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『青の世界』
しおりを挟む青の世界は美しい。
瑞葉はこの世界にきてから、自分の意識が他人と一つに溶け合う快感を初めて知った。
ここにいる理由はわからない。
ここに来る以前のことも、何一つ思い出せない。
ただ全てが青いこの世界にいると、自分の存在が必要とされて必然的にここに在るのだと感じることが出来る。
青は、とても落ち着く色だ。
ーーー梨花ちんが泣いてる。
瑞葉は、自分の思考に随分と深く潜り込んでいたようだ。
梨花子の声を頼りに、黒い闇の中意識の出口を探す。
この世界では睡眠は必要ない。
怪我をした時に、数時間(この世界には時計が無いから正確な時間はわからない。感覚的にはおよそ3時間位だと瑞葉は感じていた。)眠れば、体力が回復し、傷も治る。
首を切り落とされたり、胴体が二つに分かれるような大きな損傷でない限りは、治ってしまうのだ。
以前の世界の記憶はないけれど、それが異常なことであるというのは本能として理解出来る。
この世界は色々とおかしい。
「梨花ちん、どうしたの?」
意識が青の世界へ戻ってくると、すぐ目の前に梨花子の泣き顔があった。
梨花子はこの世界で戦う3人の最年少メンバーだ。
2つ年上の瑞葉は、いつの間にか世話係になっていた。2つしか歳が離れていないはずなのに、梨花子はもっとずっと年下に見える。
瑞葉とは全く違うタイプの、甘え上手な女の子。泣き虫で、引っ込み思案の梨花子は無条件に可愛い。
周りが守ってあげたいという気持ちになり、放っておけないタイプなのだ。
自分の中にもそういう欲があることを、瑞葉は梨花子に出会って初めて知った。
「瑞葉ちゃんが・・・っ、何度呼んでも起きないから・・死んじゃったのかと思った・・っ」
瑞葉が生きていると分かった今でさえ、彼女は本当に悲しそうに大きな瞳からボロボロと涙をこぼし続けている。
ーーー梨花ちんの純粋さは、心に染みるなぁ。
瑞葉はもらい泣きしそうになるのをなんとか抑えて、年下の少女の頭を撫でた。
この世界で随分と死に慣れてしまった自分を食い止めてくれる、唯一の救いに思えた。
「ほらほら、梨花ちん、もう泣かないで。茜さんはどこ行ったの?」
「わからない・・・外を見てくるって言ったきり、戻ってこないの・・・」
ーーーどれくらい時間が経った?
この世界では時間の感覚がまるで掴めない。時計がない。朝も夜もなく、空の色はいつだって暗い青色。
ーーー私はどのくらい眠っていた?茜さんは、どこまで行ったのだろう?
敵を追いかけて走り去った背中を想う。
青に埋められたこの世界で、一人で動き回るのはとても危険だ。
自分の不甲斐なさに嫌気がさす。
目の前に現れた敵に、右腕をやられた。
片手を切り落とされたくらいでは死なないけれど、修復にはそれなりの時間がかかる。
腕をもがれた痛みと、大量出血により意識がしばらく落ちていた。
瑞葉は元どおりに戻った自分の右腕を見つめながら、自分を庇って敵から守り、追いかけて行った年長の彼女を想った。
茜の身体能力は抜群だ。足が早く身のこなしもしなやか。卓越した反射神経と、大きな武器を軽々と持ち上げ振り回すだけの筋力と、体力。
それでも。
この世界はすべてが未知なのだから、油断は出来ない。
何が出てくるかわからない。どんな凶暴な敵が潜んでいるのか、わからないのだ。
ここ数日、異変が起きていた。
毎日毎日襲い掛かってきていた敵の姿が、見えなくなったのだ。
数日、というのも自分たちの感覚だけを頼りに、勝手にカウントしたに過ぎないが、5日間程度、敵は姿をくらましていた。
この世界に来てから、そんなことは今まで一度だってなかったのだ。
ーーーーこの世界は一体。
途方に暮れながら見上げた空は、今日もどす黒い不穏な青に染められてそこにある。
不穏な色なのに、どうしてこんなに心が落ち着くのだろう。
青の世界は美しい。
ーーーこの世界に魅入られているのは、自分だけだろうか?
一刻も早く逃げ出したいと願っていたこの青い世界が、いつの間にか妙にしっくりと体に馴染み始めていた。
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