10 / 14
9 もういい
気まずくて仕方がない。
あの日以来、透を無理に避けるのはやめたけど。でも顔が合うと、ふいっと逸らしてしまう。
そのたびに透が悲しそうな顔をするのには気づいているけれど、どうにもならなかった。
透の顔が見れない。
見るとすぐに、顔が赤くなってしまって。
逸らして隠すのが精一杯だった。
そんなある日、リビングで映画を見ていたら透が声をかけてきた。
「姉さん、お茶いる?」
あまりに何気ないその言い方に、つい
「うん。ちょうだい」
と答えていた。
だって透が、まるでこうなる前みたいな調子で話しかけるから。
しまったと思った時には冷蔵庫を開ける音がしていて、今さら止めるのも逆に気まずくて、そのままおとなしく待つ。
「はい、どうぞ」
コトリとテーブルに冷えたお茶が置かれた。
グラスは二つ。
問い返すように見上げると、透はくっつくようにして私の隣に座った。
「ちょっ…暑い…」
押しのけようとしたけれど、
「いいじゃん。エアコンついてんだから」
と押しきられてしまった。
こんなことになる前には普通だった距離感。
それを思い出して、おとなしく座り直した。
そうだ。
姉弟なら、別にこんなの当たり前…
くっついて座る透の肩に、ついもたれかかってしまった。
いつものように。
エアコンがついていても、肌と肌がくっつけばちょっと汗ばむけど。私はこの感じ、実は嫌いじゃない。
甘えるように、透の腕に顔を擦り付ける。
「ちょっ…姉さんくすぐったい…」
「嫌ならどきなさいよぅ…」
軽くふくれてそう言うと、透はため息を吐いて黙った。
懐かしい感じに、ちょっと安心する。
そうだ。私たちは仲のいい姉弟だった。
心地よい沈黙を味わいながら、映画はそっちのけで透の腕の感触を頬で楽しんだ。
ふと目を開けると、映画はもう終わっていた。枕にしていた腕を見上げると、透が微笑んだ。
「起きた?姉さん」
その手が私の頬に伸びかけて、不自然に引っ込められる。
「そろそろ部屋に戻ろうか」
すっと立ち上がった透に手を取られて、私も立ち上がる。
「うん」
頷いて、なんとなくそのまま手を引かれて階段を上る。
寝ぼけているのか、現実味が薄い。
まだ夢の中にいるような感覚。
透の部屋の前につくと、スルリと手を離された。
「おやすみ、姉さん」
微笑む透がやけに寂しげに見えて戸惑う。
「透?」
思わず問いかけた。
「何?」
笑っているのに、何故か泣きそうに見えて。
「どうかしたの?」
一歩近づいた。
頭の中で、警鐘が鳴り響く。
離れなければ危険だと。
彼は、男なのだと。
でも無視した。
今離れたら、とても大切なものを失ってしまう。そんな気がして。
一歩下がった透を追う。
「透?」
透の背が、ドアにぶつかった。
「姉さん…ダメだよ…」
透の顔が泣きそうに歪んだ。
「近づいたら、ダメだ」
無視してもう一歩近づく。
「どうしてよ」
もう距離は、ほとんどない。
「俺が…姉さんを…離せなくなるから…」
震える腕で、緩く抱きしめられた。ぽんぽんと、軽くその腕を叩く。
「いいわよ別に。そんなこと」
離せなくなるより、失ってしまうことの方がよほど問題だ。
軽くもたれかかる。
距離を0にする。
「そうじゃない…そうじゃないんだ…」
上から雫がポタポタと落ちてきた。泣き虫ね、と苦笑する。
まるで小さい頃みたい。
宥めるように、背中に手を回して何度も軽く叩く。
泣くことないのに。
「俺…姉さんを…一生離せなくなる………」
涙混じりの声に、クスリと笑いが零れた。
「バカねぇ」
「ほんっ…本当にっ…姉さん…離せなくなっちゃう…」
ボロボロ泣いて。
本当に子どもみたい。
「いいわよ」
涙でぐちゃぐちゃの顔を見上げて言った。ポカンとしている頭を撫でる。
「いいわよ、別に」
微笑みかける。
「っ…ダメ…だよ…あんなに嫌がってたじゃん…」
今さらなことを言う透に苦笑する。
「しょうがないわ。透はお姉ちゃん子だもの」
「そんなのじゃ済まないって言ってーー」
バカね。泣きやみなさいよ
つま先立ちをして額にキスすると、面白いくらいにぴたりと泣き止んだ。
「いいわよ。透は私の可愛い弟だもの」
「っ…弟じゃ済まないって言ってーー」
「でも、弟でもいてくれるでしょ?」
