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ただのギャップ

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「それはあれですよ、ただのギャップ萌えってやつです。」

NMCの長、鎌足かまたり 柳司りゅうじは、昨夜の私のトキメキを真っ向から否定した。
相変わらず、感情の読みにくい笑顔で、ニコニコとこちらを見ている。

「不良男子が、捨て猫に優しくしていたら、ものすごく優しい人間に見えるでしょう?それと全く同じ心理です。ただの、錯覚です。」

「いや、私も同じこと思ったんだけど、その不良男子がシャレにならないほど顔がイケてる人物だったら、また話は変わってくるよね。」

とにかくものを言うのは、顔なのだ。
たちばな 大和やまとの顔は、シャレにならないほどイケている。

不良男子が猫に優しいとかいうレベルとは、次元が違う。
会うたびに本気で私を殺そうとしてくるヤバイ男が、一晩中愛を語ってくるんだから、それはもはや奇跡が目の前で起きているようなものなのだ。

錯覚というレベルは、軽く超越している。

私は今朝彼と離れる瞬間、寂しくてたまらなかった。
今も、橘大和に会いたくてたまらない。
本気で好きになってしまったのではないかと、心底心配するほどに、彼のことばかり考えている。

「いえいえ、大和君はそもそも切れキャラを演じているだけで、元は昨夜のように女性を優しく扱う紳士なんですよ。うちの組織にいるくらいですから。」

嘘つけ。私は、内心毒づいた。
鎌足は、私がすっかり「橘大和し」になっていることが、心底面白くないらしい。

(わかりやす・・・この人の演技力は・・・?全然発揮されて無いんですけど。それとも、この不機嫌さがすでに演技なの・・・・?)

色男に妬かれるのは、素直に嬉しい。
私に魅力があるのだと、大いなる勘違いが出来るから。

「だってMちゃん、考えてもみてくださいよ。昨夜あなたは、橘大和と寝るなんて絶対に嫌だと言っていたじゃないですか。肌を重ねて、一時の錯覚でときめいたように感じただけですよ。」

鎌足という男は、妙に説得力がある。
仕事で何度も顔を合わせて来たが、彼の本心はいつもわからなかった。

「Mちゃん、今夜はうちのナンバー2、山下君が、是非一緒にお食事でもと言っていますが、どうでしょう?」

NMCのナンバー2、山下やました たくみ。爽やかなイケメンで、常識人。サバサバした性格で、細かいことを気にしない器のでかい男。ピンチをピンチと思わず、笑い飛ばしてしまうような、肝の座ったイケメンだ。

「食事・・・?」

セックスじゃなくて、食事・・・?と疑問符が浮かぶ私は、この状況に相当やられてしまっている。


「ベッドの方が、良かったですか?彼は、もっとあなたを深く知りたいみたいですよ。」

「・・・・よろしくお願いします。」


鎌足は相変わらず感情の見えないニコニコ顔で、満足そうに頷いた。



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