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9 もういい
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気まずくて仕方がない。
あの日以来、透を無理に避けるのはやめたけど。でも顔が合うと、ふいっと逸らしてしまう。
そのたびに透が悲しそうな顔をするのには気づいているけれど、どうにもならなかった。
透の顔が見れない。
見るとすぐに、顔が赤くなってしまって。
逸らして隠すのが精一杯だった。
そんなある日、リビングで映画を見ていたら透が声をかけてきた。
「姉さん、お茶いる?」
あまりに何気ないその言い方に、つい
「うん。ちょうだい」
と答えていた。
だって透が、まるでこうなる前みたいな調子で話しかけるから。
しまったと思った時には冷蔵庫を開ける音がしていて、今さら止めるのも逆に気まずくて、そのままおとなしく待つ。
「はい、どうぞ」
コトリとテーブルに冷えたお茶が置かれた。
グラスは二つ。
問い返すように見上げると、透はくっつくようにして私の隣に座った。
「ちょっ…暑い…」
押しのけようとしたけれど、
「いいじゃん。エアコンついてんだから」
と押しきられてしまった。
こんなことになる前には普通だった距離感。
それを思い出して、おとなしく座り直した。
そうだ。
姉弟なら、別にこんなの当たり前…
くっついて座る透の肩に、ついもたれかかってしまった。
いつものように。
エアコンがついていても、肌と肌がくっつけばちょっと汗ばむけど。私はこの感じ、実は嫌いじゃない。
甘えるように、透の腕に顔を擦り付ける。
「ちょっ…姉さんくすぐったい…」
「嫌ならどきなさいよぅ…」
軽くふくれてそう言うと、透はため息を吐いて黙った。
懐かしい感じに、ちょっと安心する。
そうだ。私たちは仲のいい姉弟だった。
心地よい沈黙を味わいながら、映画はそっちのけで透の腕の感触を頬で楽しんだ。
ふと目を開けると、映画はもう終わっていた。枕にしていた腕を見上げると、透が微笑んだ。
「起きた?姉さん」
その手が私の頬に伸びかけて、不自然に引っ込められる。
「そろそろ部屋に戻ろうか」
すっと立ち上がった透に手を取られて、私も立ち上がる。
「うん」
頷いて、なんとなくそのまま手を引かれて階段を上る。
寝ぼけているのか、現実味が薄い。
まだ夢の中にいるような感覚。
透の部屋の前につくと、スルリと手を離された。
「おやすみ、姉さん」
微笑む透がやけに寂しげに見えて戸惑う。
「透?」
思わず問いかけた。
「何?」
笑っているのに、何故か泣きそうに見えて。
「どうかしたの?」
一歩近づいた。
頭の中で、警鐘が鳴り響く。
離れなければ危険だと。
彼は、男なのだと。
でも無視した。
今離れたら、とても大切なものを失ってしまう。そんな気がして。
一歩下がった透を追う。
「透?」
透の背が、ドアにぶつかった。
「姉さん…ダメだよ…」
透の顔が泣きそうに歪んだ。
「近づいたら、ダメだ」
無視してもう一歩近づく。
「どうしてよ」
もう距離は、ほとんどない。
「俺が…姉さんを…離せなくなるから…」
震える腕で、緩く抱きしめられた。ぽんぽんと、軽くその腕を叩く。
「いいわよ別に。そんなこと」
離せなくなるより、失ってしまうことの方がよほど問題だ。
軽くもたれかかる。
距離を0にする。
「そうじゃない…そうじゃないんだ…」
上から雫がポタポタと落ちてきた。泣き虫ね、と苦笑する。
まるで小さい頃みたい。
宥めるように、背中に手を回して何度も軽く叩く。
泣くことないのに。
「俺…姉さんを…一生離せなくなる………」
涙混じりの声に、クスリと笑いが零れた。
「バカねぇ」
「ほんっ…本当にっ…姉さん…離せなくなっちゃう…」
ボロボロ泣いて。
本当に子どもみたい。
「いいわよ」
