サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

Pero

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第三章 バンコク近郊・意外展開旅行記

サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 99

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  中島みゆきさんとの遭遇

 旅の四日目、アユタヤ初日の夜はベッドで沢木耕太郎氏の「深夜特急」を読んでいるうちに、いつの間にか寝てしまっていた。

 気温は高いが部屋の天井のファンからの風やベランダからの空気が心地よく、快適な睡眠が取れた。

 翌日は午前中だけアユタヤを見たら移動しようと思っていたが、朝食をとりに階下に降りて行った時に、急遽予定を変更することに決めた。

 オムレツとトーストにコーヒーという食事を終えてフロント前のソファーに座ると、フロントには若い女性がいた。
 挨拶を交わすと日本人だった。この女性が何と若いころの中島みゆきさんとそっくりなのだ。

「中島みゆきさんじゃありませんか?」と僕はとぼけて訊いた。

「何言ってるんですか、やめてくださいよ」と彼女は笑いながら言った。

 そうかもしれない、中島みゆきは今や五十才を過ぎているのだから。
 でも歳を重ねても中島みゆきは美しいと僕は思う。

「いや、彼女の若いころによく似ているから。昔は凄く綺麗だったんですよ」

 僕はフォローしながら、彼女にアユタヤに何泊する予定かを訊いてみた。
 すると彼女は「もう五十泊くらいしていますよ」と訳の分からないことをおっしゃる。

 さらに訊けば、彼女は九州は福岡、博多の女性で、数年間勤めた会社をめでたく退職し、五月頃にアジアの旅に出たらしい。

 シンガポールを旅の始点とし、マレー鉄道でマレーシアをゆっくり上り、タイに入った。

 タイの南部をあちこち回りながらバンコクを経てアユタヤに七月の上旬に着き、この宿に泊まったが、大変居心地が良いし宿のご夫婦も「忙しいから良ければちょっと手伝ってくれないか」と言うので、宿泊代無料食事付という条件で宿のフロント業務や掃除などを手伝っているとのことだった。

 ちょうど話をしている時に欧米人の男女がチェックアウトした。

 宿代や食事代の計算をテキパキと行って、計算書を示して英語で会話をしていたから、かなり仕事には慣れているようだし、金銭を扱う仕事も任されているということは、随分と信頼されているのだろう。

「これからどうするの?」と訊くと、「ずっとここにいても先に進まないし、行きたいところはたくさんあるのですけどね。でもここが凄く居心地が良いし、ご夫婦も助かると言ってくれますから・・・」と優柔不断なことを言っていた。

 このように旅の途中で理由は様々でも、いわゆる「沈没」という旅用語があるが、そうなってしまう旅人がいるのは当然だ。
 それほどアジアの旅はのんびりと時間が過ぎて行く。

 彼女が宿を手伝っている女性だと知って、残り六日の旅日程はずっとこの宿で過ごそうかとも考えたが、アユタヤはバンコクと違って二日も滞在すれば十分な町だし、もう一泊だけすることに決めた。

 そうとなれば今日もゆっくり遺跡観光に出よう。
 僕は彼女に「じゃあまたあとで」と言って、アユタヤ遺跡めぐり二日目に出て行った。

 宿を出て、昨日と同じように歩いて行こうと思っていたが、間もなく一台のトゥクトゥクが近づいてきて、「アユタヤ市内観光、五ヶ所回って三百バーツ」と言うのだ。

 僕は手を振って「要らない」と示して歩き続けたが、彼はゆっくり走らせながらついて来る。

「二百五十バーツ、二百バーツ!」と値段を下げてきた。
 いい加減にしろよと思って立ち止まると、かなり年配のオヤジさんだった。

 人が良さそうに見えたので、「ワット・ロカヤスタまで片道だけでいいからいくらですか?」と訊いてみた。

 すると彼は五十バーツと言う。

 僕が「四十バーツ」を宣言したら、オヤジさんはともかく乗れと言うので、とりあえず乗ることにした。【四十バーツ以上は絶対に払わないぞ】

 トゥクトゥクはけたたましいエンジン音を出して市内へ突入して行った。

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