ARROGANT

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翌木曜日

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「それで、君島さんでもそのDJとはまだ連絡がつきませんか?」
 そう訊かれて、ちらりと君島が刑事を見上げて、応えた。

「……この後、会います」

「え!どこで?」
「ちょっとね、お礼を言うだけです。本当は一人で行くつもりだったんだけど、ついでだしみんなで行けばいいかなって、」
「え?みんなで?俺も?」
「俺もじゃないでしょ!浩一がお礼を言うべきでしょ!」
「僕も?」
「健介も。当然」
「あ、さてはさっきのせんべい二つ買ったのはそのためか?」
「へへー」
「うわ。俺、橘に持って行くんだと思ってた。もう一つ買わないと」
「えー。朱鷺ちゃんの家はまた別の物買おうよ」
「朱鷺ちゃん、何がいい?スイーツがいいって!洋菓子系がいいって!」
「あー、僕もそっちがいいと思うなー。駅前のデパートに新しいテナントが入ったらしくてさー、」

「君島さん」
 世間話を始めた勝手な家族に向かって宮下刑事が声を張った。
「自分も同行してかまいませんか?」
「ダメです」
 君島が即答した。

「今日このあと、あの放送の総括をするそうです。その特番を組んでいるそうです。それが終われば色々と落ち着くと思いますから、調書はその後にお願いできませんか?」

 君島の意外に理論的な提案に、渋々と刑事が頷いた。


「じゃあそろそろ、」
 原田がそう言って立ち上がろうとした。
 その原田を、榎本が呼び止めた。


「浩一君」



 原田が、ちらりと目を向けた。



「君は、」



 優しい眼差しで見上げる榎本に、原田が突き刺すような視線を浴びせる。
 その視線を受けたまま榎本が言った。



「……大きくなったね。原田の背を越えてるだろうね」



 まるで子供に話し掛けるような言葉を口にして、榎本は眩しそうに目を細める。
 原田が目を逸らしたのに榎本は続ける。



「小さい頃からよく似ていたけど、やっぱりそっくりに育った。なにより声がそっくりで、」



 そこで榎本は、言葉を切った。
 原田は目を伏せたまま。

 それからまた、榎本が口を開いた。



「たまには、横浜に帰っているのか?」



 原田が、ふと口だけで笑み、初めて応えた。



「帰る場所なんか、ないですから」


「山口は待ってるぞ」



 榎本はそう言った。

 原田は、笑んだままもう応えなかった。

 榎本もそれ以上続けなかった。



「健介。荷物はこっちだね?手分けして持っていこう」
 君島が立ち上がって健介の肩を抱いて奥のテーブルに向かった。
 原田も立ち上がってそれに続いた。
「教科書とか全部あるの?」
「あると思うよ。なかったらどうしよう?」
「なかったらどうしたらいいんですか?」
 君島が刑事を振り向いた。
「ああ、確認できたら連絡してください。探してみますので」
「はい。お願いします」

 無言のままランドセルやバッグを持ち上げる原田に目を向けず、君島は健介や刑事と会話を続けながら、朱鷺にも荷物を数点預けた。


 山口というのが横浜で事務所を開いている弁護士で、榎本同様原田の亡父の親友で、原田の個人資産を管理しているということを君島は知っている。


 君島がそれを知っているということを、原田は知らない。
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