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8 どうしたら…
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目が覚めると、もう透はいなかった。
ローテーブルの上に一枚のメモ。
『おはよう姉さん
バイトがあるから、もう行くね』
複雑な気持ちになった。
嘘かもしれない。
前回、朝起きた時に、私は酷く透を傷つけてしまったから。
でも、ほっとしてもいた。
また、あんな風に透の傷ついた顔を見るのは嫌だった。あんな風に傷つけてしまうのはもう嫌だった。だから、顔を合わせずに済んでほっとした。
チクリと胸の片隅で沸いた「寂しい」という感情には、気づかない振りをした。
いつの間にか床に落ちていたワンピースを拾い上げ、頭から被る。
…透に脱がされた下着も拾って履いた。服を着たことで、人心地がつく。
はあっと、大きく息をついた。
吸い込んだ空気に混じる、部屋についた透の匂いに刺激されて、昨日のことを思い出しかける。
ダメ…いけない…
頭を振って振り払う。
でも、私は確実に、透に惹かれかけている。
心より先に身体が、透との行為に慣れ始め、悦んでいる。
そして、身体だけではなく心ももう…
いけない…こんなの…いけない…
「甘えて」
そう囁いた透の声を思い出して、身体がぞくりと震えた。
「透…」
甘えて求める声が、部屋に響いた。透のいない透の部屋に。
「透…」
ベッドに、倒れ込む。
透の匂いのするベッド。
顔をシーツに擦り付ける。
透の匂いを吸い込む。
下腹部に熱さを感じた。
「透…」
自分で、胸に触れる。
先をつまむと甘い痺れが走った。
「透…」
もう片方の手は、当然のように下へと伸びる。下着の中へと手が滑り込んだ。
くちゅり
濡れたそこが、音を返した。
小刻みに揺らしながら、中へと埋めていく。
「透っ…」
中ほどまで埋まった指を、折り曲げてぐねぐねと動かす。
この指が、透の指ならよかったのに…
そう思いながら、根元まで一気に突き入れた。
「んっ…」
気持ちいい…
でも、透の指ならもっと…
透はいないから、せめて透の匂いを嗅ぐ。いつも透が寝ているベッドの匂い。シーツに染みついた透の匂いに、肺が満たされる。
「透…」
気持ちいい…透…気持ちいいの…でも…
もっと気持ちよくなりたいの…
「透っ…」
甘えるように何度も呼ぶ。
シーツに身体を擦り付ける。
透の匂いを少しでも自分につけたくて。
「透…好き…」
言葉が溢れた。
「好き…好き……好き………」
呟きながら腰を振って指を動かす。
「透…気持ちいいの…私…気持ちい…」
ぐちゃりぐちゃりと激しい音を立てながら、指を動かす。
「透…ねぇ…もう…私…イっちゃう…もう…あっ…あっ…あっ…………っ!!!」
ぐったりとして、荒い呼吸を繰り返す。段々それは、ゆっくりとした呼吸に変わっていく。ぼんやりとしていた頭が働きだす。
私は…今、いったい何を…
我に返って、指を身体の中から抜いた。ぐちゃぐちゃになった身体の中から。
ぐちゅり、と酷く淫猥な音がした。抜いた指には、愛液がべっとりとこびりついていた。慌ててそれをシーツで拭う。その後で、ここは弟のベッドだったと思い出して一瞬焦る。けれど、昨日の行為で既に散々染みついてしまっていることに思い至って、ベッドに突っ伏した。
どうしたら…いいの…
さっき私…
自分がしたことが、信じられなかった。
あれではまるで、私も透を…
その時、ガチャリと音がしてドアが開いた。
「…姉さん…?」
お茶のグラスを手にした透が、そこに立っていた。
惚けたような顔。
私が未だにこの部屋にいるなんて、思ってもいなかったのだろう。
ついさっきの自分の痴態を思い出して、顔が熱くなる。私、弟の留守に弟の部屋で…っ…
「姉さん?熱あるの!?」
透の声に慌てて跳ね起きて、近づいてこようとした彼の脇をすり抜ける。
「なんでもないっ!」
手に持ったグラスの所為で動きが鈍い透を振り切って、自分の部屋に逃げ込んだ。
ガチャリと鍵をかける。
後を追ってくる慌てた足音が聞こえた。ドアを激しくノックされる。
「姉さん?姉さん!?大丈夫なの!?」
心配そうな声。
「熱あるんじゃないの!?」
「ないったら!」
「でも顔…」
「平気だからほっといて!」
恥ずかしさのあまり怒鳴った。
透はドアの前でしばらく迷っていたようだけれど、
「具合が悪くなったら、すぐに俺を呼んで。お願い…」
と縋るように言った。
それきり、ドアの前から動く気配はない。
「わかった…」
