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『緩和ケア医』(SIDE 緑 葉一)
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~~~~登場人物~~~~
♡緑 葉一(みどり よういち) 38歳
緑色のロングウェーブヘア。
最愛の人を亡くした経験から緩和ケア医になった。
どことなく暗い影のある雰囲気。ウィスパーボイスで、色気が漂うミステリアスな男性。
♡鏡 輝明(かがみ てるあき) 30歳
緩和ケア医。
赤髪短髪。大雑把で細かいことは気にしない、男らしい性格。
熱血で、正義感が強い。曲がったことが大嫌いな真っ直ぐな男。
小児科の小椋と髪型がかぶっているので、兄弟かとよく言われる。
~~~~~~~~~~~
ーーー人は死んだらどこへ行くのだろう。
祖父が死んだ時、まず初めに思ったのはそれだ。
ーーー死ぬときに苦しむ人と、そうじゃない人がいるのはどうしてだろう。
母が長い闘病の末、ひどく苦しんで死んだ時にそう思った。
死、というのは誰にでも平等に訪れ、その日はいつなのか誰も知ることはできない。
平等、と人は言うけれど、母の亡くなるまでの長い長い苦しみを想う時、俺はいつでもこう思う。
死は平等なんかじゃない。
俺は大切な人たちをたくさん看取らなければならない運命にあるらしい。
医師になろうと思ったのは、人の命を救いたい。そんな純粋な感情からだった。
祖父が死んだ時、中学生だった俺は、人の死の理不尽さと壮絶さにショックを受けた。
チューブに繋がれた祖父の体。
老いて痩せ細り、歩くことさえままならなかった晩年の日々は、当時中学生だった俺の目にひどく残酷に映った。
田舎の小さな病院で息を引き取った彼は、まるでモノのように扱われており、健康で楽しかった頃の記憶が嘘のように色あせていった。
俺は、小さな頃から感受性の強い子どもだった。
親戚の葬式に行けば、自分もいつかこんな風に箱に収められて焼かれるのだと恐怖に慄いたし、お盆に寺へ行けば、こんな小さな骨壺に入れられて口も聞けなくなる日が来るのだと、憂鬱に思ったものだ。
人の命を助けることは、「死」という惨めで陰気な出来事から逃れるための時間稼ぎをするということに他ならなかった。
医師になり、たくさんの人たちが病気から回復するのを目の当たりにした。
それは喜びに違いなかったし、医師としての仕事のやりがいを感じる日々だった。
それでも、たとえ病気が治ったとしても「死」から永遠に逃げ続けることはできない。
その事実が俺をいつでも憂鬱にさせた。
今目の前にいて病気が治った患者さんも、数年後、数十年後には間違いなく「死」に直面する。
そう思うと、「病気を治す」ということの意味をどう捉えていったらいいのか、分からなくなっていった。
学生時代から長年付き合った恋人を看取ることになった時、俺は「死」について新たな感覚を得た。
俺の人生はここにあるのかもしれないと強く感じる経験だった。
彼の病気がわかった時には、現代医学ではもうどうにも出来ない状態だった。
俺は自分の仕事にかまけていて彼とほとんど会えない状態が続いており、病気に気付くことさえできなかった。
医師としての自分を呪った。
どんなにたくさんの人間を助けようとも、自分の愛する人間一人救うことが出来ない。
「葉一、こっちに来て。」
彼はまだ若かったせいで病気の進行が早く、見る見る痩せ細っていった。
「苦しいか?」
「ううん、大丈夫だよ。」
彼はどんな時でも笑顔だった。
自分のことよりも、残される俺のことを心配しているように見えた。
俺は「死」に向かう彼を見るのが怖くてたまらなかったし、これ以上苦しむところを見たくないと心が拒絶していた。少しでも彼の苦しみを楽にしたいと思い「緩和ケア」について学ぶようになった。
彼の「死」は惨めでも辛くもなく、「生きている」ことの純粋な延長線上にあった。
今まで忌み嫌い恐れていた「死」というものを素直に受け入れられた瞬間だった。
「死」は、「生」をより輝かせるものであると素直に感動していた。
「緑先生、大丈夫ですか?」
昼休み。デスクに戻った私はいつの間にかうたた寝をしていたらしい。
後輩の鏡が、優しく起こしてくれた。
大雑把で細かいことはあまり気にしないタイプの男性だが、正義感が強く真っ直ぐなこの後輩を、私はとても気に入っている。
彼の目は人に対しての優しさ、愛情で溢れている。
「すまない。眠ってしまっていたみたいだね。」
「緑先生、最近お疲れなんじゃないっすか。たまには俺を頼ってくださいよ。」
整形外科医を目指していた彼が、緩和ケア医になったのは私に憧れたからだと真っ直ぐな瞳で言った時、俺は亡くなった恋人を思い出した。
全くタイプも違うし、性格も見た目も似ているところが一つもないのに、鮮明に思い出したのだ。
この男になら、看取られたいとそう思ったのは、まだ内緒だ。
「緑先生、たまには食事、一緒にどうっすか?」
「・・そうだな。今夜行こうか。」
「え!!嘘、マジで!?」
彼が大袈裟に驚く。彼の誘いを一年以上断り続けているのだから、当然の反応かもしれない。
彼には期待している。緩和ケア医として。
それ以外にも。
「じゃあ成瀬先生も誘おうか。」
「え!二人きりじゃないんすか?!」
