143 / 150
日本全国津々浦々 ⑦
しおりを挟む日本全国津々浦々 出雲の国編 その七
被調査人の母親が営む和風スナックで深夜まで飲んだ。
幸いと言うか何と言うか、この夜は途中から他に客は来なかったので、母親にも酒を勧めながら様々な話ができた。
私はビールのあと日本酒の熱燗を飲み続け、かなり酔ってきたが、はっきりとした意識の中で酔っ払った振りをしてプライベートなことに話を踏み入れた。
「女将さんは離婚してからずっとお一人ですか?」
「そうですよ。男はもう結構」
笑いながら言う。
日本酒を飲む仕草がとても色っぽい。
きっとこの店の常連客の中には、女将さんを目当てに飲みに来る男性も多いのではないかと思った。
幼少時に離婚していることを知っているが、それをさりげなく「離婚されたのは最近ですか?」などと訊き、「いえいえ、息子が小さな頃だから、もう二十年も昔になりますよ」と返答を得て、「実は僕も離婚して今は一人なのですよ」と相手の興味を引くことをわざと言ったりもした。
「お客さんもお一人なの?子供さんは?」
「息子が二人いますが、別れた女房のところにいます。毎月養育費が大変です」
こういうふうに相手と共通の話を持ち出すことで親近感を与えると、あとはこちらが黙っていてもあれこれ話し出すものだ。
「一体いくら養育費を渡してらっしゃるの?」の問いには「毎月十万円ですよ。僅かな収入から大きい金額です。だから僕は会社の寮からいまだに出ることができません。別れても自分の可愛い息子ですから仕方がありません。社会人になるまであと数年は頑張りますよ」と相手の同情を誘い出す。
「偉いのねぇ。私なんか別れた夫から毎月三万円だったのよ。高校を卒業したらそれも打ち切り。お金がないわけじゃなかったのに、ひどいものよね」
離婚した夫のことを話し始めたので、ここで「離婚されたご主人とはお会いすることもないのですか?」とサラリと確信を突く。
「息子は小学生の頃、電車に乗って父親の元に時々会いに行ってたわ。駅まで車で迎えに来てもらっていたみたい。でも中学二年生になった頃からもう父親には会いたくないと言い出して、今は全然接触はないわね」
このような会話で本人と実父との現況が分かり、いよいよ離婚の原因だ。
私は自分のことから自然と話し出した。
「離婚は子供には何の罪もないからかわいそうです。僕は昔、独立してちょっとした商売を始めたのですが、それが失敗して借金を負ったので家族に及ばないようにと別れたのですが、結局お金の問題だけではなく、気持ちも崩れてしまいましたね」
「私の場合は親の言いなりの夫でね。松江のある会社に勤めていたのだけど、実家が製材所を経営していて、どうしても帰って来てあとを継ぐように言われて、私はいろいろ事情があって松江を離れるわけにはいかなかったのでね。田舎で農業と製材なんてできないでしょ、こういう商売が好きなのだから」
この夜は母親から離婚した前夫のことも少しは聞けた。
離婚原因も概ね分かったし、息子(本人)の幼少時や学生時代の話も聞けた。
あとはこの店の経営状態である。
明日はこの店舗の管理会社かオーナーを法務局などで割り出し、もう一度夜訪れることにしよう。
明日は金曜日だから、客の入り具合で繁盛の度合いを判断する目安にもなる。
私はフラフラになって店を出てホテルに向かって歩きながら、明日は早く仕事を済ませて「松江城に行くぞ!」と心の中で叫んだのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる