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宅飲み
しおりを挟む山下 匠は、NMCのナンバー2とは思えない屈託のない笑顔で、私を部屋に迎え入れた。
「なぁ、Mって好き嫌いあるのか?」
「え?」
「苦手な食べ物、ある?」
「ピーマンと玉ねぎ・・・」
「子どもかよ、お前。オッケ、その辺適当に座ってて。」
からかうような口調で、苦笑する。
あまりに自然な彼の態度に、私は思い切り戸惑ってしまった。
これは、あれだ。
高校時代、仲が良かった男子の家に遊びに来た女友達的なやつだ。
彼は一人暮らしを始め、それなりに自炊している。
飲めるようになってから数年しか経っていないアルコールを片手に、大人への一歩を踏み出そうという、あの年代特有の雰囲気。
なんだか懐かしい気持ちになる。
山下匠と高校時代を共に過ごした思い出さえ、浮かんできそうだ。
(さすがナンバー2・・・できるな、この男・・!!)
気取らない態度、男をも惚れさせる男気。
精悍な顔立ちだけれど、さっぱりとした爽やかさと屈託のない笑顔が、雌の警戒心を緩和させる。
すでに謎の信頼感が芽生えているから不思議だ。
「親子丼・・・!わ~美味しそう。」
おしゃれすぎず、家庭的な一面もアピールできる絶妙なメニューが出てきた。
「レモンサワーでいいか?」
「うん、ありがとう。」
手渡されたアルミ缶を開けようとしていたら、何も言わず彼がサッとプルタブを引いてくれた。
(出た・・!こういうさりげない優しさ男らしさに、女は弱いんだよねぇ・・・)
開けようか?でもなく、無言でサッと手を伸ばす、彼の素朴な気遣い。
距離が一瞬縮まって、彼の香りをふわりと感じる。
異性として、意識させられる瞬間。
「あ・・・ありがと。」
男らしい食べっぷりに目を奪われる。
美味しそうにたくさん食べる男性が、私は好きだった。
「柳司はいつもMの話ばかりしてるよ。」
NMCのトップ、鎌足 柳司は、私のストーカー的存在。
人のペースを乱す天才。
「そうなの?」
「Mを本気で俺たちの仲間にしたいみたいだ。」
「それは・・・」
「俺もだよ。Mといるとすごく心地良い。一緒にいて安心できる相手は、大事にしたい。」
気取らない彼の態度に居心地が良くなり、つい饒舌になる。
「私も、匠といると・・・・なんでも話しちゃいそう。」
山下匠は、警戒心をとく天才だった。
「もうこんな時間か、送ってくよ。」
もう少し、彼と居たい。
いつの間にかそんなふうに思っている自分がいた。
「ごめんね、遅くまで。」
「大丈夫か?足元、ふらついてる。」
慌てて立ち上がると、一気にアルコールが体をめぐり、身体が傾く。
ふらついた私を、彼はがっしりと逞しい腕で支えてくれた。
友達の、距離感で。
(どうしよう・・・彼に、触れたい・・・)
彼をもっとよく知りたい。
友達の顔しか見せていない彼が、どんなふうに女を求めるのか、知りたいと思ってしまった。
「どうした?具合悪いか?」
ーーキス。
心配して私を覗き込んだ彼に、唇を重ねた。
大きく見開かれた彼の瞳、強張った腕の筋肉。
彼は即座に私の体から離れた。
「ごめん、酔わせすぎたな。」
キスしたことを咎めない。本気にもしない。
ぽんぽん、と私の頭を撫でながら、甘い雰囲気を打ち消した。
「送っていくよ。」
「匠・・・私、」
ーーキスしたい。
そう言おうと口を開いた私を、彼の言葉が遮った。
「柳司の好きな人が、お前じゃなきゃ良かった。」
彼は私と目を合わせずに、苦笑する。
ドアの横にかけてある鍵を手に取ると、率先して玄関の扉を開けた。
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