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1章 幼女な神様との出会いと過去

3.街に来たんだが

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オレはダイアウルフを解体しながらスヴィエートにいくつか質問をする。


「お前は何を探してるんだ?」


「うむ。説明が難しいのだが、『神珠』というアイテムなのだ。『神珠』は我のような神様が世界を管理するために使う大切なもので……」


「待て待て。お前が神様って設定、まだ続けるのか?」


「設定ではないのだッ!」


「まあひとまず、お前が神様だったとしよう。それで神珠とやらがないと、どうなるんだ?」


オレは信じてはいないが、スヴィエートが必死に主張するので、とりあえず話を進める。


「分からないのだ……何も起きないかも知れない。だが、管理する神様がいないと一度バランスが崩れたら終わりなのだ」


「バランスってなんのだ?」


「魔物と人間のバランスなのだ。この世界では大昔の神様が作り上げた魔物という全人類共通の敵のおかげで人同士の戦争が起きないのだ」


随分と壮大な話のようだ。
真実かは知らないが、確かにこの世界で戦争は起こっていない。
もしスヴィエートの話が本当なら大変な事態だろう。


「神珠がどこにあるか分かってるのか?」


「いや、それが分からないのだ……」


スヴィエートは弱々しい口調で否定した。
自分の探し物の所在すら分からないとは、役に立たない神様である。


「役に立たないって言うな!」


「また心を読まれたッ!?」


スヴィエートは読心術でも使えるのだろうか。


「それにしても、場所が分からないと探すのは難しいな」


「そうなのだ……」


「まあ、とりあえず街に行くか。暗くなったら探せないしな」


「うむ」


ちょうど解体も終わって、牙と毛皮を回収できたので、街へ向かう。

スヴィエートにひとりで歩かせると迷いかねないので、おんぶする事にした。
すると乗り心地が良かったのか、スヴィエートは鼻歌を歌い出す。

スヴィエートの声は聴いていて心地よく、オレはその歌に耳を傾けながら森を歩いて行った。


1時間ほど歩いて、だいぶ辺りが暗くなった頃、街の明かりが見えてきた。
いつの間にかスヴィエートの鼻歌は聴こえなくなり、肩に乗っている頭が重くなっていた。


「止まれ!」


街の入り口に立っていた門番が人影を見つけて言う。
しかし、それがオレだと分かると警戒を解いた。


「……って、あんたかよ。また何か買いに来たのか?」


この街には何度か来ているので、門番とは顔見知りである。


「塩がなくなってな」


「ッ!?おい、あんた子供いたのか?」


何を勘違いしたのか、門番はオレの背中で寝ているスヴィエートを見るなり明らかに動揺する。


「ちげぇよ!拾いもんだ」


少し表現に語弊があるが、門番はオレの言葉を聞くと納得した。


「その年で子供はいないわな。ちゃんと面倒見てやれよ」


心配してくれているのか、バカにしているのかは分からないが余計なお世話である。


「それで今日は何を持ってきた?あんたの持ってくる素材は状態が良いから高く買い取ってやるぞ」


「助かる。これなんだが……」


オレは手に持っていたダイアウルフの牙と毛皮を見せる。


「これってダイアウルフか……?凄いな……。どうやったらあんなデカい狼を倒せるんだよ……」


門番は素材をひと目で見抜き、また驚愕する。
そういえば、この門番も昔はよく魔物を討伐していたと話していた気がする。
ダイアウルフも見たことがあるのかも知れない。


「いくらになる?」


「十万リルくらいだな」


十万リルもするのかこの魔物。
宿で一泊するのに五千リルくらいだから、相当高額である。
オレもそこまで高い物だと思っていなかった。


「十分だ。それで頼む」


「あいよ」


オレは十万リルを受け取り、街に入った。
久しぶりに街に来るので、人の多さに少し新鮮味を感じる。


「まずは宿を探さないとな」


オレは左右に並ぶ店の看板を確認しながら通りを進む。
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