抗議の声を上げる彼は可愛い。
緩和ケア医として共に成長していける仲間がいることが純粋に嬉しかった。
この可愛い後輩と情熱的な恋愛関係に発展してしまうことを、この時の俺はまだ知らなかった。
♡緑 葉一(みどり よういち) 38歳
緑色のロングウェーブヘア。
最愛の人を亡くした経験から緩和ケア医になった。
どことなく暗い影のある雰囲気。ウィスパーボイスで、色気が漂うミステリアスな男性。
♡鏡 輝明(かがみ てるあき) 30歳
緩和ケア医。
赤髪短髪。大雑把で細かいことは気にしない、男らしい性格。
熱血で、正義感が強い。曲がったことが大嫌いな真っ直ぐな男。
小児科の小椋と髪型がかぶっているので、兄弟かとよく言われる。
~~~~~~~~~~~
ーーー人は死んだらどこへ行くのだろう。
祖父が死んだ時、まず初めに思ったのはそれだ。
ーーー死ぬときに苦しむ人と、そうじゃない人がいるのはどうしてだろう。
母が長い闘病の末、ひどく苦しんで死んだ時にそう思った。
死、というのは誰にでも平等に訪れ、その日はいつなのか誰も知ることはできない。
平等、と人は言うけれど、母の亡くなるまでの長い長い苦しみを想う時、俺はいつでもこう思う。
死は平等なんかじゃない。
俺は大切な人たちをたくさん看取らなければならない運命にあるらしい。
医師になろうと思ったのは、人の命を救いたい。そんな純粋な感情からだった。
祖父が死んだ時、中学生だった俺は、人の死の理不尽さと壮絶さにショックを受けた。
チューブに繋がれた祖父の体。
老いて痩せ細り、歩くことさえままならなかった晩年の日々は、当時中学生だった俺の目にひどく残酷に映った。
田舎の小さな病院で息を引き取った彼は、まるでモノのように扱われており、健康で楽しかった頃の記憶が嘘のように色あせていった。
俺は、小さな頃から感受性の強い子どもだった。
親戚の葬式に行けば、自分もいつかこんな風に箱に収められて焼かれるのだと恐怖に慄いたし、お盆に寺へ行けば、こんな小さな骨壺に入れられて口も聞けなくなる日が来るのだと、憂鬱に思ったものだ。
人の命を助けることは、「死」という惨めで陰気な出来事から逃れるための時間稼ぎをするということに他ならなかった。
医師になり、たくさんの人たちが病気から回復するのを目の当たりにした。
それは喜びに違いなかったし、医師としての仕事のやりがいを感じる日々だった。
それでも、たとえ病気が治ったとしても「死」から永遠に逃げ続けることはできない。
その事実が俺をいつでも憂鬱にさせた。
今目の前にいて病気が治った患者さんも、数年後、数十年後には間違いなく「死」に直面する。
そう思うと、「病気を治す」ということの意味をどう捉えていったらいいのか、分からなくなっていった。
学生時代から長年付き合った恋人を看取ることになった時、俺は「死」について新たな感覚を得た。
俺の人生はここにあるのかもしれないと強く感じる経験だった。
彼の病気がわかった時には、現代医学ではもうどうにも出来ない状態だった。
俺は自分の仕事にかまけていて彼とほとんど会えない状態が続いており、病気に気付くことさえできなかった。
医師としての自分を呪った。
どんなにたくさんの人間を助けようとも、自分の愛する人間一人救うことが出来ない。
「葉一、こっちに来て。」
彼はまだ若かったせいで病気の進行が早く、見る見る痩せ細っていった。
「苦しいか?」
「ううん、大丈夫だよ。」
彼はどんな時でも笑顔だった。
自分のことよりも、残される俺のことを心配しているように見えた。
俺は「死」に向かう彼を見るのが怖くてたまらなかったし、これ以上苦しむところを見たくないと心が拒絶していた。少しでも彼の苦しみを楽にしたいと思い「緩和ケア」について学ぶようになった。
彼の「死」は惨めでも辛くもなく、「生きている」ことの純粋な延長線上にあった。
今まで忌み嫌い恐れていた「死」というものを素直に受け入れられた瞬間だった。
「死」は、「生」をより輝かせるものであると素直に感動していた。
「緑先生、大丈夫ですか?」
昼休み。デスクに戻った私はいつの間にかうたた寝をしていたらしい。
後輩の鏡が、優しく起こしてくれた。
大雑把で細かいことはあまり気にしないタイプの男性だが、正義感が強く真っ直ぐなこの後輩を、私はとても気に入っている。
彼の目は人に対しての優しさ、愛情で溢れている。
「すまない。眠ってしまっていたみたいだね。」
「緑先生、最近お疲れなんじゃないっすか。たまには俺を頼ってくださいよ。」
整形外科医を目指していた彼が、緩和ケア医になったのは私に憧れたからだと真っ直ぐな瞳で言った時、俺は亡くなった恋人を思い出した。
全くタイプも違うし、性格も見た目も似ているところが一つもないのに、鮮明に思い出したのだ。
この男になら、看取られたいとそう思ったのは、まだ内緒だ。
「緑先生、たまには食事、一緒にどうっすか?」
「・・そうだな。今夜行こうか。」
「え!!嘘、マジで!?」
彼が大袈裟に驚く。彼の誘いを一年以上断り続けているのだから、当然の反応かもしれない。
彼には期待している。緩和ケア医として。
それ以外にも。
「じゃあ成瀬先生も誘おうか。」
「え!二人きりじゃないんすか?!」
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