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第三章 バンコク近郊・意外展開旅行記
サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 112
しおりを挟む大倉直氏との出会い その三
大倉直さんは僕が話した調査の案件ネタをよければ書かせて欲しいという。
そればかりではない、実はこのころ僕はある女性に自分の将来をナビゲートされ気味になっていたのだが、このことも彼の巧妙な話の引き出し術によってペラペラ喋ってしまった。
不思議な話で興味があるから、僕が書かなかったら直さんが書きたいと言った。
その時の成り行きでそう言ったのかも知れないが、僕は彼に「そんなに面白いネタですか?じゃあ、僕が書いてみて、どうしても本になりそうになかったらお願いします」ということで落ち着いた。
その後ネットカフェで時間を潰し、夜になったので直さんと食事に出た。
数日前に立ち寄ったバーではちょっとした料理も出してくれるし、一応メコンウイスキーのボトルがまだ残っているそうで、そこでも良いですかと言う。
勿論、何の異論もない。
僕達はワット・チャナソンクラムの境内を抜けて、チャオプラヤ川との間にある通りに出た。
この辺りにもたくさんの安宿や飲食店があり、カオサンのメインストリートに比べて随分と静かである。
◆チャオプラヤー川
◆カオサンロード
通りには欧米風レストランが多く、僕達はその中で小さな入口のバーに入った。
すぐに店員が愛想良く奥のテーブル席に案内した。
「ここは昨夜一人で飲みに来たのですよ。彼らにも少しお酒を飲ませたので愛想が良いのでしょう」
大倉さんはこの年の五月に日本を出て、一年間の予定で海外に住む日本人の生活を取材しているということで、中国からインドシナを経て一週間ほど前にバンコクに着いたらしい。
この先は、インドからトルコを経てヨーロッパ、さらにアメリカからメキシコ、最後は南米のアルゼンチンと取材旅行を続ける予定と語っていた。
カオサンではインドビザを申請している関係で、もう少し滞在することになったとか。
彼はこのトラベラーズロッジに長期滞在している連中のことも、それぞれに話を訊いてみると興味深い旅行者もいますよと、やはり作家らしく客観的に観察をしていた。
僕達は野菜炒めのようなものとトムヤンクン、そしてナッツを注文してメコンウイスキーを飲んだ。
彼は穏やかな人柄で、自分のことをあまり語らず、かといって黙るわけではなく相手の話をよく訊くから、きっと友人知人が多いのではないかと推測した。
彼が昨夜残していたメコンウイスキーのボトルを空にして、さらにもう一本追加して水割りで飲んだ。
僕はこのカオサンで彼と出会ったことがとても嬉しくなってきた。
昨年春のラオス旅行では、山岳の田舎町・バンビエンで旅行作家の岡崎大五氏とゲストハウスの部屋が隣り合わせになり、多くを語り酒を飲んだ。
そして今年はバックパッカーのメッカといわれるカオサンで大倉直氏とこのように話をする機会を得た。
これは偶然だろうか?
「僕はいつか本を出したいと思っています。どうすれば出せますか?」との僕の問いに対して、ふたりとも「出版は運とコネですね」と言っていた。
「でも諦めずに原稿を出版社に送ってみることです」ともアドバイスをくれた。
そしてこの大倉直氏との出会いから僅か半年あまりのちに、僕は「探偵手帳」というノンフィクションを幸運にも出版することができたのであった。
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