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第7話 猫の隠れ家にて
①
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演奏会の開始時刻にはまだ早かったが、コリアード家の広間にはもうずいぶんと人が集まっていた。
さすが、由緒正しき伯爵家の催しだけあって、訪れる人たちの装いも豪華だ。派手な色のドレスに、レースや襞飾りがふんだんにあしらわれた衣装、光り輝く宝石の数々には、目も眩みそうになる。
これだけたくさんの貴族がいれば知った顔もいくらかあるだろうと思ったが、そうでもない。
これからは侯爵家長男の夫人として、こうした貴族の集まりもそつなくこなしていかなければならないのだ。王宮庭園や荘園の管理にかまけて、苦手な社交界の付き合いを避けて通ってきたことを、そろそろ顧みなくては。
「エレイナは、コリアード伯爵がどんな方かご存知?」
半歩前を歩くアデルが、顔を前に向けたまま尋ねた。
エレイナは他の客と擦れあうドレスのスカートに四苦八苦していたが、アデルはそんなそぶりも見せずに、客でごった返す大理石の床を、顎をつんと上げて進んでいく。
「父からは、ご夫妻ともに楽器の名手だと伺っております。夫人は鍵盤楽器の先生だとか」
「今はね。でも、伯爵はただ道楽を楽しんでいるだけの田舎貴族というわけではないわ。かつて彼が、あなたのお父君と一緒に宮廷にいらした頃の話は?」
そう尋ねられて、エレイナは罰が悪そうに首を振る。
「いいえ。それに、ここ最近は父が忙しくしているために、ゆっくりと話ができていないのです」
エレイナの弁解に、アデルが目を見開いてこちらへ顔を向けた。そう、と返して、ふたたび前を向き直る。
「では、今教えて差し上げるわ。こちらへ来て」
アデルが急に進路を変えた。広間を突っ切って部屋の隅まで行き、柱の陰に回る。
俗に言う、“猫の隠れ家”――すなわち、舞踏会などの人が大勢集まる場で、道ならぬ恋人同士がちょっとした逢引を楽しむための場所だ。その壁には透かし彫りの衝立が立てかけてあって、それで遮ると、ちょうど大人ふたりがすっぽりと身を隠せるようなスペースができるのだ。
エレイナを猫の隠れ家に押し込めて、アデルは衝立を置いた。
ここは基本的に男女がふたりで入る場所なので、女性同士だとドレスのスカートがぶつかって非常に狭い。アデルはエレイナに覆いかぶさるようにして壁に肩をつく。
「で、さっきの話なのだけど」
「え、ええ」
エレイナはごくりと唾をのんだ。
さすが、由緒正しき伯爵家の催しだけあって、訪れる人たちの装いも豪華だ。派手な色のドレスに、レースや襞飾りがふんだんにあしらわれた衣装、光り輝く宝石の数々には、目も眩みそうになる。
これだけたくさんの貴族がいれば知った顔もいくらかあるだろうと思ったが、そうでもない。
これからは侯爵家長男の夫人として、こうした貴族の集まりもそつなくこなしていかなければならないのだ。王宮庭園や荘園の管理にかまけて、苦手な社交界の付き合いを避けて通ってきたことを、そろそろ顧みなくては。
「エレイナは、コリアード伯爵がどんな方かご存知?」
半歩前を歩くアデルが、顔を前に向けたまま尋ねた。
エレイナは他の客と擦れあうドレスのスカートに四苦八苦していたが、アデルはそんなそぶりも見せずに、客でごった返す大理石の床を、顎をつんと上げて進んでいく。
「父からは、ご夫妻ともに楽器の名手だと伺っております。夫人は鍵盤楽器の先生だとか」
「今はね。でも、伯爵はただ道楽を楽しんでいるだけの田舎貴族というわけではないわ。かつて彼が、あなたのお父君と一緒に宮廷にいらした頃の話は?」
そう尋ねられて、エレイナは罰が悪そうに首を振る。
「いいえ。それに、ここ最近は父が忙しくしているために、ゆっくりと話ができていないのです」
エレイナの弁解に、アデルが目を見開いてこちらへ顔を向けた。そう、と返して、ふたたび前を向き直る。
「では、今教えて差し上げるわ。こちらへ来て」
アデルが急に進路を変えた。広間を突っ切って部屋の隅まで行き、柱の陰に回る。
俗に言う、“猫の隠れ家”――すなわち、舞踏会などの人が大勢集まる場で、道ならぬ恋人同士がちょっとした逢引を楽しむための場所だ。その壁には透かし彫りの衝立が立てかけてあって、それで遮ると、ちょうど大人ふたりがすっぽりと身を隠せるようなスペースができるのだ。
エレイナを猫の隠れ家に押し込めて、アデルは衝立を置いた。
ここは基本的に男女がふたりで入る場所なので、女性同士だとドレスのスカートがぶつかって非常に狭い。アデルはエレイナに覆いかぶさるようにして壁に肩をつく。
「で、さっきの話なのだけど」
「え、ええ」
エレイナはごくりと唾をのんだ。
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