だったらいいわ。
鼻先にキスしてそう言うと、透は目を見開いた。
「…本当に…?姉さん…本当に…意味、わかってる…?」
再び泣きだした透に苦笑する。
本当に泣き虫なんだから
涙を拭った手をそっと両手で包まれた。その手が震えていて、笑ってしまう。
「こんな泣き虫な子、放っておけないわ」
可愛くて大事な、私の弟。
「…こういうことされても?」
唇にキスされた。
「ええ」
「……こういうこと、されても?」
首すじを、強く吸われた。
「ええ」
頷くと透の眉間にシワが寄った。
まるで怒っているみたいに。
「………こういうこと、されても?」
胸を服の上からつかまれた。
「ええ」
透の顔が辛そうに歪む。
「…ベッドに押し倒して、姉さんを抱いても?何度も姉さんの中を抉って、姉さんの中で出しても?嫌っていうほど抱いても!?」
「ええ」
構わない。
何をされても、私は透が大事。
それは変わらない。
肩を強くつかまれた。
真剣な、切羽詰まった瞳。
「っ!姉さん…これが…最後だよ…今なら…今なら逃げていい…追わ…ない……けどっ……もし…もし…もう一度…頷いたらっ……」
「いいわよ透。離さなくていい」
だからもう泣かないで
繰り返し頭を撫でる。
「っ…!!!」
キツく、抱きしめられた。
「姉さんのバカっ…一生…もう一生…離してなんかやれないからっ…」
「いいわよ透。だから泣かないで」
私をぎゅっと抱きしめたまま。
透はなかなか泣き止まなかった。
あの日以来、透を無理に避けるのはやめたけど。でも顔が合うと、ふいっと逸らしてしまう。
そのたびに透が悲しそうな顔をするのには気づいているけれど、どうにもならなかった。
透の顔が見れない。
見るとすぐに、顔が赤くなってしまって。
逸らして隠すのが精一杯だった。
そんなある日、リビングで映画を見ていたら透が声をかけてきた。
「姉さん、お茶いる?」
あまりに何気ないその言い方に、つい
「うん。ちょうだい」
と答えていた。
だって透が、まるでこうなる前みたいな調子で話しかけるから。
しまったと思った時には冷蔵庫を開ける音がしていて、今さら止めるのも逆に気まずくて、そのままおとなしく待つ。
「はい、どうぞ」
コトリとテーブルに冷えたお茶が置かれた。
グラスは二つ。
問い返すように見上げると、透はくっつくようにして私の隣に座った。
「ちょっ…暑い…」
押しのけようとしたけれど、
「いいじゃん。エアコンついてんだから」
と押しきられてしまった。
こんなことになる前には普通だった距離感。
それを思い出して、おとなしく座り直した。
そうだ。
姉弟なら、別にこんなの当たり前…
くっついて座る透の肩に、ついもたれかかってしまった。
いつものように。
エアコンがついていても、肌と肌がくっつけばちょっと汗ばむけど。私はこの感じ、実は嫌いじゃない。
甘えるように、透の腕に顔を擦り付ける。
「ちょっ…姉さんくすぐったい…」
「嫌ならどきなさいよぅ…」
軽くふくれてそう言うと、透はため息を吐いて黙った。
懐かしい感じに、ちょっと安心する。
そうだ。私たちは仲のいい姉弟だった。
心地よい沈黙を味わいながら、映画はそっちのけで透の腕の感触を頬で楽しんだ。
ふと目を開けると、映画はもう終わっていた。枕にしていた腕を見上げると、透が微笑んだ。
「起きた?姉さん」
その手が私の頬に伸びかけて、不自然に引っ込められる。
「そろそろ部屋に戻ろうか」
すっと立ち上がった透に手を取られて、私も立ち上がる。
「うん」
頷いて、なんとなくそのまま手を引かれて階段を上る。
寝ぼけているのか、現実味が薄い。
まだ夢の中にいるような感覚。
透の部屋の前につくと、スルリと手を離された。
「おやすみ、姉さん」
微笑む透がやけに寂しげに見えて戸惑う。
「透?」
思わず問いかけた。
「何?」
笑っているのに、何故か泣きそうに見えて。
「どうかしたの?」
一歩近づいた。
頭の中で、警鐘が鳴り響く。
離れなければ危険だと。
彼は、男なのだと。
でも無視した。
今離れたら、とても大切なものを失ってしまう。そんな気がして。
一歩下がった透を追う。
「透?」
透の背が、ドアにぶつかった。
「姉さん…ダメだよ…」
