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紅一点
しおりを挟むこんな名言を聞いたことがある。
男の集団の中に女が一人であれば、どんなに魅力のない女であっても奪い合いの対象になると。
女子校では、「ただのおじさん」としか形容しようのない男性教諭もモテるものだ。
それと似ている。
私は実際に女子校でただのおじさんがモテているのをこの目で見てきた。
男の中に紅一点であれば、どんなに魅力がなくてもモテる。という名言にはかなり期待出来る気がする・・!!
この名言が本当なのかどうか、確かめる機会が自分の人生に起きるとは。
なんたるラッキー。
ここ数日の例をとってみると、どうやらその明言は本当なのではないかという期待が高まっていた。
「おい、どこ見てんだ。ボーッとすんな。お前、死にたいのか?」
組織の中のイケメン。高野 亮。この男は口が悪いことで有名。
根っからの鬼畜で、後輩や同僚を痛めつけるのが趣味とまで囁かれている仕事人間。
特医班所属。特別医療班の長として、医療全てに精通する若き医師でありエージェント。
白衣姿がよく似合う。
振り返ると、白衣の彼が腕組みをしてドヤ顔で突っ立っていた。
「高野、相変わらず口が悪いね。」
性格はものすごく悪いこの男。
同期だというのに、いつも私に対しての風当たりが強い。
組織の中では1、2位を争う勢いで、私のタイプど真ん中の顔立ちをしている。
色白、黒髪、タレ目。三拍子揃った色男。
「お前足元見てみろよ。」
「え?あ、わぁ!!!」
言われて足元に視線を移すと、一歩先は崖だった。
「あっぶな!!落ちるとこだったじゃない。」
「いや、だから。俺が声かけてやったから助かったんだろ。」
感謝しろ。と曰う彼は、極悪な笑みを浮かべて私にぐんと近づいた。
「お前さ、なんか急に見られる顔になった気がするんだけど、男でも出来た?」
高野はことあるごとに私を「ブス」と呼ぶ。
仕事中、何度もペアを組んだ仲だけれど、眉間にシワを寄せながら「おいブス!」と私を呼ぶ彼をとても魅力的に感じていたのは、私がドMだからだろうか?
それとも彼がイケメンだから為せる技なのか。
そんな彼が急に私に迫って、色目を使っている。
男集団の中の紅一点は絶対モテる説、が信憑性を帯びてきた。
内心ではルンルン鼻歌を歌いながら、素っ気なく返す。
「だったら何?私に男ができたら何だって言うわけ?」
人生初の強気発言。美人にだけ許されるという、イケメンに対してのツン発言だ。
仮説が正しければ、強気に出ても男は食い下がってくるはずだ。
「・・許さない。お前は俺のもんだ。」
高野は急に真剣モードに入り、私の腰を掴んで引き寄せた。
長身で手足が長く運動神経も抜群の彼は華麗に身を翻し、私の目の前に迫る。
あぁ、これがイケメンの本気モード・・・!
私のファーストキスは、このイケメンに捧げるためにとっておいたのね。
唇が重なる瞬間、すぐ後ろから声がした。
「お前らこんなとこで何してんだよ。聞いてなかったのか?集合の合図が鳴っただろ。」
「たっちゃん・・・」
そこに立っていたのは、高野の天敵として名高い茶髪の王子様系イケメン、水原 拓也だった。
根っからの優等生気質の彼はルールを守らない人間を嫌う。時間通りに動かないと気持ちが悪い、という組織の中で模範となるような人物。
「規則なんかくそくらえ。むしろ俺様がルールだ!」という異端児の高野とは仲が悪かった。
「あぁ?水原、邪魔してんじゃねぇよ。」
「邪魔じゃない。集合だ。早く来い。」
睨み合っている二人にときめいていると、水原は私の手を引いて高野から引き離した。
そのまま手を繋いで建物の方へ歩き出す。
「おい、待てよ水原。」
二人のいがみ合う男。
彼らが取り合いしているのは・・・私!?
予期せぬモテ期の到来に、私の頭は完全に少女漫画モード全開だった。
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