サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

Pero

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サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 ㉜

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     第一章 2001年 春

 ◆プーシーの丘からメコン川の方向を眺めると王宮などが見えます。

 



       三十二

 ルアンパバーンはラオスの北部山岳地帯に位置し、十六世紀まではラオス王国(ランサーン王国)の首都として栄えた町である。

 首都がビエンチャンに移ったあと、ラオスの分裂でルアンパバーン王国が成立すると再び首都となった。

 千九百七十五年の革命で王朝は廃止されたが、同八十年後半より開放政策が発せられると寺院も過去の栄華を取り戻し、千九百九十五年にはユネスコの「世界遺産」に町全体が登録され、その華美な街並みに魅了されて外国人観光客も次第に増えてきているとのことだ。

 それは街を歩くと欧米人を中心とした多くの旅行者を見かけたし、観光客のための宿やレストランなどもここ数年で随分と増えたという話からも知ることができる。

 町はメインストリートだけに限って言えば、端から端までゆっくり歩いても十五分程しかかからず、約三百メートル四方の中に、町として機能している官公庁やタラート(市場)、商店街、さらにホテルやゲストハウスなどが存在しているといっても過言ではない。

 しかし街外れはメコン川の豊かな水をいただき、緑多い自然が溢れ、有名なプーシーの丘から見下ろす町全体の景観はしばらく安らぎを感じて佇んでしまうほど素晴らしい。

 
 さて僕達は到着したバスターミナルから、ある青年のトゥクトゥクに乗って街外れにある小ぎれいなゲストハウスに着いた。
 部屋を見せてもらうと、殆どがツインルームで、シャワー室は共同である。

 それぞれに部屋が欲しかったので、ツインルームをシングルの値段で交渉し、その青年は最後には二万五千Kip(約三百五十円)でOKですと言ったのだが、僕は他を探すと言って出てきてしまった。

 その時の僕の精神状態は、思い出そうとしてもはっきりと甦ってこないのだが、今から思えば三人でそこに泊まってもよかったのに、いったいあの時の僕は何を考えていたんだろうと不思議である。

 おそらく、本当はバンビエンのようにHさんやN君と一緒の宿に泊まりたい気持ちがあったのに、旅は基本的にはひとりなんだという考えとが交叉していたのだと思う。

 結局、Hさんだけがその青年のゲストハウスに泊まることになって、ビエンチャンで知り合ったFさんとの昨日の約束の場所、スカンジナビア・カフェで、同じ午後六時に待ち合わせをして、N君と一緒に他の宿を探した。

 Hさんの宿は街の中心部からはかなりの距離があったようで、僕達は十五分程歩き回ってようやく一軒の宿に着いたが、部屋を見せてもらうとあまり綺麗じゃないので、僕は他を探すと言って歩き出した。

 少し歩いて後ろを振り向くと、ついて来ていると思っていたN君の姿がなく、どうしたのだろうと少し心配したが、あとで会うことになっているから、僕はともかく宿の確保のためガイドブックを片手に汗びっしょりになりながら歩いた。

 バス発着場に到着してから既に一時間程が経過しているので、先ほど到着したバックパッカー達はとっくに宿を決めている筈と思うと、歩きながら少し焦りを感じた。

 町のほぼ真ん中に位置しているタラートの前を通り、大通りを横切って、舗装されていない裏路地を入って少し行くと、ホンタビーというゲストハウスが見えた。

 門を入ると、宿の中庭には若い女性がふたり佇んでいて、「ドゥーユーハブ、シングルルーム・ウイズ・ホットシャワー?」と言うと、「空いてますわよ」と言う。料金は一泊三万キープ、四百二十円程である。

 案内された部屋は中庭に面した一階の端で、オープンしてまだ一年余りということもあり、部屋の中は白を基調に綺麗で、ツインルームを1人で使用してよいということである。

 しかしバックパックを置いてシャワーを浴びると、シャーワー室には湯沸かし器のようなものがあるのだが、出てくるのはお湯ではなく少し温かい程度のほぼ水だった。

 ともかく一日遅れだけど、もしかすればFさんが約束していたカフェに現れる可能性もあるので、僕はシャワーを浴びてから綿パンに新しいTシャツに着替え、さらにバンダナも新しいものを巻いて、約束のカフェにブラブラと向った。

 スカンジナビア・カフェは街の中心、ナーボン通りに面していて、正式名称はスカンジナビア・ベーカリーといって、パン・プリン・クッキーなどのスナック類と飲み物全般の店である。

 午後五時三十分には店に着いて、ペプシを注文して店の前のオープン席で待つことにした。 

 するとどこからか、「こんにちは」と女性の声が聞こえたのでその方向を向くと、少し離れたテーブルに男性ふたりと女性ふたりの日本人がコーヒーを飲んでいた。

「どうも、四人グループですか?」と訊くと、「いえ、皆ひとりなんですけど、たまたまバスが一緒だったもので」と当然の返事が返ってきた。

 男性は二十代前半と後半くらい、女性は二十代前半ともうひとりの色っぽい女性は年令不明、皆さん短期ではなく一ヶ月から三ヶ月の旅の途中で、この町には昨日ビエンチャンから到着したらしい。

 このように、本当に羨ましい長期の旅行者が、滞在する町々で結構多いものだ。

 しばらくしてN君がトゥクトゥクに乗ってやってきた。
 歩いても十五分程なのに、N君はもっと運動する必要があると思った。(笑)

 そして数分後にHさんも登場したが、彼女は「ゲストハウスからここまで歩いてきました。二十五分ほどかかりますね」と涼しい顔で言っていた。さすが旅慣れた人は違うと思った。

 僕達はビエンチャンで知り合ったFさんが、一日遅れのこの場所に現れるかもしれないので、ともかく待ってみることにした。
 
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