透の顔が泣きそうに歪んだ。
「近づいたら、ダメだ」
無視してもう一歩近づく。
「どうしてよ」
もう距離は、ほとんどない。
「俺が…姉さんを…離せなくなるから…」
震える腕で、緩く抱きしめられた。ぽんぽんと、軽くその腕を叩く。
「いいわよ別に。そんなこと」
離せなくなるより、失ってしまうことの方がよほど問題だ。
軽くもたれかかる。
距離を0にする。
「そうじゃない…そうじゃないんだ…」
上から雫がポタポタと落ちてきた。泣き虫ね、と苦笑する。
まるで小さい頃みたい。
宥めるように、背中に手を回して何度も軽く叩く。
泣くことないのに。
「俺…姉さんを…一生離せなくなる………」
涙混じりの声に、クスリと笑いが零れた。
「バカねぇ」
「ほんっ…本当にっ…姉さん…離せなくなっちゃう…」
ボロボロ泣いて。
本当に子どもみたい。
「いいわよ」
涙でぐちゃぐちゃの顔を見上げて言った。ポカンとしている頭を撫でる。
「いいわよ、別に」
微笑みかける。
「っ…ダメ…だよ…あんなに嫌がってたじゃん…」
今さらなことを言う透に苦笑する。
「しょうがないわ。透はお姉ちゃん子だもの」
「そんなのじゃ済まないって言ってーー」
バカね。泣きやみなさいよ
つま先立ちをして額にキスすると、面白いくらいにぴたりと泣き止んだ。
「いいわよ。透は私の可愛い弟だもの」
「っ…弟じゃ済まないって言ってーー」
「でも、弟でもいてくれるでしょ?」
だったらいいわ。
鼻先にキスしてそう言うと、透は目を見開いた。
「…本当に…?姉さん…本当に…意味、わかってる…?」
再び泣きだした透に苦笑する。
本当に泣き虫なんだから
涙を拭った手をそっと両手で包まれた。その手が震えていて、笑ってしまう。
「こんな泣き虫な子、放っておけないわ」
可愛くて大事な、私の弟。
「…こういうことされても?」
唇にキスされた。
「ええ」
「……こういうこと、されても?」
首すじを、強く吸われた。
「ええ」
頷くと透の眉間にシワが寄った。
まるで怒っているみたいに。
「………こういうこと、されても?」
胸を服の上からつかまれた。
「ええ」
透の顔が辛そうに歪む。
「…ベッドに押し倒して、姉さんを抱いても?何度も姉さんの中を抉って、姉さんの中で出しても?嫌っていうほど抱いても!?」
「ええ」
構わない。
何をされても、私は透が大事。
それは変わらない。
肩を強くつかまれた。
真剣な、切羽詰まった瞳。
「っ!姉さん…これが…最後だよ…今なら…今なら逃げていい…追わ…ない……けどっ……もし…もし…もう一度…頷いたらっ……」
「いいわよ透。離さなくていい」
だからもう泣かないで
繰り返し頭を撫でる。
「っ…!!!」
キツく、抱きしめられた。
「姉さんのバカっ…一生…もう一生…離してなんかやれないからっ…」
「いいわよ透。だから泣かないで」
私をぎゅっと抱きしめたまま。
透はなかなか泣き止まなかった。
あなたにおすすめの小説
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました
恋せよ恋
恋愛
「元カノが忘れられないなら、私が身を引くわくべきよね」
交際一周年、愛するザックに告げた決別の言葉。
でも、彼は悲しむどころか、見たこともない
暗い瞳で私を追い詰めた。
「僕を捨てる? 逃げられると思っているの、アン」
私の知る爽やかな王子の仮面が剥がれ落ち、
隠されていた狂おしいほどの独占欲が牙を剥く。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
上手に騙してくださらなかった伯爵様へ
しきど
恋愛
アイルザート・ルテシオ伯爵は十七歳で家督を継いだ方だ。
文武両道、容姿端麗、人柄も良く領民の誰からも愛される方だった。そんな若き英雄の婚約者に選ばれたメリッサ・オードバーン子爵令嬢は、自身を果報者と信じて疑っていなかった。
彼が屋敷のメイドと関係を持っていると知る事になる、その時までは。
貴族に愛人がいる事など珍しくもない。そんな事は分かっているつもりだった。分かっていてそれでも、許せなかった。
メリッサにとってアイルザートは、本心から愛した人だったから。