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サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 ㊵
しおりを挟む第一章 2001年 春
四十
ルアンパバーン三日目は、体調が少し良くなったり、また悪化したりという繰り返しで、相変わらず下痢も止まらなかった。
午後三時になり、Hさんとの約束の四時には少し時間が早いが宿を出た。
途中郵便局に立ち寄り、絵葉書をニ枚購入し、一枚は埼玉県に住むベトナムで世話になった彼女に、もう一枚はHさんから教えてもらった彼女の自宅へ、即興で文章を書いて送った。
天候は雨が降ったりやんだりで、いよいよラオスも乾季から雨季が訪れてきた気配を感じた。
ブラブラとメインストリートを歩き、午後四時前にスカンジナビア・ベーカリに着いた。
朝から食事らしいものを全く摂っていなかったので、小さなパンとヨーグルト、ペプシを注文して、オープンテーブルでHさんとO村君を待った。
パンを小さくちぎって口に放り込み、無理やりペプシで流し込んだが、ふた口ほど食べると気分が悪くなってきた。
しばらくすると一昨日同じ場所で会った日本人四人のうちの一人の男性が偶然現れた。
腹具合が悪いことを話すと、「正露丸とか日本の薬では効きませんよ。現地の病気は現地で売っている薬が効くらしいです」と真面目な顔をして言う。
そんなものなのかなと思っているとO村君が現れ、三人でしばらく道路の向かい側で行われている屋根瓦修復工事の様子を眺めながら、Hさんを待った。
その工事の様子は本当におかしな光景だった。
改築した民家の屋根瓦を交換しているのだが、屋根の上に男性二人が上り、男性一人が下から新しい長方形の瓦を放り上げ、上の一人の男性がそれをキャッチしてもう一人の男性に手渡し、その男性が一枚ずつ瓦を張っていくといったコンビネーションなのである。
日本なら絶対に見られない光景だと思う。
日本なら、下から一枚一枚放り上げて、それを丁寧に受けて・・・といった方法はおそらく採用しないと思うのだ。
ハシゴがあるのだから、先ずはそれぞれが持てるだけの瓦を屋根にある程度上げてから、皆で張っていくというやり方ではないだろうか。
ラオスという国に来てみて最初に感じたのは、人々はもちろん、町全体やメコン川の流れまで、あらゆるものがゆったり、のんびりと動いているということだった。
首都ビエンチャンは信号機がニヶ所しかなく、信号無視をしたトゥクトゥクを警察官が呼び止めても、まあいいじゃないかという感じで見逃していた。
ルアンパバーンの郵便局員は、僕が入って行っても窓口で大きなあくびをしていて、やる気があるのかないのか分からなかった。
あくせくしないということは分かるが、日本人から見るとのんびりし過ぎだという印象を受けた。
国全体がこのようにゆったりと動いているから、経済の発展もきわめてスローなのではないかと思ったりもする。
屋根瓦の修復作業ひとつ取っても、エイ! ホッ!ヤッ!という風に掛け声があるわけでなく、一枚を放り上げる間隔が長くて、なかなか作業がはかどらない。
時には放り上げた瓦を、上の男性がうまくキャッチできなくて下に落としてしまい、ガチャーンと見事に割れてしまうのを、苦笑いをして彼等は眺めているのだ。
「のんびりした屋根工事ですね」
O村君も僕と同じ様なことを感じていたのか、対面の光景を眺めながら呟いた。
「この国では一日が四十八時間あるのかもね」
僕は笑って言った。
午後四時四十分までHさんを待ったが、彼女が現れなかったので、僕達三人はルアンパバーンの名物であるプーシーの丘に登ろうということになった。
Hさんはゲストハウスのニコン青年と滝遊びに夢中なのだろう。
昨夜別れ際に、「約束の時間に間に合うかどうか分かりません。滝まではかなり遠いらしいですから」と言っていたので、ある程度予測はしていたが、ちょっと残念な気がした。
プーシーの丘の登り口はメインストリート沿いにあり、僕らはカフェを出てゆっくり歩きはじめたが、しばらくすると雨が勢いよく降ってきた。
やむなく僕達は民芸品屋の軒下でしばらく雨宿りをすることにした。
本当にのんびりと、ラオスの時間は流れて行く。
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