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7章 組織の暗躍
114.作戦完遂。そして身に覚えのある噂
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ある程度、読み進めて視線を上げる。
これは誰かの体験談を纏めたものなのか、書類には報告書のように、事実だけが淡々と記されていた。
内容を要約すると、この世界は神によって管理されていて、定期的に異世界ーーつまり地球から人を連れてきている、と言うものだ。
俺が知っている神についての情報と、概ね矛盾はない。
会った事はないが、本当に俺たち以外にもこの世界に来た地球人がいるのだろう。
神に転生させられた俺にとっては、かなり馴染み深い内容だったが、スーとヒアにはそうではなかったらしい。
お互いに顔を見合わせて驚いた顔をしている。
「これって本当なの?」
ヒアは信じきれない様子で尋ねてくる。
だが、神本人からも聞いた話なので間違いない。
「事実だろうね。俺も神に連れて来られたし」
そう伝えると考え込むように口を閉ざす。
2人にとっては理解しがたい事だろう。
俺も最初に神を名乗る男と会った時は、胡散臭いと思って信じなかった。
それに、この世界には宗教のようなものが発展していない。
神という概念自体も曖昧なものなはずだ。
すぐには飲み込めないだろうと思っていたのだが……
「知らなかったけど、ラウトみたいな規格外の人?がいるのね……」
「ラウト様が2人は想像するだけで怖い」
2人は割とすんなり受け入れた。
どうやら神の存在を否定するほどの固定観念もなかったため、納得してしまったらしい。
知識不足が良い方向に働いたな。
「思ったより重要な情報が得られたね。一応、他にも有力な情報がないか探して帰ろうか」
「「了解」」
2人は頷くと、まだ手をつけていない書類の山を崩し始めた。
それからしばらく漁ったが、更なる発見は無かった。
これから転移で帰るわけだが、その前にやっておく事がある。
今回の作戦では複数人に姿を見られているので、放っておくと手配書が国中のあちこちに貼られかねない。
なので記憶を消す必要がある。
このために俺は前々から魔導具を作っていたのだ。
この魔導具の作成には、とても苦労した。
第一に、記憶を操る類いの魔法は、この世界には存在しないのだ。
なので、久しぶりに地球で使っていた魔法を使用した。
感覚を忘れていたので、思い出すのにかなり時間が掛かった。
さらに、俺だけが使えるのでは意味がないので、組織のみんなが使えるように魔導具に魔法を付与したのだが、それが難しかった。
付与は魔法を発動させずに、魔力の動きだけを再現するような技術なので、普通に魔法を使うより大変なのだ。
そんな苦労を経て作成した魔導具を、やっと使う時が来た。
魔力はすでに充填してあるので、起動をスーに頼む。
スーが魔導具に、ほんの少し魔力を流し込んで起動させる。
すると、魔導具に付与された魔法が発動して王城全体に効果を及ぼした。
これの効果は『直近の1時間に出会った人物の風貌を思い出せなくなる』と言うものだ。
スーやヒアも効果範囲内にいるので、ハルドの顔つきなどを思い出せないはずだ。
「スー、国王の顔を思い出せる?」
「……ダメ。思い出せない」
スーに聞いて、効果がちゃんと現れているのを確認する。
自分で確かめられれば良いのだが、魔導具に付与したのは俺の魔法なので自分には効果がないのだ。
ともかく、これで記憶の消去は完了だ。
「これで作戦は完遂だね。さあ帰ろうか」
「うん!」
ヒアが元気に返事して、スーも頷く。
それを確認して俺は転移魔法を発動させてシェルターへ飛ぶ。
こうして俺たちは王の書斎を後にした。
☆
作戦から2日ほど経った日の事だった。
屋敷のテーブルを囲み、みんなでのんびりと食事をしていた時、暎斗が街で聞いた噂を話題に上げた。
「なんかよぉ、王都で怪しい組織が活動してるらしいぜ。図書館の書庫に侵入したとか、王城の衛兵達がたった3人相手に手も足も出なかったとか……」
「本当なら怖いね。まあハルくんがいるから大丈夫かな?」
穂花も暎斗に同調するように反応を示した。
そんな中、身に覚えのあるその噂にスーとエラは僅かに身を固くする。
2人にとっては反応し辛い会話だろうなと俺は思う。
