探偵手帳・番外編 

Pero

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日本全国津々浦々 ⑦

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 日本全国津々浦々 出雲の国編 その七


 被調査人の母親が営む和風スナックで深夜まで飲んだ。
 幸いと言うか何と言うか、この夜は途中から他に客は来なかったので、母親にも酒を勧めながら様々な話ができた。

 私はビールのあと日本酒の熱燗を飲み続け、かなり酔ってきたが、はっきりとした意識の中で酔っ払った振りをしてプライベートなことに話を踏み入れた。

 「女将さんは離婚してからずっとお一人ですか?」

 「そうですよ。男はもう結構」

 笑いながら言う。

 日本酒を飲む仕草がとても色っぽい。
 きっとこの店の常連客の中には、女将さんを目当てに飲みに来る男性も多いのではないかと思った。

 幼少時に離婚していることを知っているが、それをさりげなく「離婚されたのは最近ですか?」などと訊き、「いえいえ、息子が小さな頃だから、もう二十年も昔になりますよ」と返答を得て、「実は僕も離婚して今は一人なのですよ」と相手の興味を引くことをわざと言ったりもした。

 「お客さんもお一人なの?子供さんは?」

 「息子が二人いますが、別れた女房のところにいます。毎月養育費が大変です」

 こういうふうに相手と共通の話を持ち出すことで親近感を与えると、あとはこちらが黙っていてもあれこれ話し出すものだ。

 「一体いくら養育費を渡してらっしゃるの?」の問いには「毎月十万円ですよ。僅かな収入から大きい金額です。だから僕は会社の寮からいまだに出ることができません。別れても自分の可愛い息子ですから仕方がありません。社会人になるまであと数年は頑張りますよ」と相手の同情を誘い出す。 

 「偉いのねぇ。私なんか別れた夫から毎月三万円だったのよ。高校を卒業したらそれも打ち切り。お金がないわけじゃなかったのに、ひどいものよね」

 離婚した夫のことを話し始めたので、ここで「離婚されたご主人とはお会いすることもないのですか?」とサラリと確信を突く。

 「息子は小学生の頃、電車に乗って父親の元に時々会いに行ってたわ。駅まで車で迎えに来てもらっていたみたい。でも中学二年生になった頃からもう父親には会いたくないと言い出して、今は全然接触はないわね」

 このような会話で本人と実父との現況が分かり、いよいよ離婚の原因だ。
 私は自分のことから自然と話し出した。

 「離婚は子供には何の罪もないからかわいそうです。僕は昔、独立してちょっとした商売を始めたのですが、それが失敗して借金を負ったので家族に及ばないようにと別れたのですが、結局お金の問題だけではなく、気持ちも崩れてしまいましたね」

 「私の場合は親の言いなりの夫でね。松江のある会社に勤めていたのだけど、実家が製材所を経営していて、どうしても帰って来てあとを継ぐように言われて、私はいろいろ事情があって松江を離れるわけにはいかなかったのでね。田舎で農業と製材なんてできないでしょ、こういう商売が好きなのだから」

 この夜は母親から離婚した前夫のことも少しは聞けた。
 離婚原因も概ね分かったし、息子(本人)の幼少時や学生時代の話も聞けた。
 あとはこの店の経営状態である。

 明日はこの店舗の管理会社かオーナーを法務局などで割り出し、もう一度夜訪れることにしよう。
 明日は金曜日だから、客の入り具合で繁盛の度合いを判断する目安にもなる。

 私はフラフラになって店を出てホテルに向かって歩きながら、明日は早く仕事を済ませて「松江城に行くぞ!」と心の中で叫んだのだった。

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