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第四章 タイ・ラオス・ベトナム駆け足雨季の旅
サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 132
しおりを挟む第十六話
I君の言葉にバスの方向を見ると、乗降口には何十人もの人々が殺到していた。あわててバックパックを背負う。
「それじゃあお元気で」とバスへ走る僕。
「藤井さん、気をつけて!もしよければメールください。僕のメールアドレスは○△■※×@です!」とI君が僕の背後から叫んだ。
乗降口では殺到していた現地人たちを「ダメダメ!」と乗務員が退けて、先ずは僕と欧米人カップル(後で訊くとフランス人だった)だけを乗せた。
つまり規定の乗車券をキチンと購入していたのは僕と欧米人だけだということなのだろう。
或いは、旅行者を先に乗せるはからいだったのか。
「ありがとう」と僕は振り返り、I君にお礼の言葉を言って乗り込んだ。
バスはエアコンなど付いているはずもないのは覚悟の上だったが、驚いたことにバックパックを屋根の上に上げる訳でもなく、皆が手荷物を車内へ持ち込んだから大変。
しかも予め通路や座席下に段ボール箱やズタ袋などがビッシリ敷き詰められていて、座席を与えられたものの足を伸ばせず、「体育すわり」を余儀なくされた。
この物資はおそらくラオスからベトナムへ輸送手段としても以前からあるのだろう。
バックパックは係員によってバスの後部へ移動された。
後部は座席が外されて、荷物が積まれていたが、その間に僕と欧米人カップルのバックパックが押し込まれるという格好になった。
そして次に・・・われわれ三人が着席したのを確認した後、係員がいよいよ現地の人々を乗り込ませた。
殺到して車内へ入り、大人も子供も女も男もギャーギャーと何かを叫びながら席を奪い合う。
車内はたちまち阿鼻叫喚に包まれた。
座席数を決定的に大きく超えた人々が乗り込んだため、通路に座る人々、後部の荷物の上に座る人々、さらには網棚に紐を掛けて、ハンモックを吊るして寝る男まで現れ、もう訳が分からないパニック状態。
そして幸運にも座席に着けた人々も、すべて体育座り。
何なのだこれは?でもこれがアジアらしさともいえるのかも知れない。
ともかくバスは出発した。
小雨は降り続いている。エアコンのない車内は蒸し暑く、窓を少しだけ開けるが、雨が入り込んでくる。
状態としては非常に悪い。
さらに僕の隣席にはラオス人かベトナム人か中国人か分からんオッチャンが座り、彼の体臭からすえた匂いが発散されており、不快感が増してきたのだった。
そんな劣悪な車内で、乗車前にI君が叫んだ彼のメールアドレスを忘れないうちに、首から吊り下げているミニバックからメモ帳を取り出し、しっかりと書き留めた。
この一瞬の記憶力は、僕が長年携わってきた探偵業における賜物と言っても良いのだが、この記憶力は残念ながら一時間がリミットで、それを過ぎると忘却の彼方へと散ってしまう。
さて定員をはるかに超えた人々を乗せたバスは、この先ベトナム国境の町・デーンサワンへ向かったのだった。
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