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二章
第42話 ダカン平原の会戦②
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「敵は大盾兵を前に押し出してきたぞ、親父」
将校のロドニーが声を上げる。
ランドルフ隊の正面には大型のカイトシールドと槍を構えた敵の歩兵がずらりと並び、踏みしめるような歩調で接近してきていた。
「盾の壁を作れ」
ランドルフが呟くようにそう言うと、もう一人の将校であるマンヘイムが「盾壁陣」と怒鳴り上げる。
すると敵と同じく盾と槍を構えた歩兵たちが前進し、前列の兵は地に膝をついて盾を構え槍を前に突き出し、後列の兵は前列の背後に立ったまま盾を自身と味方の頭を守るように上へ構え、槍を突き出した。
「斉射、来るぞぉ!」
誰かがそう叫んだ直後、敵の放った矢の嵐が展開した大盾兵を襲った。
しかし放たれた矢は味方の構えた盾によって弾かれ、目に見える被害はない。
敵の大盾兵がその行進と共に「応、応、応」という掛け声を上げて前進してくる。前衛の兵たちの耳にその声が届き、踏み鳴らす足音がその腹を叩く。
「側面に回り込ませるな。長槍兵を両翼に展開」
ランドルフが命じると三メートルを超える槍を両手で構えた兵団が大盾兵の左右の背後を守るように展開する。
するとその展開が終わる間近に、敵の大盾兵の背後に身を隠していた突撃兵(小盾と片手剣を持つ)が姿を現す。
しかし回り込もうとしていた先に長槍兵が待ち構えているのを見るや、困惑しその場で盾を構える。
「弓兵、両翼へ放て」
ランドルフ隊の弓兵団が前方左右で立ち尽くす敵突撃兵へ一斉に弓矢を射掛ける。
半身を隠すこともできない小盾を構えた敵突撃兵たちは次々にその腕や足に矢を受け、悲鳴を上げて転げ回る。
その様子を見たセラステレナ軍の将軍と思われる男が、突撃の命を下した。
すると正面を前進していた大盾兵が「うおおおお!」と雄叫びを上げて全速力で突進を開始する。
敵大盾兵はその盾で身体の半身を覆いながら、盾壁陣をとるランドルフ隊前衛にぶち当たった。
ランドルフ隊の大盾兵も槍を突き出していたがその殆どが敵の盾に弾かれ、その体当たりをもろに受ける形になった。
こうなれば勢いのついた方が有利であり、ランドルフ隊の最前面の陣形が乱れ始める。
戦は陣形を先に乱したほうが圧倒的に不利。
その様子を見たロドニーが声を荒げる。
「親父、正面が危ない。両翼を援護に向かわせるか?」
しかしランドルフは表情を変えずに答える。
「陽動だ。動かすな」
「じゃあどうするんだよ!」
「私が行く」
そう言うとランドルフは馬を数歩前に歩ませた。
そして傍らのマンヘイムに指示を伝える。
「騎兵をここに置いていても仕方がない。マンヘイム、お前に託す。遊撃として危うい戦線に回れ」
「は、はい! 将軍!」
マンヘイムを驚きを顔にたたえてそう答えた。騎兵を自分が? 将軍直下の最精鋭部隊を私が。
「生命に代えても!」
「そう力むな。あの兵たちはよく動く」
ランドルフが微笑む。この将軍が微笑む姿を見たのは久しぶりだ。二人の将校はそう思った。
するとランドルフは思い出したように空を見上げて、呟いた。
「そういえば、もうすぐ秋だな。この戦いが終わったら収穫祭をするとしよう。楽しみだな」
そう言うなりランドルフは馬を駆けさせ、前線に向かった。
その背に対しロドニーが叫ぶ。
「親父! なぜだかわからないが、その言葉はまずい気がするぜ!」
将校のロドニーが声を上げる。
ランドルフ隊の正面には大型のカイトシールドと槍を構えた敵の歩兵がずらりと並び、踏みしめるような歩調で接近してきていた。
「盾の壁を作れ」
ランドルフが呟くようにそう言うと、もう一人の将校であるマンヘイムが「盾壁陣」と怒鳴り上げる。
すると敵と同じく盾と槍を構えた歩兵たちが前進し、前列の兵は地に膝をついて盾を構え槍を前に突き出し、後列の兵は前列の背後に立ったまま盾を自身と味方の頭を守るように上へ構え、槍を突き出した。
「斉射、来るぞぉ!」
誰かがそう叫んだ直後、敵の放った矢の嵐が展開した大盾兵を襲った。
しかし放たれた矢は味方の構えた盾によって弾かれ、目に見える被害はない。
敵の大盾兵がその行進と共に「応、応、応」という掛け声を上げて前進してくる。前衛の兵たちの耳にその声が届き、踏み鳴らす足音がその腹を叩く。
「側面に回り込ませるな。長槍兵を両翼に展開」
ランドルフが命じると三メートルを超える槍を両手で構えた兵団が大盾兵の左右の背後を守るように展開する。
するとその展開が終わる間近に、敵の大盾兵の背後に身を隠していた突撃兵(小盾と片手剣を持つ)が姿を現す。
しかし回り込もうとしていた先に長槍兵が待ち構えているのを見るや、困惑しその場で盾を構える。
「弓兵、両翼へ放て」
ランドルフ隊の弓兵団が前方左右で立ち尽くす敵突撃兵へ一斉に弓矢を射掛ける。
半身を隠すこともできない小盾を構えた敵突撃兵たちは次々にその腕や足に矢を受け、悲鳴を上げて転げ回る。
その様子を見たセラステレナ軍の将軍と思われる男が、突撃の命を下した。
すると正面を前進していた大盾兵が「うおおおお!」と雄叫びを上げて全速力で突進を開始する。
敵大盾兵はその盾で身体の半身を覆いながら、盾壁陣をとるランドルフ隊前衛にぶち当たった。
ランドルフ隊の大盾兵も槍を突き出していたがその殆どが敵の盾に弾かれ、その体当たりをもろに受ける形になった。
こうなれば勢いのついた方が有利であり、ランドルフ隊の最前面の陣形が乱れ始める。
戦は陣形を先に乱したほうが圧倒的に不利。
その様子を見たロドニーが声を荒げる。
「親父、正面が危ない。両翼を援護に向かわせるか?」
しかしランドルフは表情を変えずに答える。
「陽動だ。動かすな」
「じゃあどうするんだよ!」
「私が行く」
そう言うとランドルフは馬を数歩前に歩ませた。
そして傍らのマンヘイムに指示を伝える。
「騎兵をここに置いていても仕方がない。マンヘイム、お前に託す。遊撃として危うい戦線に回れ」
「は、はい! 将軍!」
マンヘイムを驚きを顔にたたえてそう答えた。騎兵を自分が? 将軍直下の最精鋭部隊を私が。
「生命に代えても!」
「そう力むな。あの兵たちはよく動く」
ランドルフが微笑む。この将軍が微笑む姿を見たのは久しぶりだ。二人の将校はそう思った。
するとランドルフは思い出したように空を見上げて、呟いた。
「そういえば、もうすぐ秋だな。この戦いが終わったら収穫祭をするとしよう。楽しみだな」
そう言うなりランドルフは馬を駆けさせ、前線に向かった。
その背に対しロドニーが叫ぶ。
「親父! なぜだかわからないが、その言葉はまずい気がするぜ!」
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