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『両親学級』
しおりを挟む楓の出産準備の一環として、両親学級に参加することになった。
両親学級は、妊娠・出産・育児などについて学び、理解を深めるための良い機会だ。
自分のお腹で赤ちゃんを育てることのない私が、母親としての自覚を得て、楓と共に妊娠出産に挑むために必要な学びの時間。
楓と私だけでなく、医師として常にサポートしてくれている慶斗と、夫たちを代表して律と樹が参加することになった。
「お腹がおっきくなると、こんなに重いんだ!ちょっと歩くだけでも、すげー疲れる・・!」
最年少の夫、樹が妊娠体験用の重しを装着して歩き回り、数分で音を上げ座り込む。
「座り方も寝方も気をつけないと、苦しくなるよな。楓はまだここまでお腹が大きくないけど、腰は辛くないか?」
律が楓を気遣い、膨らんだお腹を優しく撫でた。
「僕はまだ大丈夫です。楽に座れるクッションがあるって、雫さんが注文してくれました。」
男性の出産は、赤ちゃんがお腹の中で充分に育ったタイミングで、陣痛を起こす薬を投与する。
数ヶ月後には楓のお腹から第一子が誕生するのだと想像してみても、やはりまだ実感は湧いてこなかった。
私はこの機会に母親としての自覚を得ようと、必死で取り組んでいる。
女性が極端に少ないこの世界では、出生率は以前と比べ物にならないほど落ち込んでいた。
妊娠出産する男性は、手厚い援助を受けることができ、優遇されている。
赤ちゃんの入浴方法や、栄養補給、おむつの交換。
何もかもが、初めてのことだらけだ。
生まれてからのことはもちろん、出産当日の流れについて初めて学び、衝撃を受ける。
男性が出産出来るようになった、と何度聞いても、いまだに信じられない気持ちが強かった。
『痛い・・っ・・・痛いよぉ・・・っ』
『もう少しで赤ちゃん産まれますよ、はい、息んで!』
男性の出産シーンを、初めて映像で見る。
悶え苦しむ男性が、数時間の陣痛を乗り越え、分娩台に上がり、女性の出産と同じように息んで子どもを産み出す。
女性が男性に代わっただけで、その内容は変わらないはずなのに、色々と衝撃的な映像だった。
赤ちゃんの泣き声と、その元気な姿に安心し、喜びの涙を流す父親と母親。
数ヶ月後には、楓と私の身に起きることだ。
私は彼を励まし、支えることが出来るだろうか。
痛みに苦しむ男性の姿を目にして、不安になっていないかと楓を見る。
彼は私の視線に気付くと、感動の涙を流しながら幸せそうに微笑んだ。
「繭さん、一緒に来てくれて、ありがとうございます。」
病院を出ると、楓が私の手をぎゅっと握りながら、そう言った。
「私はこの子の母親だもん。赤ちゃんが安心して産まれてきてくれるように、私もたくさん勉強するね。」
自分に言い聞かせるように、言葉を紡ぐ。
産むのは自分じゃないというのに、出産の壮絶さにすっかり体がこわばっていた。
「皆さんが一緒に来てくれて、心強いです。」
楓の言葉を受けて、律が優しく頭を撫でる。
「勉強になるよ。俺たちもそろそろ子どもを作りたいって、繭と話してて。慶斗さん、今週お願いしても良いですか?」
子づくりについて、医師の慶斗に処置をしてほしいと律が申し出る。
先日の彼の言葉が本気だったのだと、私は嬉しくなった。
「もちろん。来年は、出産ラッシュになるかもね。」
「え、誰?誰が産むの!?」
夫たちの視線が、一斉に私に集まる。
「耀亮君と、蘭君とは妊活中で・・・泉君とも、赤ちゃんほしいねって、話してます。」
子づくりの話題となると、いくら家族とは言え、なかなか言い出しにくい。
「え!?泉が!?」
泉と仲の良い樹が、驚いて声をあげた。
「泉ずるい!抜け駆けじゃん!!俺も!繭たん、俺も妊活する・・・!」
子どものようにあどけない顔で、「妊活」と口にする彼。
手を上げて猛アピールする樹を見て、夫たちが優しく顔を見合わせている。
「赤ちゃんがお腹にいると、すごく幸せだよ。家族がたくさん増えたら、嬉しいね。」
そう言いながら微笑む楓の顔は、聖母のような愛に溢れ、とても幸せそうだった。
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