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『少女たちは夜を知らない』
しおりを挟むこの世界には夜がない。
赤の世界。
赤一色に染められたこの世界は、生命活動の気配も、生命の歴史も感じられない。
ただ赤い空がどこまでも広がり、静寂に包まれている。
壊れかけた建物と、大昔に枯れてしまったような木々。ボロボロのコンクリート道。
何もかもがハリボテのような街だ。
核兵器で滅んだ後の世界は、きっとこんな感じだろう。
赤の世界の空を遠く目を細めて眺めながら、美朱はため息を吐いた。
足元には、今息絶えたばかりの少女の死体。
先ほどまで美朱の命を狙い襲いかかってきた相手は、紫色の液体を身体に撃ち込まれ、激しい断末魔の悲鳴だけを残して息絶えた。
しばらくすると時空を揺るがすノイズとともに、彼女の死体は跡形もなく消え去るだろう。
彼女の顔を目に焼き付ける。どこかで見たことがあるような顔だ。
まだ幼さを残した少女の顔。
美朱はもう一度、深いため息を吐き出した。
この世界は不思議に満ちている。
美朱はここに来る以前の記憶を持っていない。
自分という意識が芽生えた瞬間を思い出そうとすると、頭が割れるように激しく痛む。
気づいた時にはすでにこの戦場にいた。
真っ赤に染まる恐ろしい世界で、美朱はたった一つのはっきりとした意志を持って立っていた。
この世界のどこかにある「黒の砂時計」を壊すこと。
はっきりとしたその意志は、まるで本能のように美朱を突き動かした。
ーーー邪魔するものは全員殺す。
凶暴な意志に一番驚いているのは自分自身だ。
この世界で目覚めた時、同じ志を持った仲間が二人そばに立っていた。
愛蘭と、空。二人の少女。
二人もまた、ここに来る以前の記憶を失っていた。
少女たちは制服を身に纏っていたが、それぞれ別の学校なのかデザインが違う。
美朱はベージュのブレザーに赤のネクタイ。
愛蘭はブルーのブレザーに白のラインが入った特徴的なデザインの制服だ。グレーのふわりとしたロングヘア が制服によく映える。
空はフリルがついた白のブラウスに黒の細リボン、メイド服を思わせるようなふんわりと広がった膝丈のスカート。水色の髪に白のカチューシャをしている彼女は、最年少。幼い顔立ちをしている。
この世界で繰り広げられている残酷な戦闘とは無縁に思えるような、少女たちの服装。
少女たちはその制服を血塗れにしながら、日々戦いを繰り広げている。
この世界では滅多なことでは死ねない。
首を落とされるほどの損失がないと死ぬことさえ出来ないのだ。
腕を切り落とされても、体を切り裂かれても、しばらく経つと治ってしまう。
気絶しそうな痛みと苦しみに悶えながら、少女たちは自分の身体が復活していくのを絶望しながら待っている。
そんな経験を一体何度繰り返しただろう。
敵もまた、彼女たちと同じような齢の少女たちだった。
少女たちは拳銃や機関銃、ナイフ、斧、などあらゆる武器を手に襲いかかってくる。
相手が敵だというのは、本能的にわかる。
ポーラと呼ばれる紫色の液体が装填された大きな銃は、相当な重さがあるはずなのに軽々と持ち上げることができた。
ポーラを敵の体内に撃ち込む瞬間。抗うことができないほどの快感が、本能を満たしてゆくのがわかる。
己の道を切り開くために邪魔者を根絶する。
人類が遥か昔から行なってきたことだ。
ポーラを撃ち込むと敵の身体はヒビ割れたように亀裂が走り、崩壊する。
最初のうちは少女としての外観を保っているが、しばらくするとパズルのピースがバラバラとこぼれるように崩れ落ち、空間に生じたノイズとともに消失してしまう。
「美朱、大丈夫だった?」
「・・・みたいですね、」
少女の死体を見下ろす美朱のもとに、仲間の二人が到着した。
走り寄った少女二人が、顔を見合わせて安心した表情を浮かべる。
愛蘭と空は、美朱と分かれもう一体の敵を追っていた。
「そっちはどうだった?」
ノイズと共に消失していく少女の死体を見守りながら、美朱が言うと、愛蘭は綺麗な切れ長の瞳を伏せて呟いた。
「逃げられた。」
悔しさがにじみ出ている。彼女は負けず嫌いで、完璧主義なところがあった。
「もう少しだったんですけど・・ごめんなさい。」
空がしゅんと下を俯いて謝る。彼女の声は甘ったるくて可愛らしい。この戦場には似つかわしくない鼻にかかった少女の高い声。
「大丈夫、どうせまた奴らは襲ってくる。」
何度倒してもキリがない、何体倒しても敵は湧いて出てくるのだ。
美朱は今日何度目かわからないため息を吐き出した。
「青の世界から、そろそろ通信がありそうです。」
空が、指差した先を見る。
青い大きな月が、少女たちの頭上に不気味にその存在を現した。
3人は空を見上げる。あの大きな月にいる、仲間の生存を祈るように。
この赤の世界には、一定の周期で青い大きな月が現れる。
その間だけ、少女たちは青の世界にいる仲間たちと通信することができるのだった。
実感では数週間に一度くらいの頻度に思える。
この世界には朝も夜も区別がなく、空はいつも同じ色をしている。
安心して眠れる夜が訪れない、永遠の赤に染められた世界。
精神は日々疲弊していく。
時計もないので、時間という感覚が乏しい。
「青の世界のみんなは、無事でしょうか。」
空が不気味に佇む青い球体を見上げながら、呟いた。
「わからない。」
耳につけているイヤホン型の通信機が、ジーッと低い音を立てた。
音が途切れ途切れに鳴る。ノイズが大きく耳を擘く。
3人は耳に手を当てて、音を拾おうと意識を集中した。
『・・・聞こえるか?・・美朱・・・しろ・・・』
「茜か?」
聞き覚えのある声が、少女たちの耳に届いた。
青の世界の少女たち。
茜は青の世界の最年長で、男らしい喋り方をする姉御肌の少女だ。
『美朱・・・無事か?』
「茜、私たちは無事だ。前回の通信から100体以上は倒しているけど、まだ先が見えない。」
『こちらも全員無事だ。同じような状況だな。』
青の世界の少女たちもまた、赤の世界と同様に敵と戦っている。
この世界の謎を抱えたまま、真髄を知る術もなく、ただひたすら本能に従って敵を倒している。
わからないことだらけだった。
少女たちはお互いの生存にほっと胸を撫で下ろしながら、通信を終える。
次に世界が繋がった時には、誰が欠けているかわからない。
少女たちは会ったこともないお互いの無事を祈りながら、今日も本能が導くままに殺戮を繰り返す。
殺戮を終え、少女たちが安心して眠れる夜は、いつか訪れるのだろうか。
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