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叶えてあげたい
しおりを挟む「突然こんなことになってしまって・・・すみません。」
彼のせいではないというのに、葉月は本当に申し訳なさそうな顔で頭を下げた。
組織のメンバーたちと、仮交際をして恋人選びをすることになったのは、彼のパートナーである純夏のおかげだ。
「葉月さんは、何も悪くないです。顔をあげてください・・!」
こんな事態になったことを、むしろ私は心底喜んでいるのだと、本音を言い出しにくくなってしまった。
この組織に捕まってから、人生初のモテ期を謳歌している私は、イケメンたちとの恋の「進展」を熱望してきたのだ。
その夢が、まさに今、叶おうとしている。
「純夏のパートナーとして、謝罪します。」
真っ直ぐに私を見つめている彼の心労を、少しでも拭い去ることができたら・・・。
そんな風に思ってしまうほど、彼は爽やかで眩しい人物だった。
見つめ合っているだけで、彼の誠実さが伝わってくる。
女が放って置かないだろう。
彼は一緒にいると、何かしてあげたくなるような魅力を持っていた。
彼を喜ばせたいと思っている自分に気付く。
(この組織に、こんな紳士が在籍していたなんて・・・・♡思わず貢ぎたくなるイケメンっぷり・・・・♡)
一癖も二癖もある連中の相手をさせられてきた私は、常識人である葉月に一気に心を開きかけていた。
小さな顔、長い手足、綺麗な茶色の髪がふわりと爽やかな香りを漂わせている。
柔らかな物腰、優しい視線。
とても悪の組織に在籍している人物には見えない。
今夜、監視役として私の部屋に来た彼は、「お茶でもどうですか」とハーブティーを淹れてくれた。
促されるままソファーに座った私のすぐ隣に、彼は「失礼します。」と腰掛ける。
「純夏が女性に・・っていうか、人間に興味持ってるとこ、俺初めて見たんですよね。」
「え・・?そうなんですか?」
てっきり純夏は、惚れやすい男性なのだと思っていた。
「そうですよ。俺なんて長年ペア組んでるのに、気にかけてもらったこと一度もないくらいですから。後輩として、可愛がってきたつもりなんですけどね。」
いじけたような顔をした彼が、ふっと苦笑した。
「だから、純夏が本気だって言うなら、俺は応援したい。」
仲間思いの彼に、さらなる好感を抱く。
全く言うことを聞かない後輩だとしても、愛情深く見守る彼の優しさが素敵だと思った。
「って・・・思ってたんだけどな・・・。」
「え?」
「応援・・・出来なくなりました。」
「葉月・・・さん・・・・?」
辛そうな表情で俯く彼から、目が離せない。
彼はゆっくりと話し始めた。
「ユミさんは、昔亡くした姉に・・少し似てるんです。こんなこと言ったら、シスコンだって思われるかもしれないんですけど・・・・俺・・・ユミさんのこと、もっと知りたいです。」
(葉月さんのお姉さんに、私が似てる・・・?!うそ、こんなイケメンのお姉さんに、私が似てるわけなくない・・っ?!)
この組織のイケメンたちは、一体どうなっているのだろう。
揃いも揃って私を好きになるなんて、どうかしている。
いつの間にか超絶美人にでもなったのでは・・・?と、部屋の隅にある姿見を、チラリと見て確かめてみたが、そこには、相変わらず冴えない容姿の自分が映っているだけだった。
「俺のこと・・・恋人候補の一人として、受け入れてくれますか・・・?」
こんな風に丁寧に求愛されたのは、初めてな気がする。
強引な男が多いこの組織において、紳士的で控えめな葉月はとても魅力的に映った。
不安そうに私を見つめる彼の瞳に、一瞬にしてノックアウトされる。
彼の願いは全て叶えてあげたい。
そう思っている自分に驚きながら、私は「もちろんです!」と即答していた。
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