【完結・R18】弟は私のことが好き

ハリエニシダ・レン

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9 もういい

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気まずくて仕方がない。

あの日以来、透を無理に避けるのはやめたけど。でも顔が合うと、ふいっと逸らしてしまう。
そのたびに透が悲しそうな顔をするのには気づいているけれど、どうにもならなかった。

透の顔が見れない。
見るとすぐに、顔が赤くなってしまって。

逸らして隠すのが精一杯だった。


そんなある日、リビングで映画を見ていたら透が声をかけてきた。

「姉さん、お茶いる?」

あまりに何気ないその言い方に、つい

「うん。ちょうだい」

と答えていた。
だって透が、まるでこうなる前みたいな調子で話しかけるから。
しまったと思った時には冷蔵庫を開ける音がしていて、今さら止めるのも逆に気まずくて、そのままおとなしく待つ。

「はい、どうぞ」

コトリとテーブルに冷えたお茶が置かれた。
グラスは二つ。

問い返すように見上げると、透はくっつくようにして私の隣に座った。

「ちょっ…暑い…」

押しのけようとしたけれど、

「いいじゃん。エアコンついてんだから」

と押しきられてしまった。
こんなことになる前には普通だった距離感。
それを思い出して、おとなしく座り直した。

そうだ。
姉弟なら、別にこんなの当たり前…

くっついて座る透の肩に、ついもたれかかってしまった。
いつものように。

エアコンがついていても、肌と肌がくっつけばちょっと汗ばむけど。私はこの感じ、実は嫌いじゃない。
甘えるように、透の腕に顔を擦り付ける。

「ちょっ…姉さんくすぐったい…」

「嫌ならどきなさいよぅ…」

軽くふくれてそう言うと、透はため息を吐いて黙った。
懐かしい感じに、ちょっと安心する。

そうだ。私たちは仲のいい姉弟だった。

心地よい沈黙を味わいながら、映画はそっちのけで透の腕の感触を頬で楽しんだ。



ふと目を開けると、映画はもう終わっていた。枕にしていた腕を見上げると、透が微笑んだ。

「起きた?姉さん」

その手が私の頬に伸びかけて、不自然に引っ込められる。

「そろそろ部屋に戻ろうか」

すっと立ち上がった透に手を取られて、私も立ち上がる。

「うん」

頷いて、なんとなくそのまま手を引かれて階段を上る。
寝ぼけているのか、現実味が薄い。
まだ夢の中にいるような感覚。
透の部屋の前につくと、スルリと手を離された。

「おやすみ、姉さん」

微笑む透がやけに寂しげに見えて戸惑う。

「透?」

思わず問いかけた。

「何?」

笑っているのに、何故か泣きそうに見えて。

「どうかしたの?」

一歩近づいた。

頭の中で、警鐘が鳴り響く。
離れなければ危険だと。
彼は、男なのだと。

でも無視した。
今離れたら、とても大切なものを失ってしまう。そんな気がして。
一歩下がった透を追う。

「透?」

透の背が、ドアにぶつかった。

「姉さん…ダメだよ…」

透の顔が泣きそうに歪んだ。

「近づいたら、ダメだ」

無視してもう一歩近づく。

「どうしてよ」

もう距離は、ほとんどない。

「俺が…姉さんを…離せなくなるから…」

震える腕で、緩く抱きしめられた。ぽんぽんと、軽くその腕を叩く。

「いいわよ別に。そんなこと」

離せなくなるより、失ってしまうことの方がよほど問題だ。
軽くもたれかかる。
距離を0にする。

「そうじゃない…そうじゃないんだ…」

上から雫がポタポタと落ちてきた。泣き虫ね、と苦笑する。
まるで小さい頃みたい。
宥めるように、背中に手を回して何度も軽く叩く。
泣くことないのに。

「俺…姉さんを…一生離せなくなる………」

涙混じりの声に、クスリと笑いが零れた。

「バカねぇ」

「ほんっ…本当にっ…姉さん…離せなくなっちゃう…」

ボロボロ泣いて。
本当に子どもみたい。

「いいわよ」

涙でぐちゃぐちゃの顔を見上げて言った。ポカンとしている頭を撫でる。

「いいわよ、別に」

微笑みかける。

「っ…ダメ…だよ…あんなに嫌がってたじゃん…」

今さらなことを言う透に苦笑する。

「しょうがないわ。透はお姉ちゃん子だもの」

「そんなのじゃ済まないって言ってーー」

バカね。泣きやみなさいよ

つま先立ちをして額にキスすると、面白いくらいにぴたりと泣き止んだ。

「いいわよ。透は私の可愛い弟だもの」

「っ…弟じゃ済まないって言ってーー」

「でも、弟でもいてくれるでしょ?」

だったらいいわ。
鼻先にキスしてそう言うと、透は目を見開いた。

「…本当に…?姉さん…本当に…意味、わかってる…?」

再び泣きだした透に苦笑する。

本当に泣き虫なんだから

涙を拭った手をそっと両手で包まれた。その手が震えていて、笑ってしまう。

「こんな泣き虫な子、放っておけないわ」

可愛くて大事な、私の弟。

「…こういうことされても?」

唇にキスされた。

「ええ」

「……こういうこと、されても?」

首すじを、強く吸われた。

「ええ」

頷くと透の眉間にシワが寄った。
まるで怒っているみたいに。

「………こういうこと、されても?」

胸を服の上からつかまれた。

「ええ」

透の顔が辛そうに歪む。

「…ベッドに押し倒して、姉さんを抱いても?何度も姉さんの中を抉って、姉さんの中で出しても?嫌っていうほど抱いても!?」

「ええ」

構わない。
何をされても、私は透が大事。
それは変わらない。

肩を強くつかまれた。
真剣な、切羽詰まった瞳。

「っ!姉さん…これが…最後だよ…今なら…今なら逃げていい…追わ…ない……けどっ……もし…もし…もう一度…頷いたらっ……」

「いいわよ透。離さなくていい」

だからもう泣かないで
繰り返し頭を撫でる。

「っ…!!!」

キツく、抱きしめられた。

「姉さんのバカっ…一生…もう一生…離してなんかやれないからっ…」

「いいわよ透。だから泣かないで」

私をぎゅっと抱きしめたまま。
透はなかなか泣き止まなかった。

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