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第7話 猫の隠れ家にて
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しおりを挟む「あなたのお父君が宰相を務めていた頃、コリアード伯爵は元老院の中心人物だったの。彼がサロンを訪れる時には大抵、同時期に元老院にいたムゼ侯爵と連れ立っていたんだけど、そのムゼ侯爵があなたのお父君と懇意にしていたのよ」
「そうなのですか?」
エレイナはアデルの顔を見上げた。
ムゼ侯爵の名前は父の口から聞いてはいたが、特別親しく付き合っていたことまでは知らない。
国の情勢について、父はたびたび話して聞かせてくれた。しかし、個人的な話やどろどろした人間関係については、娘の耳に入れまいとしているようでもあったのだ。
アデルは海の色をした瞳をきらきらと輝かせ、さらに頬を近づけてくる。
「あなたのお父様、最近元老院の空席に入ることになったでしょう。今、王宮内では密かにある計画が進行しつつあるわ。クロナージュ伯爵、ムゼ侯爵、コリアード伯爵――この三人が中心となって、王宮内における権力の構図をひっくり返そうとしている」
「ええっ!?」
「しいっ」
アデルの指がエレイナの唇を押さえた。いつの間にか腰に彼女の手が回され、エレイナは抱きしめられるような格好になっている。
しかし却って好都合だ。不穏な話に震えあがったエレイナは、誰かに支えられていないとまっすぐに立っていられそうもない。
アデルは一度後ろを振り返って、ふたたびエレイナの目をじっと覗き込んで続ける。
「今、国内は正教会が支持する枢機卿の権力が席捲しているわ。先王の宰相をしていた枢機卿と、現国王の宰相であるロンデル伯とのあいだで確執があるのは知っているわね?」
「は、はい……まあ」
「では、ロンデル伯が現国王を即位させるために、先王を亡き者にしたという話は?」
エレイナは鋭く息をのんだ。思わず彼女から視線を外して、誰か聞き耳を立てていた者はいなかったかと、周りを確かめる。
彼女は一体なんてことを言うのだろう。そのことは、当時散々噂になったせいで貴族のほとんどが知るところではあるが、それを口に上らせる者は滅多にいない。
「あ、あの……それについてはわかりません。まだ子供でしたから」
エレイナは唇を噛んで俯いた。尊敬するアデルがこんなことを言うなんて信じられない。彼女は何を望んでいるのだろう。これが本当に知っておかなければならないことなの?
その時、突然アデルに顎を持ち上げられて、エレイナはびくりとした。彼女は刺すように真剣な眼差しで、まっすぐに射抜いてくる。
「今、枢機卿はロンデル伯がやったのと同じやり方で、今度は現国王を亡き者にしようとしているわ。そうなれば、第二王子のルシオールが即位する。その時に自分の地位を盤石にするため、枢機卿は自分の娘をルシオールに輿入れしようとしているの。そのあとはどうなると思う?」
ルシオの名前が出た瞬間からエレイナの心は揺れていたが、今はもう泣きそうになっていた。この先は聞きたくない。あの天使のようだったルシオが、権力の渦にのみ込まれて形を変えていくところなど、想像したくもない。
アデルはエレイナの顎を押さえたまま、唇が触れるほど顔を近づけた。
「先の議会で、世継ぎなくして王が崩御した場合、選挙で後継者を決めるという法案が可決されたわ。枢機卿はルシオールを殺すつもりよ。そして、その後釜に自分が座ろうとしている」
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