サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

Pero

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第六章 ベトナム旅行記・アイスコーヒーウイズミルク

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       第19話


ちょうど先生は読書をしていた様子で、読みかけた本を置いて、急な来訪客 に嫌な顔一つせずに応対してくれた。

 彼女は先生に英語で何か質問をしたが、先生はあまり英語が堪能ではないようで、首を傾げたりしていたが、マイケル君がベトナム語で通訳をしてくれて、先生はハノイの高校を卒業して、去年からこの部落に赴任しているということが分かった。

 マイケル君の話では、ベトナムでは田舎の村落辺りの学校は、都市部の高校を卒業したら教師として十分務まるらしいということである。

 「それじゃぁ、先生は二十才にもなっていないの?」

 と驚いて僕がマイケル君に聞いたところ、彼女が横から、「女性に年令を聞いちゃ失礼だよ!」と咎めるのであった。

 「しかし先生は天使のように綺麗だなぁ」

 僕は本当に心の底からそう思った。
 着ている衣服が白ということも、先生をよりいっそう若く純粋そうに見せていた。

 「ペロ吉は女性には本当に目がないんだから」
 と彼女は言う。

 【誰だってこんな綺麗な先生ならヨレヨレになるんじゃないか、僕だけが色ボケしているみたいに言わないでほしいな】と、心の中で呟きながら、僕はずっと先生を見つめ続けていた。

 しばらくして外に出て学校の写真を撮っていたら、今度は彼女が僕に、「ペロ吉はここに残って先生と暮らしたらどうなの。ペロ吉ならきっとここでも生活ができるよ」とたたみかけるように嫌味を言うのだ。

 僕は先生の写真を撮ろうと思っていたが、彼女がそんなことをいうので結局諦めてしまった。

 少女のような先生の姿にグイグイと後ろ髪を引かれながらも、僕達はさらに部落を進み、一軒の民家にお邪魔した。
 時刻はちょうど昼頃だった。

 「この家で昼食にします」

 マイケル君は言った。

 中に入れば薄暗い土間に一人の青年とその母親らしき女性、それに五才くらいの女の子がいて、僕達を笑顔で歓迎してくれた。

 電話もないし、マイケル君があらかじめ連絡をしてくれていたとは思えないが、居間のような広い土間の隣の部屋には、土間を掘ったかまどに火が熾っていた。

 青年がその火に木をくべて、周りに小さな木の椅子を持って来て、僕達に座るように勧めてくれた。
 僕達は雨具を脱いで、ヤレヤレという感じで腰をおろし、僕は雨具の下に着ていたブルーのシャツが雨でびしょびしょになっているのに気が付き、それを脱いで軒下に干した。

 僕は彼女にもらったラオスの半パンツに白のタンクトップという冴えない格好で火の前に腰を下ろし、濡れた体を乾かした。
 彼女達も濡れた靴下を脱いで火の近くで乾かし、彼女はベトナム語辞典を小さなリュックから出して来て、囲炉裏の向こうで火をくべている青年(といってもよく見れば十五才くらいだった)にベトナム語で何か話しかけた。

 本当に僕は彼女のこういうところを尊敬してしまうのだ。

 この年(失礼)になってもまだまだ向学心に溢れ、ラオスではフランス語教室に二週間学び、ベトナムでは教室には行かないまでも、その国の言葉を覚えようという姿勢に感心してしまう。
(去年はアフリカのモロッコに二ヶ月程滞在してフランス語を勉強したらしい)

 僕達が囲炉裏の周りでのんびりとしている間にも、マイケル君は昼食の準備に忙しく動き回っている。
 彼は僕達に手作りの昼食をご馳走してくれるというのである。

 彼は背中に小さなリュックを背負っていたが、その中から日本の厚揚げを小さくしたようなものと、緑黄野菜と牛肉を出して、居間の反対側の方にある台所で調理を始めた。

 御飯は飯盒を大きくしたようなもので炊き、かまどでは中華鍋にラードを入れて最初に厚揚げを入れて炒め、次に牛肉を細かく切ったものを強火で炒めて、それに野菜を入れてさらに炒め、味の素を加えて出来上がりである。

 僕達はその間、青年と母親を交えて雑談していたが、母親はまたしても自分の手織物やブレスレットなどの購入を勧めてきた。
 オレンジさんは優しい人柄なので手織りのショートパンツを一着購入したが、彼女は僕の方を指差して、「あのおじちゃんが買ってくれるよ!」などと無責任なことをいって僕の方に振るのだ。

 彼女は買物が決して嫌いでなく、むしろ大好きなのが後で分かるのであるが、自分の納得したものでないと簡単に購入しない。

 ともかくせっかく昼食の場所を提供してくれているので、僕はなんだか悪い気がして、シルバーのブレスレットを一万ドンで一つ買った。
 それから食事のために台所のある部屋に行くと、小さなテーブルの上には御飯と、厚揚げにたれをかけたものと、牛肉と野菜の炒めたものという料理が既に並べられていた。

 こんなマイノリティー部落の家で、マイケル君の手作りの昼食を食べるなんて予測していなかった。
 心が豊かになるような彼の料理を僕たちはいただいた。

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