官能男子

aika

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長い春〜雫と慎二の場合〜②

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俺はこの15年間の中で、一番のピンチを迎えていた。

新入社員の直生とチーズフォンデュを食べて、お酒に弱い彼が酔って歩けなくなったのでタクシーで部屋へ送った。
ここまでは、ただの優しい先輩で理屈が通る。

問題はそこからだ。


直生をベッドに寝かせて水を飲ませる。
水を飲む彼の首筋を見ていたら、妙に艶かしくて俺の目は釘付けになってしまった。

甘えられるという行為に俺は弱い。
雫は自立していて俺に頼るということがあまりないから、素直に人に甘えられるのは久しぶりだった。


「慎二先輩・・俺、先輩のこと・・・」

「直生、お前少し飲み過ぎだな。明日も早いんだから、遅刻すんなよ。」


彼から目をそらして言う。
早々にこの場を立ち去るべきだ、と俺の理性が警告している。



雫以外の人間の寝室に入るなんて、人生初めてのことだった。
ベッドに座ってこちらを見上げている直生は、俺の手を握って甘い声でささやいた。


「先輩・・帰っちゃヤダ・・・」


直生の可愛い顔に、甘ったるい声。酔って上気したピンク色の頬。

雰囲気に押し流されそうになる。
ベッドに誘い込むように、彼が俺の手を引いた。

「俺・・・先輩のこと・・・好きなんです。」

直生は潤んだ瞳で、縋り付くように俺を見た。




興味がないと言ったら嘘になる。

最近はゆっくり雫と抱き合うことも減っていた。
付き合いたてのような新鮮さはないし、一緒に暮らしていると性生活もどうしてもマンネリになってしまう。

年齢を重ねて精力も20代の頃からはかなり落ちてきた。
セックスレスとまでは言わないけれど、二人の関係性にセックスの持つ意味合いが薄れてきたように思う。


15年も恋人同士でいると、安心感や安定感は抜群の関係になる。
雫は穏やかで物静かなタイプだから、外出先はもちろん家で一緒に過ごす時もイチャイチャしたり、目に見えて甘えるような態度は取らない。
仕事や用事を優先させても、「一緒に過ごしたかったのに・・」なんて可愛い嫉妬や我がままを言うことは元々無かった。


「先輩・・・お願い。今夜は俺と一緒に居て・・・」

「直生・・俺、恋人がいるから、こういうのはちょっと、」


困る、と言い切れない自分が悔しい。



「朝まで・・・一緒に居てくれるだけでいいです。」


直生の健気さにぐらりと心が揺らいでしまった。

彼をここに一人置いて帰る気になれない自分がいる。
自分より10以上も若い子に求められることが新鮮で嬉しかった。


「先輩・・・嬉しい・・・」

ぴったりと俺にくっついて可愛い寝息をたてる直生に、良からぬ妄想が次から次へと浮かんでは消えていく。
直生が俺の股間に顔を埋めて健気に奉仕してくれる姿や、
俺の上に乗って可愛いお尻を一生懸命上下させている姿を想像しては、欲情した。

バカバカしいと思えば思うほど、そんな想像が頭の中を駆け巡って俺の自制心を乱す。

最近、セックスで興奮したのっていつだっけ。
全然思い当たらなかった。

思い浮かぶのは、学生時代。
付き合いたての雫と、無我夢中でお互いの身体を貪りあった遠い記憶。


直生のベッドで、手を繋いで眠りについた。

何もしていないから、と心の中で恋人に精一杯の言い訳をして、後輩の部屋で一夜を明かした。




♢♢♢♢♢♢



「慎二君、帰ってきたの・・・?」

びっくりした、とパンを焼いていた雫がキッチンから顔を出した。
彼の顔を見て、心底ほっとした自分に気付く。


「着替え、しようと思って。」

後ろめたい気持ちがあるから、彼が怒っているんじゃないかなんて
変な妄想に苛まれていた。

こっそり玄関のドアを開けて、忍び込むように自分の家に入った俺は馬鹿だ。


「朝ごはん食べて行く時間ある?いつも通り、慎二君のパンも焼いちゃった。」

目を細めて笑う彼が眩しい。
ズキンと、罪悪感で胸が痛んだ。


雫には昨夜のうちに連絡を入れていた。
後輩が酔って具合が悪いから彼の部屋に泊まる、と伝えると、
「そうなんだ。それは大変。そばにいてあげないとね。」と、優しい言葉が返ってきた。

会ったこともない俺の後輩を心配する彼の優しさに、俺の罪悪感は大きくなる。


何もなかった。
酔った後輩と、手を繋いで同じベッドで眠っただけだ。

俺はそう自分に言い聞かせながら、朝食の席に着く。
いつものように雫が焼いた少し焦げているトーストに、甘ったるいイチゴジャムをたくさん塗って頬張った。


「後輩君は、体調大丈夫なの?」

雫は俺を疑う気持ちが全くない。
俺の言ったことは全て鵜呑みにして、深く追及しないのだった。

信頼されているからと勝手に良い解釈をしていたけれど、実際は俺に興味がないのかもしれない。


「ああ。少し飲みすぎただけだから。」


「そっか。よかったね。」


いつもの朝の風景。
俺は心からの安堵と、ほんの少しの物足りなさを同時に感じていた。


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