サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

Pero

文字の大きさ
40 / 208

サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 ㊵

しおりを挟む

    第一章 2001年 春

       四十
 
 ルアンパバーン三日目は、体調が少し良くなったり、また悪化したりという繰り返しで、相変わらず下痢も止まらなかった。

 午後三時になり、Hさんとの約束の四時には少し時間が早いが宿を出た。

 途中郵便局に立ち寄り、絵葉書をニ枚購入し、一枚は埼玉県に住むベトナムで世話になった彼女に、もう一枚はHさんから教えてもらった彼女の自宅へ、即興で文章を書いて送った。

 天候は雨が降ったりやんだりで、いよいよラオスも乾季から雨季が訪れてきた気配を感じた。

 ブラブラとメインストリートを歩き、午後四時前にスカンジナビア・ベーカリに着いた。

 朝から食事らしいものを全く摂っていなかったので、小さなパンとヨーグルト、ペプシを注文して、オープンテーブルでHさんとO村君を待った。

 パンを小さくちぎって口に放り込み、無理やりペプシで流し込んだが、ふた口ほど食べると気分が悪くなってきた。

 しばらくすると一昨日同じ場所で会った日本人四人のうちの一人の男性が偶然現れた。

 腹具合が悪いことを話すと、「正露丸とか日本の薬では効きませんよ。現地の病気は現地で売っている薬が効くらしいです」と真面目な顔をして言う。

 そんなものなのかなと思っているとO村君が現れ、三人でしばらく道路の向かい側で行われている屋根瓦修復工事の様子を眺めながら、Hさんを待った。

 その工事の様子は本当におかしな光景だった。

 改築した民家の屋根瓦を交換しているのだが、屋根の上に男性二人が上り、男性一人が下から新しい長方形の瓦を放り上げ、上の一人の男性がそれをキャッチしてもう一人の男性に手渡し、その男性が一枚ずつ瓦を張っていくといったコンビネーションなのである。

 日本なら絶対に見られない光景だと思う。

 日本なら、下から一枚一枚放り上げて、それを丁寧に受けて・・・といった方法はおそらく採用しないと思うのだ。

 ハシゴがあるのだから、先ずはそれぞれが持てるだけの瓦を屋根にある程度上げてから、皆で張っていくというやり方ではないだろうか。

 ラオスという国に来てみて最初に感じたのは、人々はもちろん、町全体やメコン川の流れまで、あらゆるものがゆったり、のんびりと動いているということだった。

 首都ビエンチャンは信号機がニヶ所しかなく、信号無視をしたトゥクトゥクを警察官が呼び止めても、まあいいじゃないかという感じで見逃していた。

 ルアンパバーンの郵便局員は、僕が入って行っても窓口で大きなあくびをしていて、やる気があるのかないのか分からなかった。

 あくせくしないということは分かるが、日本人から見るとのんびりし過ぎだという印象を受けた。

 国全体がこのようにゆったりと動いているから、経済の発展もきわめてスローなのではないかと思ったりもする。

 屋根瓦の修復作業ひとつ取っても、エイ! ホッ!ヤッ!という風に掛け声があるわけでなく、一枚を放り上げる間隔が長くて、なかなか作業がはかどらない。

 時には放り上げた瓦を、上の男性がうまくキャッチできなくて下に落としてしまい、ガチャーンと見事に割れてしまうのを、苦笑いをして彼等は眺めているのだ。

「のんびりした屋根工事ですね」

 O村君も僕と同じ様なことを感じていたのか、対面の光景を眺めながら呟いた。

「この国では一日が四十八時間あるのかもね」

 僕は笑って言った。

 午後四時四十分までHさんを待ったが、彼女が現れなかったので、僕達三人はルアンパバーンの名物であるプーシーの丘に登ろうということになった。

 Hさんはゲストハウスのニコン青年と滝遊びに夢中なのだろう。

 昨夜別れ際に、「約束の時間に間に合うかどうか分かりません。滝まではかなり遠いらしいですから」と言っていたので、ある程度予測はしていたが、ちょっと残念な気がした。

 プーシーの丘の登り口はメインストリート沿いにあり、僕らはカフェを出てゆっくり歩きはじめたが、しばらくすると雨が勢いよく降ってきた。

 やむなく僕達は民芸品屋の軒下でしばらく雨宿りをすることにした。

 本当にのんびりと、ラオスの時間は流れて行く。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

真面目な女性教師が眼鏡を掛けて誘惑してきた

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
仲良くしていた女性達が俺にだけ見せてくれた最も可愛い瞬間のほっこり実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...