BOYS❸

aika

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♤『恩師』(SIDE 八神 煉)

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~~登場人物~~

♤八神 煉(やがみ れん) 

雷の三つ子の弟。世界で活躍しているバイオリニスト。
パッツン前髪。耳が隠れるほどの長さの黒髪。
雷の初恋の相手であるギタリスト臣と恋人同士だったが、振られたばかり。

♤ルイス・シュヴァルツ

煉のバイオリンの講師で、世界的に有名なバイオリニスト
早々に現役を引退して、日本でバイオリン教室を開いている。
肩まで伸ばした美しい銀髪、小麦色の肌、細縁のメガネ、線が細く中性的な魅力を持つ色男。
ミステリアスな雰囲気の美男。


~~~~~~~~~~

♤『恩師』(SIDE 八神 煉)


「おや、珍しいお客さんですね。」

花々が咲き乱れるガーデンの真ん中に、その男は立っていた。

朝の光に目を細めながら、僕を見る。
懐かしさと同時にふと込み上げた安心感に、涙が出そうになって慌てて感情を塗り替える。

「先生、まだ生きてたんですね。」

「これはまた随分ですね。いかにも君らしくて安心しますよ。」

綺麗な銀髪、小麦色の肌、細い縁のメガネをかけたその人は、眩しそうに笑った。
アメリカに行くまでの十数年間、僕のバイオリン人生は、いつもこの人と共にあった。


『悪いことをすると、必ず自分に返ってきますよ。』

先日、恋人との別れ話の時に、突然浮かんだこの言葉。
彼が発した言葉だと思い出して、急に会いたくなったのだ。


ドイツ人、若き天才バイオリニストとして世界に名を馳せ、時代の最先端を駆け抜けた勝ち組の色男。ルイス・シュヴァルツ。
早々に現役を引退し日本に移住してきた彼は、静かな住宅街の中でバイオリン教室を開いた。

いつ見ても、綺麗だ。
アメリカに行って色々な国の友人ができたけれど、これほど美しい男性は他に見たことがない。

襟ぐりの深いサマーニットからチラリと覗く彼の綺麗な鎖骨に、銀髪の毛先がさらりと影を落とす。
見てはいけないものを見ているような罪悪感に駆られて、僕は視線を落とした。


「紅茶をどうぞ。煉君の大好きなレーズンパイ、ちょうど今朝懐かしいなと思って買ってきたんですよ。」

「先生、よく覚えてますね。」

数えきれないほど教え子がいるのに。
そんなことさえ身に沁みて、涙が出そうになる。

今の僕はそれほどに弱っているのだ。

紅茶を運んできた丸メガネの東洋人は、僕が幼い頃からずっとここで先生の助手をしている。
先生の恋人、なのかもしれない。
学生時代には疑問にさえ思わなかったことにちゃんと気づけるくらいには、僕も大人になってしまった。

「煉君が訪ねてきてくれるなんて、思わなかったですよ。」

「何でですか。僕だって先生の大事な教え子でしょう?」

今はただ誰かに特別扱いして欲しかった。
いつも僕を最優先にしてくれていた恋人が隣からいなくなってしまった喪失感に、押しつぶされそうだったから。

「私の教え子の中で君は特別有名になってしまったから、もう会えないかもと思っていたんですよ。」

穏やかな話し声。低くも高くもない、ちょうど良い声色。
先生の心は穏やかで、波立たない。

どこまでも静かに凪いでいて、一緒にいるとこちらまで心が安定してくる。

「有名人が恩師に会いに行く番組があるでしょう。20年後くらいに君からそんな依頼が来るかもしれないと、わずかな期待を持ってはいましたけどね。」

冗談なんて言いそうもない真面目な見た目の彼が、いつもユーモアに溢れていたのを思い出す。
僕は先生が怒ったり取り乱したりしているのを、一度だって見たことがない。

「先生、僕にもう一度、バイオリンを教えてくれませんか?」

「・・・君は、いつもそうでしたね。私の想像をはるかに超えて、思いがけないことを提示してくる。」

ふっと優しく微笑んだ彼に、僕は見惚れてしまった。


♢♢♢

「こうやって、もっと身体を楽にして。」

後ろからふわりと先生の甘い香りが漂ってきて、落ち着かない。
ピタリと背後に立つ先生が、僕の指先を見つめているのだとわかる。
ドキドキと心臓の音がうるさくて、集中できなかった。

「煉君、考え事が抜けないようですね。」


耳元で聞こえる先生の綺麗な声に、僕の心は面白いほどぐちゃぐちゃにかき乱されていた。


「先生は、失恋って・・・したことある?」

バイオリンを投げ出して、突然泣き出した僕に、一瞬驚いたように目を見開いた彼が、次の瞬間また穏やかな微笑みを取り戻す。

「なるほど。煉君は失恋をしたんですね。」

「先生みたいな色男じゃ、よりどりみどりだったんでしょう?」

「まさか。失恋したことくらいありますよ。」

「嘘。もうこの世の全てを呪いたい気分・・・!」

「煉君のバイオリンは、もっと深くなりそうですね。」

おみによくしていたみたいに、先生の胸に顔を埋める。
ふわりと僕を包んでくれた先生の香りがあまりに懐かしいから、いつまでも涙が止まらなかった。
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