【完結】なにぶん、貴族の夫婦ですので

ハリエニシダ・レン

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告白

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そんな私も、年頃になったので結婚することになった。
小さい頃から、いずれはお父様の決めた誰かに嫁ぐのだと聞かされていたから、抵抗感はなかった。
ただ、一つ心配事があったので聞いてみた。

「ダンは一緒に来てくれるの?」

嫁ぐということは、生まれ育った家を離れるということだ。両親や、それまで世話を焼いてくれた使用人たちと別れるということ。
数人なら、婚家に連れて行けるだろうけれど、ダンがついて来てくれるのかが心配だった。

…そう、私は結婚するような年になっても、同性のメイドではなくダンにべったりだった。
ダンは困ったような顔で、

「先方のお許しが出るなら」

と言ってくれた。
その答えにほっとして、意気揚々と返した。

「なら大丈夫よ!絶対にダンは連れて行くわ!何が何でも!」

そう意気込んでみたのだけれど、結局誰に咎められることもなかったので、ダンは結婚した私について何事もなく婚家に移った。
そして結婚前と同じように、訓練の時以外は朝から晩まで私の側にいてくれた。

よかった。何も変わらない

そう思っていた。


けれど、私が夫と寝台を共にするごとに、ダンの態度が少しずつおかしくなっていった。
でも気にしないようにしていた。
そもそも、そんな心の余裕がなかった。
慣れない行為への戸惑いと、身体のだるさ。体力がないのも相まって、翌日は自室に引きこもることも多かった。

別に凄く体調が悪い訳ではないけれど、次期当主の妻なんて現時点ではそれほどやる事もない。強いて言うなら、跡継ぎを作るのが一番の仕事だ。
それに、ダンがいてくれれば部屋の中でも退屈しない。

私はベッドに半身を起こして、果物を剥いてもらったり、話をしたり、本を読んでもらったりして、まるで小さな子どもに戻ったような気分でダンに世話を焼いてもらうのを楽しんだ。
部屋の隅に、この家で元から働いているメイドも控えていたけれど、私は敢えてダンに甘えた。
だって彼女には悪いけれど、やはり気心が知れているダンの方がいい。

ダンがあまりに上手に私の世話を焼くからか、やる事が無さすぎてただ立っていることに嫌気がさしたのか、次第にメイドは席を外すことが増えた。


夫に抱かれた翌日、いつものようにダンにベッドの中から甘えていると、ダンが不意に低い声を出した。

「…お嬢様は、いったいどういうおつもりなのですか」

キョトンとして首を傾げる。
あまりに唐突だったから。

「どうって何が?」

ダンの大きな手が私の頬を包んだ。
今、メイドは席を外している。
部屋にはダンと私の二人きりだ。

でも、ダンに触れられるのなんて口端についた果物を取られたり、気分が悪くなって運ばれたりするので慣れっこだ。だからダンの手はそのままに見つめ返した。
ダンの目が、苦しげに細められる。

「俺は…お嬢様の何ですか?」

ダンは今でもよく、私のことを「お嬢様」と呼ぶわね。
そんなことを思いながら答えを返した。

「護衛よね?」

当然の答え。
従者でもあるけれど、体格がよく剣も使える彼が私の側にいるのは私の護衛だからだ。
ダンの顔が歪んだ。

「それだけ…ですか…?」

意味がわからなくて困って見つめると、ダンは唇を震わせながら言葉を発した。

「俺は…あなたを愛しています…」

思いもかけない言葉に、ポカンと口が開いてしまった。

「…………え?」

そんな私の顔を、ダンはじっと見つめた。

「愛しています。女性として。あなたを抱きしめて口づけたい。そう思っています」

唇をそっと親指でなぞられて、反射的に小さく悲鳴を上げて身を引いた。
頭が混乱する。

え…ダンが…なんで…?

「俺は………あなたも同じ気持ちでいてくれているのだと思っていました……」

「え………?」

「でも、違ったんですね…」

寂しそうな目をしたダンが、そっと手を引いた。大きな手が、私から離れていく。
何故だかそれが別れのように感じられて、気がついたらその手を両手で掴んでいた。

「…っ…お嬢様…?」

「っ…ダメよ。逃さないわ」

口をついた言葉に、ダンが苦笑する。

「何をです?」

やんわりと離そうとする手を握りしめる。

「あなたは私のものよ。離れていくなんて許さない」

何かを考えて言った言葉ではなかった。ただ、このままではダンが私の元から去ってしまうような気がして、何か言わなければと焦っただけ。

「それなら…」

ダンが私の手を握り返した。
そのまま覆い被さるような体勢になったダンに、上から見下ろされる。

「旦那様にさせているのと同じことを、俺にもさせてくれますか?」

「………え…?」

「あなたを抱きたい」

耳元で熱く囁かれて、身体がブルリと震えた。
けれど、気がついたら思いきり平手打ちをしていた。

パァン!と大きな音が響く。
ダンが目を見開いて身体を離した。

「できる訳ないでしょう?そんなこと!」

顔を真っ赤にして息を切らせながらそう怒鳴ると、ダンは叩かれた頬を押さえて苦笑した。

「でも、俺はそういう行為をあなたに望んでいるんです。そんな男を側に置いておけますか?」

見慣れない男くさい表情に動揺する。でも、これだけは譲れない。

「っ…くっ…それでも離れるんじゃないわよっ…」

ダンが私の側からいなくなるのだけは絶対に嫌。
ギッと睨みつける私を、ダンは何故か懐かしそうに目を細めて見つめた。

「何よ…」

「いえ、なんだか昔を思い出しまして」

…昔の私ってこんなだったかしら?まぁ、多少は乱暴なところもあったかもしれないけれど…

思わず黙り込んだ私に、ダンが微笑んだ。
少し辛そうに。

「俺は、あなたが望む限りあなたの側にいます。けれど…忘れないでください。俺があなたをそういう意味で想っているということを」

これからも側にいてくれるという約束にほっとして、私はコクリと頷いていた。

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