サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

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第二章 2002年 春

サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 63

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     第二章 2002年 春

 63 タビソックGHへ帰ってきた

 おそらく外から見れば風船のように車体が膨らんでいるであろう、定員の十倍もの乗客と荷物を載せたオンボロバスは、途中何のトラブルもなく、しかし一度のトイレ休憩もなく、四時間あまりの走行を経て午前十一時過ぎには無事バンビエンに到着した。

 昨年は途中で一度、原っぱのような何でもない場所でバスが止まり、トイレ休憩を取ったのだが、今回は少し時間が遅れていたから一気に突っ走ったのかも知れない。

 やはり一応運行時間を気にしているのだ。

 バスの屋根からバックパックを降ろしてもらって、ゲストハウスの客引きたちを丁寧に断りながら飛行場跡を横切り、見覚えのある道に出た。

 バンビエン唯一の銀行の前を通り過ぎて最初の角を左に曲がると、あの懐かしいタビソックゲストハウスの入口が見えた。



 「去年二泊お世話になったゲストハウスですけど、エアコンも何もありませんが、家族が皆さん良い人なのです。そこで構いませんか?」と、一応R子さんには了解を得ていたものの、去年と様子が変っていなければいいのだが、という心配も全くの杞憂だった。

 入って行くと中庭のテーブルで昼食中の家族が僕達を見て、女将さんとご主人がそれこそすっ飛んできて歓迎をしてくれた。

 女将さんはラオス語で何やらギャーギャー叫んでいるが、おそらく、「キャー、よくきてくれたねぇ。ぜんぜん変っていないね、ハンサムな顔もそのバンダナ頭も。今年は彼女と一緒なのかい?綺麗な彼女だね、なかなかやるじゃないか、あんた」といった感じだろう。

 やはり昨年の、「日ラオ親善酒盛り、いいちことラオラーオの競演、ご主人二日酔い大騒動の夜」の強烈な印象が、女将さんの頭の中に残っていたに違いない。

 僕はご夫婦が僕の顔を見た途端に思い出してくれて、すぐに走ってきて歓迎してくれたことに、思わず感激の涙をポロリとこぼしてしまうところだった。

 しかし僕も男だ。R子さんの手前もあり、テレビ番組のウルルンみたいにメソメソ泣くわけにはいかない。
 それに僕は何といっても、もう四十半ばを過ぎた中年ではないか。

 女将さんは相変わらずラオス語で何やら僕に話し続けながら、「シングルの部屋二つ空いてますか?」と僕の問い合わせにも、「当たり前じゃないか、さあこちらへ!」といった感じで僕達を引っ張って行く。

 ご主人はその光景を少し離れたところから、ニコニコしながら見ているのだった。

 二階の階段を上ってすぐの部屋をR子さん、一階の入口が僕の部屋となり、バックパックを置いて、僕は早速昨年この宿で写したご家族の写真を見せに行った。

 中庭の大きなテーブルにはご夫婦とご主人の弟さんがいて、僕が大きく引き伸ばした写真を数枚並べると、「ワーッ」と、驚きの声があがった。

 写真はご夫婦が並んでいるものや、ご主人のご両親が後ろに並んで立っているもの、さらにあのタビソックが三輪車に乗っているものや泣きべそをかいているものまで、なかなかバラエティーに富んでいて、家族はしばらく写真を食い入るように見ていた。【持ってきて本当に良かった】

◆前の年に撮った写真のいくつか








 しばらくするとR子さんも中庭に出てきて、一緒になって写真を見ていた。

 ラオスではまだまだ写真を撮るということは日常化していないのだろう。

 こんなに喜んでもらえるとは思いもしなかっただけに、これから毎年訪れて、タビソックの成長を写真に撮り続けようかとさえ思った。

◆R子さんとタビソックゲストハウスのご夫婦





◆タビソックもこの時2歳半くらいになったかな




 ともかく僕達も昼食だ。

 バンビエンの町は端から端まで歩いても五百メートルもないくらいである。ゲストハウスを出て通りをしばらく歩いたが、昨年と殆ど変っていない。

 少し変化があるとすれば、新たなゲストハウスが増えていたり建築中であったりという様子で、このバンビエンも観光地化されつつあるのかと、少し残念な嬉しいようなおかしな気分になった。

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