噂の元凶が目の前にいるとも知らずに、穂花と暎斗は会話を広げる。
その状況は珍妙で見ていて少し面白かった。
これは誰かの体験談を纏めたものなのか、書類には報告書のように、事実だけが淡々と記されていた。
内容を要約すると、この世界は神によって管理されていて、定期的に異世界ーーつまり地球から人を連れてきている、と言うものだ。
俺が知っている神についての情報と、概ね矛盾はない。
会った事はないが、本当に俺たち以外にもこの世界に来た地球人がいるのだろう。
神に転生させられた俺にとっては、かなり馴染み深い内容だったが、スーとヒアにはそうではなかったらしい。
お互いに顔を見合わせて驚いた顔をしている。
「これって本当なの?」
ヒアは信じきれない様子で尋ねてくる。
だが、神本人からも聞いた話なので間違いない。
「事実だろうね。俺も神に連れて来られたし」
そう伝えると考え込むように口を閉ざす。
2人にとっては理解しがたい事だろう。
俺も最初に神を名乗る男と会った時は、胡散臭いと思って信じなかった。
それに、この世界には宗教のようなものが発展していない。
神という概念自体も曖昧なものなはずだ。
すぐには飲み込めないだろうと思っていたのだが……
「知らなかったけど、ラウトみたいな規格外の人?がいるのね……」
「ラウト様が2人は想像するだけで怖い」
2人は割とすんなり受け入れた。
どうやら神の存在を否定するほどの固定観念もなかったため、納得してしまったらしい。
知識不足が良い方向に働いたな。
「思ったより重要な情報が得られたね。一応、他にも有力な情報がないか探して帰ろうか」
「「了解」」
2人は頷くと、まだ手をつけていない書類の山を崩し始めた。
それからしばらく漁ったが、更なる発見は無かった。
これから転移で帰るわけだが、その前にやっておく事がある。
今回の作戦では複数人に姿を見られているので、放っておくと手配書が国中のあちこちに貼られかねない。
なので記憶を消す必要がある。
このために俺は前々から魔導具を作っていたのだ。
この魔導具の作成には、とても苦労した。
第一に、記憶を操る類いの魔法は、この世界には存在しないのだ。
なので、久しぶりに地球で使っていた魔法を使用した。
感覚を忘れていたので、思い出すのにかなり時間が掛かった。
さらに、俺だけが使えるのでは意味がないので、組織のみんなが使えるように魔導具に魔法を付与したのだが、それが難しかった。
付与は魔法を発動させずに、魔力の動きだけを再現するような技術なので、普通に魔法を使うより大変なのだ。
そんな苦労を経て作成した魔導具を、やっと使う時が来た。
魔力はすでに充填してあるので、起動をスーに頼む。
スーが魔導具に、ほんの少し魔力を流し込んで起動させる。
すると、魔導具に付与された魔法が発動して王城全体に効果を及ぼした。
これの効果は『直近の1時間に出会った人物の風貌を思い出せなくなる』と言うものだ。
スーやヒアも効果範囲内にいるので、ハルドの顔つきなどを思い出せないはずだ。
「スー、国王の顔を思い出せる?」
「……ダメ。思い出せない」
スーに聞いて、効果がちゃんと現れているのを確認する。
自分で確かめられれば良いのだが、魔導具に付与したのは俺の魔法なので自分には効果がないのだ。
ともかく、これで記憶の消去は完了だ。
「これで作戦は完遂だね。さあ帰ろうか」
「うん!」
ヒアが元気に返事して、スーも頷く。
それを確認して俺は転移魔法を発動させてシェルターへ飛ぶ。
こうして俺たちは王の書斎を後にした。
☆
作戦から2日ほど経った日の事だった。
屋敷のテーブルを囲み、みんなでのんびりと食事をしていた時、暎斗が街で聞いた噂を話題に上げた。
「なんかよぉ、王都で怪しい組織が活動してるらしいぜ。図書館の書庫に侵入したとか、王城の衛兵達がたった3人相手に手も足も出なかったとか……」
「本当なら怖いね。まあハルくんがいるから大丈夫かな?」
穂花も暎斗に同調するように反応を示した。
そんな中、身に覚えのあるその噂にスーとエラは僅かに身を固くする。
2人にとっては反応し辛い会話だろうなと俺は思う。
噂の元凶が目の前にいるとも知らずに、穂花と暎斗は会話を広げる。
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