渋々そう返すと、ほっとしたように大きく息を吐いて、自分の部屋へと返っていった。
私の顔の熱は、しばらく引かなかった。
ローテーブルの上に一枚のメモ。
『おはよう姉さん
バイトがあるから、もう行くね』
複雑な気持ちになった。
嘘かもしれない。
前回、朝起きた時に、私は酷く透を傷つけてしまったから。
でも、ほっとしてもいた。
また、あんな風に透の傷ついた顔を見るのは嫌だった。あんな風に傷つけてしまうのはもう嫌だった。だから、顔を合わせずに済んでほっとした。
チクリと胸の片隅で沸いた「寂しい」という感情には、気づかない振りをした。
いつの間にか床に落ちていたワンピースを拾い上げ、頭から被る。
…透に脱がされた下着も拾って履いた。服を着たことで、人心地がつく。
はあっと、大きく息をついた。
吸い込んだ空気に混じる、部屋についた透の匂いに刺激されて、昨日のことを思い出しかける。
ダメ…いけない…
頭を振って振り払う。
でも、私は確実に、透に惹かれかけている。
心より先に身体が、透との行為に慣れ始め、悦んでいる。
そして、身体だけではなく心ももう…
いけない…こんなの…いけない…
「甘えて」
そう囁いた透の声を思い出して、身体がぞくりと震えた。
「透…」
甘えて求める声が、部屋に響いた。透のいない透の部屋に。
「透…」
ベッドに、倒れ込む。
透の匂いのするベッド。
顔をシーツに擦り付ける。
透の匂いを吸い込む。
下腹部に熱さを感じた。
「透…」
自分で、胸に触れる。
先をつまむと甘い痺れが走った。
「透…」
もう片方の手は、当然のように下へと伸びる。下着の中へと手が滑り込んだ。
くちゅり
濡れたそこが、音を返した。
小刻みに揺らしながら、中へと埋めていく。
「透っ…」
中ほどまで埋まった指を、折り曲げてぐねぐねと動かす。
この指が、透の指ならよかったのに…
そう思いながら、根元まで一気に突き入れた。
「んっ…」
気持ちいい…
でも、透の指ならもっと…
透はいないから、せめて透の匂いを嗅ぐ。いつも透が寝ているベッドの匂い。シーツに染みついた透の匂いに、肺が満たされる。
「透…」
気持ちいい…透…気持ちいいの…でも…
もっと気持ちよくなりたいの…
「透っ…」
甘えるように何度も呼ぶ。
シーツに身体を擦り付ける。
透の匂いを少しでも自分につけたくて。
「透…好き…」
言葉が溢れた。
「好き…好き……好き………」
呟きながら腰を振って指を動かす。
「透…気持ちいいの…私…気持ちい…」
ぐちゃりぐちゃりと激しい音を立てながら、指を動かす。
「透…ねぇ…もう…私…イっちゃう…もう…あっ…あっ…あっ…………っ!!!」
ぐったりとして、荒い呼吸を繰り返す。段々それは、ゆっくりとした呼吸に変わっていく。ぼんやりとしていた頭が働きだす。
私は…今、いったい何を…
我に返って、指を身体の中から抜いた。ぐちゃぐちゃになった身体の中から。
ぐちゅり、と酷く淫猥な音がした。抜いた指には、愛液がべっとりとこびりついていた。慌ててそれをシーツで拭う。その後で、ここは弟のベッドだったと思い出して一瞬焦る。けれど、昨日の行為で既に散々染みついてしまっていることに思い至って、ベッドに突っ伏した。
どうしたら…いいの…
さっき私…
自分がしたことが、信じられなかった。
あれではまるで、私も透を…
その時、ガチャリと音がしてドアが開いた。
「…姉さん…?」
お茶のグラスを手にした透が、そこに立っていた。
惚けたような顔。
私が未だにこの部屋にいるなんて、思ってもいなかったのだろう。
ついさっきの自分の痴態を思い出して、顔が熱くなる。私、弟の留守に弟の部屋で…っ…
「姉さん?熱あるの!?」
透の声に慌てて跳ね起きて、近づいてこようとした彼の脇をすり抜ける。
「なんでもないっ!」
手に持ったグラスの所為で動きが鈍い透を振り切って、自分の部屋に逃げ込んだ。
ガチャリと鍵をかける。
後を追ってくる慌てた足音が聞こえた。ドアを激しくノックされる。
「姉さん?姉さん!?大丈夫なの!?」
心配そうな声。
「熱あるんじゃないの!?」
「ないったら!」
「でも顔…」
「平気だからほっといて!」
恥ずかしさのあまり怒鳴った。
透はドアの前でしばらく迷っていたようだけれど、
「具合が悪くなったら、すぐに俺を呼んで。お願い…」
と縋るように言った。
それきり、ドアの前から動く気配はない。
「わかった…」
渋々そう返すと、ほっとしたように大きく息を吐いて、自分の部屋へと返っていった。
私の顔の熱は、しばらく引かなかった。
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