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引くに引けない
しおりを挟む「あなたのことが好きだと言いながら、婚約者の存在を明かさないのは、どうしてだと思いますか?」
アーサーは、ミノアの不安を煽る行為を心底楽しんでいるように見えた。
「その方と・・婚約辞退されるつもりなんじゃなくて?」
彼女は精一杯の強がりで、そう口にした。
心の中は不安でいっぱいだ。
あれほど誠実にミノアへの一途な愛を囁いたスメラギ公爵が、婚約者の女とよろしくやっていたなんてことになれば、立ち直れない。
それくらい、最近のミノアは彼に対しての想いを強めているのだ。
その上、アーサーの話によると、エミリーという彼にふさわしい身分の御令嬢は、可愛らしく可憐な女性だという。
「可憐な女性」という言葉に、ミノアはイラついていた。
彼女は「可憐」な女が、大嫌いなのだ。
カマトトぶるんじゃないわよ。そんな暴言を吐きそうになる。
ミノアは自分の魅力には、そこそこの自信があった。
お金のかけ方が違うその御令嬢とやらに勝てる美貌かと言われれば即答はできないけれど、女の魅力は容姿の美しさだけではない。
彼女は自慢のたわわなおっぱいと、くびれ、痩せすぎず太りすぎずちょうど良い曲線美を極めたメリハリボディには自信がある。
男を夢中にさせる色香と、巧妙な駆け引き。
男が何を望んでいるのか、どうすれば自分の手のひらの上で転がして楽しめるのか、ということに関しては、経験の乏しい良家の御令嬢より何枚も上手だという自負がある。
本能に忠実で、性に自由奔放なミノアは、「恥じらいある可憐な乙女」というジャンルの女が大嫌いだった。
ビッチの自分とは、対極にいる女。
「いつもの余裕は、どうしました?ミノアさん。」
にっこりと微笑むアーサーは、本当に嫌な男だ。
「あなたは兄さんを買い被りすぎていますよ。」
「私は、あなたのお兄様を信じるわ。」
高慢なアーサーの鼻っ柱を圧し折ってやらないと、気が済まない。
負けず嫌いのミノアは、もう引くに引けないところまで来てしまっていた。
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