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サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 ㉝
しおりを挟む第一章 2001年 春
今思えば、このころはスマホもない時代で、デジカメが出始めのころでしたが、僕は小さなインスタントカメラしか持っていなかったので、撮影画像が圧倒的に少なかったのが残念です。
三十三
ルアンパバーンの初日の夜、僕達はビエンチャンで知り合ったFさんと再会を約束したスカンジナビア・カフェでしばらく待った。
約束したといっても、彼女との約束日は昨日の午後六時だったのだから、いくらバンビエンからメールで一日遅れになる旨を送ったといっても、彼女がそのメールをチェックしていなかったら分からない。
仮にチェックをしていたとしても、彼女には彼女の旅日程がある訳だから現れない可能性のほうがずっと高いのだ。
結局、六時四十分まで店の前のオープンカフェで待ったが、やっぱり彼女は姿を見せなかった。
僕達はバンビエンに一日に多く滞在したため当初の約束を果たせなかったのだが、旅をしているとたびたびこのようなことが起こり得るから、いちいちこだわっていてはいけない。
何故なら基本的に旅は自分自身のものだし、途中で気の合った旅人と出会っても、それは一過性のものとして捕らえなければならないし、周囲に影響されることなく自分が予定している次の目的地に進む必要があるのだから。
あとで分かったことだけど、Fさんはルアンパバーンには二日間滞在し、僕達が到着した日の朝にスピードボートでメコン川をフェイサーイに上り、その後ミャンマーの国境を経てタイに渡り、チェンマイから少数民族の村などを回って帰国したとのことであった。
彼女に正露丸のお礼が出来なかったことは残念だったが、僕達は夕飯を食べようということになり、スカンジナビア・カフェの斜め向かいにある小奇麗なレストランに入った。
ここではN君はフライドライス・ウイズ・チキン、彼女と僕はヌードルスープ、それにスプリングロールを一皿注文し、ビアラオ三本でルアンパバーンの最初の夜を過ごした。
このレストランのある通りは、ルアンパバーンの街中ではメインストリートで、通りの両側にはカフェやレストランや雑貨屋などの商店がズラッと並んでいた。
僕達が食事をした午後七時ごろから九時ごろは、まだまだたくさんの人達で賑わっていたが、その半分は欧米人を中心としたツーリストであった。
僕達は外のオープンカフェで順調にここまでたどり着けたことを祝い、世界遺産の町にいることを喜んでビアラオを飲み干した。
ここで食べたヌードルスープは薄味で食べやすく、春巻きもベトベトしていなくて美味しかった。
僕は普段はどちらかといえば大食漢に近いのだが、ラオスに来てからはそれほど食べなくなっていた。
それはきっと、ビアラオというラオス唯一のビールが飲みやすく、しかも大瓶なのでグビグビッと何杯もあおっていると、すぐにお腹が一杯になってしまうからだと思った。
それぞれビールを一本ずつ飲んだあと、もう一本注文して三人で分けようということになり、結局、ビアラオ四本と前述の食事でお勘定を頼むと六万Kip(八百円程度)だった。
しかし三人ともKipの持ち合わせが少なく、全部合わせてもぜんぜん足りなくて、バーツで支払うことになった。
ご主人に計算を依頼して言われるままに支払ったのだが、お釣りをもらってから、「ちょっと少ないのじゃないですか?」とHさんが言い出した。
僕は大体がいい加減な男だから、きちんと計算もしなくて、「いいじゃないですか少しくらい」と言うと、「きっちりしてもらいましょうよ。勘違いかも知れないし」とHさんが毅然と言うのでそれに従った。(N君はその様子をニコニコして眺めていた)
店の奥のキャッシャーに行き、Hさんが「さっきのお勘定もう一度計算しなおしてください」と言うと、気の弱そうなご主人が計算書とそれにくっ付けていたお釣りの紙幣を出してきた。(テーブルごとに計算書とお釣りの紙幣を挟んでいた。キチンとしていることに少し驚き。尚、ラオスには硬貨はありません)
ご主人はしばらく計算し直していたが、結局は「あっ、ちょっと間違っていましたね」という感じで微笑みながら、五千Kip(七十円程)を返してくれた。
もちろん故意ではなく、Kipとバーツとのややこしいレート換算間違いだったのだが、僕達は知らないうちに現地の貨幣価値に順応してきているような気がした。
と言っても、しっかりしているのはHさんだけなのだが。
レストランを出て宿の方向に歩くと、まだ午後九時過ぎだというのに辺りは真っ暗に近く、街灯などという代物はない。
僕の宿の前の通りを過ぎて、インターネットカフェに三人で入って行ったが、二人ともうしろで見ているだけで、僕だけが自分のホームページに書き込みをした。
パソコンを打ちながら、明日は帰りの航空チケットを買うため朝八時にラオス航空オフィスで会う約束をしたら、「じゃあ先に帰ります」と言って二人とも帰ろうとするのだ。
僕は彼女の宿がここから随分と遠いし、きっと真っ暗闇なので送って帰ろうと思っていたので、「ちょっと待って。危ないから僕が大通りまで送っていくよ」と言ったのもつかの間、Hさんは「いいです、心配ありませんから」と言い残して走り去ってしまった。
翌日彼女は、帰り道は全くの真っ暗闇で、ここで襲われたらどうにも出来ないと本当に焦ったと言っていた。
そら見たことか、僕は心配で安眠できなかったんだから。(笑)
このようにルアンパバーンの初日はドタバタと終わった。旅もあと四日になってしまった。
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