涙でぐちゃぐちゃの顔を見上げて言った。ポカンとしている頭を撫でる。
「いいわよ、別に」
微笑みかける。
「っ…ダメ…だよ…あんなに嫌がってたじゃん…」
今さらなことを言う透に苦笑する。
「しょうがないわ。透はお姉ちゃん子だもの」
「そんなのじゃ済まないって言ってーー」
バカね。泣きやみなさいよ
つま先立ちをして額にキスすると、面白いくらいにぴたりと泣き止んだ。
「いいわよ。透は私の可愛い弟だもの」
「っ…弟じゃ済まないって言ってーー」
「でも、弟でもいてくれるでしょ?」
だったらいいわ。
鼻先にキスしてそう言うと、透は目を見開いた。
「…本当に…?姉さん…本当に…意味、わかってる…?」
再び泣きだした透に苦笑する。
本当に泣き虫なんだから
涙を拭った手をそっと両手で包まれた。その手が震えていて、笑ってしまう。
「こんな泣き虫な子、放っておけないわ」
可愛くて大事な、私の弟。
「…こういうことされても?」
唇にキスされた。
「ええ」
「……こういうこと、されても?」
首すじを、強く吸われた。
「ええ」
頷くと透の眉間にシワが寄った。
まるで怒っているみたいに。
「………こういうこと、されても?」
胸を服の上からつかまれた。
「ええ」
透の顔が辛そうに歪む。
「…ベッドに押し倒して、姉さんを抱いても?何度も姉さんの中を抉って、姉さんの中で出しても?嫌っていうほど抱いても!?」
「ええ」
構わない。
何をされても、私は透が大事。
それは変わらない。
肩を強くつかまれた。
真剣な、切羽詰まった瞳。
「っ!姉さん…これが…最後だよ…今なら…今なら逃げていい…追わ…ない……けどっ……もし…もし…もう一度…頷いたらっ……」
「いいわよ透。離さなくていい」
だからもう泣かないで
繰り返し頭を撫でる。
「っ…!!!」
キツく、抱きしめられた。
「姉さんのバカっ…一生…もう一生…離してなんかやれないからっ…」
「いいわよ透。だから泣かないで」
私をぎゅっと抱きしめたまま。
透はなかなか泣き止まなかった。
あの日以来、透を無理に避けるのはやめたけど。でも顔が合うと、ふいっと逸らしてしまう。
そのたびに透が悲しそうな顔をするのには気づいているけれど、どうにもならなかった。
透の顔が見れない。
見るとすぐに、顔が赤くなってしまって。
逸らして隠すのが精一杯だった。
そんなある日、リビングで映画を見ていたら透が声をかけてきた。
「姉さん、お茶いる?」
あまりに何気ないその言い方に、つい
「うん。ちょうだい」
と答えていた。
だって透が、まるでこうなる前みたいな調子で話しかけるから。
しまったと思った時には冷蔵庫を開ける音がしていて、今さら止めるのも逆に気まずくて、そのままおとなしく待つ。
「はい、どうぞ」
コトリとテーブルに冷えたお茶が置かれた。
グラスは二つ。
問い返すように見上げると、透はくっつくようにして私の隣に座った。
「ちょっ…暑い…」
押しのけようとしたけれど、
「いいじゃん。エアコンついてんだから」
と押しきられてしまった。
こんなことになる前には普通だった距離感。
それを思い出して、おとなしく座り直した。
そうだ。
姉弟なら、別にこんなの当たり前…
くっついて座る透の肩に、ついもたれかかってしまった。
いつものように。
エアコンがついていても、肌と肌がくっつけばちょっと汗ばむけど。私はこの感じ、実は嫌いじゃない。
甘えるように、透の腕に顔を擦り付ける。
「ちょっ…姉さんくすぐったい…」
「嫌ならどきなさいよぅ…」
軽くふくれてそう言うと、透はため息を吐いて黙った。
懐かしい感じに、ちょっと安心する。
そうだ。私たちは仲のいい姉弟だった。
心地よい沈黙を味わいながら、映画はそっちのけで透の腕の感触を頬で楽しんだ。
ふと目を開けると、映画はもう終わっていた。枕にしていた腕を見上げると、透が微笑んだ。
「起きた?姉さん」
