赤の世界のはじまりと、青の世界のはじまりは似ている

aika

文字の大きさ
3 / 3

『青の世界』

しおりを挟む


青の世界は美しい。

瑞葉はこの世界にきてから、自分の意識が他人と一つに溶け合う快感を初めて知った。
ここにいる理由はわからない。
ここに来る以前のことも、何一つ思い出せない。

ただ全てが青いこの世界にいると、自分の存在が必要とされて必然的にここに在るのだと感じることが出来る。

青は、とても落ち着く色だ。



ーーー梨花ちんが泣いてる。

瑞葉は、自分の思考に随分と深く潜り込んでいたようだ。
梨花子の声を頼りに、黒い闇の中意識の出口を探す。

この世界では睡眠は必要ない。
怪我をした時に、数時間(この世界には時計が無いから正確な時間はわからない。感覚的にはおよそ3時間位だと瑞葉は感じていた。)眠れば、体力が回復し、傷も治る。
首を切り落とされたり、胴体が二つに分かれるような大きな損傷でない限りは、治ってしまうのだ。
以前の世界の記憶はないけれど、それが異常なことであるというのは本能として理解出来る。

この世界は色々とおかしい。


「梨花ちん、どうしたの?」

意識が青の世界へ戻ってくると、すぐ目の前に梨花子の泣き顔があった。
梨花子はこの世界で戦う3人の最年少メンバーだ。
2つ年上の瑞葉は、いつの間にか世話係になっていた。2つしか歳が離れていないはずなのに、梨花子はもっとずっと年下に見える。
瑞葉とは全く違うタイプの、甘え上手な女の子。泣き虫で、引っ込み思案の梨花子は無条件に可愛い。
周りが守ってあげたいという気持ちになり、放っておけないタイプなのだ。
自分の中にもそういう欲があることを、瑞葉は梨花子に出会って初めて知った。

「瑞葉ちゃんが・・・っ、何度呼んでも起きないから・・死んじゃったのかと思った・・っ」
瑞葉が生きていると分かった今でさえ、彼女は本当に悲しそうに大きな瞳からボロボロと涙をこぼし続けている。

ーーー梨花ちんの純粋さは、心に染みるなぁ。

瑞葉はもらい泣きしそうになるのをなんとか抑えて、年下の少女の頭を撫でた。
この世界で随分と死に慣れてしまった自分を食い止めてくれる、唯一の救いに思えた。


「ほらほら、梨花ちん、もう泣かないで。茜さんはどこ行ったの?」

「わからない・・・外を見てくるって言ったきり、戻ってこないの・・・」


ーーーどれくらい時間が経った?

この世界では時間の感覚がまるで掴めない。時計がない。朝も夜もなく、空の色はいつだって暗い青色。

ーーー私はどのくらい眠っていた?茜さんは、どこまで行ったのだろう?

敵を追いかけて走り去った背中を想う。
青に埋められたこの世界で、一人で動き回るのはとても危険だ。

自分の不甲斐なさに嫌気がさす。

目の前に現れた敵に、右腕をやられた。
片手を切り落とされたくらいでは死なないけれど、修復にはそれなりの時間がかかる。
腕をもがれた痛みと、大量出血により意識がしばらく落ちていた。

瑞葉は元どおりに戻った自分の右腕を見つめながら、自分を庇って敵から守り、追いかけて行った年長の彼女を想った。

茜の身体能力は抜群だ。足が早く身のこなしもしなやか。卓越した反射神経と、大きな武器を軽々と持ち上げ振り回すだけの筋力と、体力。
それでも。
この世界はすべてが未知なのだから、油断は出来ない。
何が出てくるかわからない。どんな凶暴な敵が潜んでいるのか、わからないのだ。

ここ数日、異変が起きていた。
毎日毎日襲い掛かってきていた敵の姿が、見えなくなったのだ。
数日、というのも自分たちの感覚だけを頼りに、勝手にカウントしたに過ぎないが、5日間程度、敵は姿をくらましていた。
この世界に来てから、そんなことは今まで一度だってなかったのだ。

ーーーーこの世界は一体。

途方に暮れながら見上げた空は、今日もどす黒い不穏な青に染められてそこにある。
不穏な色なのに、どうしてこんなに心が落ち着くのだろう。

青の世界は美しい。

ーーーこの世界に魅入られているのは、自分だけだろうか?

一刻も早く逃げ出したいと願っていたこの青い世界が、いつの間にか妙にしっくりと体に馴染み始めていた。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。 『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話のパート2、ここに開幕! 【ご注意】 ・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。 なるべく読みやすいようには致しますが。 ・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。 勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。 ・所々挿し絵画像が入ります。 大丈夫でしたらそのままお進みください。

世界最強の七賢者がお世話係の俺にだけはデレデレすぎる件

Y.
ファンタジー
国の頂点に君臨し、神にも等しい力を持つ『七賢者』。 火・水・風・土・光・闇・氷の属性を極めた彼女たちは、畏怖の対象として国民から崇められていた。 ――だが、その「聖域」の扉を一枚隔てた先では、とんでもない光景が広がっていた。 「アルトぉ、この服脱がせてー。熱いから魔法で燃やしちゃった」 「……アルトが隣にいないと、私、一生布団から出ないから」 「いいじゃない、減るもんじゃないし。さあ、私と混ざり合いましょう?」 彼女たちの正体は、私生活が壊滅的にポンコツで、特定の一人に依存しきったデレデレな美少女たちだった! 魔法の才能ゼロの雑用係・アルトは、世界で唯一「彼女たちの暴走魔力に耐えられる」という理由で、24時間体制の身の回りのお世話をすることに。 着替え、食事の介助、添い寝(!?)まで……。 世界最強の7人に取り合われ、振り回され、いじり倒される。 胃袋と心根をガッチリ掴んだお世話係と、愛が重すぎる最強ヒロインたちによる、至福の異世界ハーレムラブコメ、開幕!

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

処理中です...