕を失くしたのか教えてくれませんか?」
「良いですよ。でもあまり気持ちの良い話ではないのですが、大丈夫ですか?」
エルフの女性は見た目は幼いスーに視線を向けて言う。
「スーは聞きたくなければ聞かなくても良いよ」
「ううん、聞きたい」
「そうですか・・・」
スーの言葉を聞くとエルフの女性は顔を若干伏せて語り始める。
「私には妹がいたんです。私達が育った村の近くには森があって毎日のように2人で遊びに行ってました。それである日、妹が隠れんぼしたいと言って森で隠れんぼをしました。でもなかなか妹を見つけられず、困っていたときに妹の悲鳴が聞こえたんです。その声の方に走ると妹が魔物に囲まれていました。私は咄嗟に両親に護身用に持たされていた守護の結界という魔導具を妹に投げました。それで妹は守られたのですが、魔物の標的は私に変わったんです。私は標的が私に向いてる内に出来るだけ魔物を妹から遠ざけたくて、森の奥へ逃げました。でも、とうとう体力の限界がきて魔物に噛みつかれたときに、たまたま通りがかった冒険者の人に助けられたのです。でもその時にはもう腕はなく、折角助けてもらったのですが、この体ではまともに働くことも出来ず奴隷になったのです」
「妹さんは?」
「分かりません。無事だと良いのですが・・・」
彼女は話し終えると辛そうな笑顔を見せる。
スーがそっと手を伸ばして彼女の頬に触れる。
エルフの女性はスーの手を自分の右手で包みながら「ありがとう」と言って涙を流した。
辛い経験があるスーには分かることが多いのだろう。
俺も何かを失う辛さは分かるつもりだ。
エルフの女性は妹という大切な人との時間を失った。
「スーはどうしたい?」
俺は彼女を奴隷として買うか、いや、スーのある意味で家族のような存在になるに相応しいかどうか、それを聞いた。
「名前を教えて」
スーはエルフの女性に名を尋ねる。
「私はエラと言います」
「ラウト様、私はエラ、ううんエラお姉さんが良い」
スーはエラをお姉さんと言った。
彼女の心は決まったようだ。
「エラさん、俺たちはあなたを買いたいと思っています。あなたが望むなら失くした腕も俺なら治せます。どうかスーを守ってくれませんか?」
俺の言葉にエラだけでなく、スーも驚愕を露わにする。
欠損を治す魔法は不可能とされている。
理論的には可能でも人間が持つ魔力の量では何人集めても全く足りないからだ。
それが常識なのだ。
でも、常識とは常に事実と紙一重で異なるものである。
その証拠に俺という存在は常識では測りきれない点がいくつもある。
それを知ってるスーは俺が出来るという事も驚きはしたが、疑ってはいない様子だ。
一方でエラは信じていないらしく難色を示した。
「失った腕が戻ることはありません。私にはスーさんを守りたくても守れません」
「腕を治せる証拠を見せましょう」
それならばと俺はアイテムボックスからナイフを取り出すと腕を切りつけた。
切った所から血が滴る。
「何を!!」
エラもスーも顔を青くして見つめる。
「見ててください」
俺はそう言って切った腕に回復魔法を掛ける。
するとトクトクと流れ出ていた血が止まる。血を拭うと切ったはずの場所には傷ひとつなかった。
「そんな!?」
エラは目を疑った。
そこには切った形跡すらない。
でも床に落ちた血がさっきの出来事が夢でも幻でもないことを伝えてくる。
「本当に治せるんですか?」
「嘘でこんな面倒なことはしません。僕はあなたの本心を聞きたい。別に断ってくれても構いません。でも引き受けてくれるなら腕は必ず治します。スーを守ってくれませんか?」
「私なんかで良いのですか?妹すら守れたか分からないのに・・・」
そこで今まで黙って話を聞いていたスーが口を挟む。
「私はエラが良い」
短い言葉だが、本心からの言葉だった。
エラは少しスーを見つめてから俺に向き直って言った。
「任せてください。命に変えても守り抜きます」
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