その手が私の頬に伸びかけて、不自然に引っ込められる。
「そろそろ部屋に戻ろうか」
すっと立ち上がった透に手を取られて、私も立ち上がる。
「うん」
頷いて、なんとなくそのまま手を引かれて階段を上る。
寝ぼけているのか、現実味が薄い。
まだ夢の中にいるような感覚。
透の部屋の前につくと、スルリと手を離された。
「おやすみ、姉さん」
微笑む透がやけに寂しげに見えて戸惑う。
「透?」
思わず問いかけた。
「何?」
笑っているのに、何故か泣きそうに見えて。
「どうかしたの?」
一歩近づいた。
頭の中で、警鐘が鳴り響く。
離れなければ危険だと。
彼は、男なのだと。
でも無視した。
今離れたら、とても大切なものを失ってしまう。そんな気がして。
一歩下がった透を追う。
「透?」
透の背が、ドアにぶつかった。
「姉さん…ダメだよ…」
透の顔が泣きそうに歪んだ。
「近づいたら、ダメだ」
無視してもう一歩近づく。
「どうしてよ」
もう距離は、ほとんどない。
「俺が…姉さんを…離せなくなるから…」
震える腕で、緩く抱きしめられた。ぽんぽんと、軽くその腕を叩く。
「いいわよ別に。そんなこと」
離せなくなるより、失ってしまうことの方がよほど問題だ。
軽くもたれかかる。
距離を0にする。
「そうじゃない…そうじゃないんだ…」
上から雫がポタポタと落ちてきた。泣き虫ね、と苦笑する。
まるで小さい頃みたい。
宥めるように、背中に手を回して何度も軽く叩く。
泣くことないのに。
「俺…姉さんを…一生離せなくなる………」
涙混じりの声に、クスリと笑いが零れた。
「バカねぇ」
「ほんっ…本当にっ…姉さん…離せなくなっちゃう…」
ボロボロ泣いて。
本当に子どもみたい。
「いいわよ」
涙でぐちゃぐちゃの顔を見上げて言った。ポカンとしている頭を撫でる。
「いいわよ、別に」
微笑みかける。
「っ…ダメ…だよ…あんなに嫌がってたじゃん…」
今さらなことを言う透に苦笑する。
「しょうがないわ。透はお姉ちゃん子だもの」
「そんなのじゃ済まないって言ってーー」
バカね。泣きやみなさいよ
つま先立ちをして額にキスすると、面白いくらいにぴたりと泣き止んだ。
「いいわよ。透は私の可愛い弟だもの」
「っ…弟じゃ済まないって言ってーー」
「でも、弟でもいてくれるでしょ?」
だったらいいわ。
鼻先にキスしてそう言うと、透は目を見開いた。
「…本当に…?姉さん…本当に…意味、わかってる…?」
再び泣きだした透に苦笑する。
本当に泣き虫なんだから
涙を拭った手をそっと両手で包まれた。その手が震えていて、笑ってしまう。
「こんな泣き虫な子、放っておけないわ」
可愛くて大事な、私の弟。
「…こういうことされても?」
唇にキスされた。
「ええ」
「……こういうこと、されても?」
首すじを、強く吸われた。
「ええ」
頷くと透の眉間にシワが寄った。
まるで怒っているみたいに。
「………こういうこと、されても?」
胸を服の上からつかまれた。
「ええ」
透の顔が辛そうに歪む。
「…ベッドに押し倒して、姉さんを抱いても?何度も姉さんの中を抉って、姉さんの中で出しても?嫌っていうほど抱いても!?」
「ええ」
構わない。
何をされても、私は透が大事。
それは変わらない。
肩を強くつかまれた。
真剣な、切羽詰まった瞳。
「っ!姉さん…これが…最後だよ…今なら…今なら逃げていい…追わ…ない……けどっ……もし…もし…もう一度…頷いたらっ……」
「いいわよ透。離さなくていい」
だからもう泣かないで
繰り返し頭を撫でる。
「っ…!!!」
キツく、抱きしめられた。
「姉さんのバカっ…一生…もう一生…離してなんかやれないからっ…」
「いいわよ透。だから泣かないで」
私をぎゅっと抱きしめたまま。
透はなかなか泣き止まなかった。
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