24 / 50
第7話 猫の隠れ家にて
③
しおりを挟むエレイナの目から、ついに大粒の涙が零れた。
もういやだ。聞きたくない。
全身の力が抜けて、その場にしゃがみこんでしまいそうになる。実際、アデルに支えられていなかったら、きっと立っていられなかっただろう。
大柄な彼女の胸にすがって、エレイナはわっと泣き出した。ショックだった。ルシオが他の女性を娶ることは、断腸の思いを抱えつつも諦めることができる。けれど、政治の駒となり命を落とすなど、あってはならないのだ。
「エレイナ……」
抱きしめるアデルの腕に力が込められて、エレイナは一層激しく泣いた。ここが猫の隠れ家であるのをいいことに。
「ああ、エレイナ……泣いてくれるの? 優しいエレイナ、あなたが大好きよ。大丈夫。まだ何も起きていないし、ルシオール王子だってぴんぴんしてるんだから。それにきっと、王統派であるあなたのお父様方が守ってくれる。……ほら、せっかくのお化粧が落ちてしまうわ。そろそろ泣きやんで」
アデルがハンカチを取り出して、エレイナの目元をそっと拭う。鼻まで拭かれて、ようやくエレイナは泣きやんだ。
「ごめんなさい。ドレスを汚してしまって――」
しゃくりあげながら謝ると、アデルは優しく笑みを浮かべた。
「いいのよ。それよりお化粧を直してあげるから、少しじっとしていて」
アデルはスカートのスリットに手を突っ込み、腰巻ポケットから取り出したおしろいをエレイナの頬にはたく。
「口紅も直して差し上げる。あなたの今日のドレスには、その色はあまり合わないと思っていたの」
そう口にすると、彼女は一歩前に足を踏み出した。
後ずさりしたエレイナの背中が、冷たい壁に押し付けられる。アデルの美しい顔が目の前に迫り、気づいた時にはもう唇が重なっていた。
アデルのしなやかな唇が、優しく、かつ大胆にエレイナの唇を貪る。その手は頬にあてがわれ、もう一方の手はエレイナの腰に巻き付いている。
エレイナはすぐに夢中になった。以前にされた時と比べて、腰が砕けそうになるほど官能的で淫らなキス。
こんなに焦がれた気持ちになるのははじめてのことだ。触れているのは唇と、彼女が腰を抱いている場所だけなのに、なぜか身体の奥がじんじんと熱を持っているように感じる。
アデルの舌がそっと唇の端を舐めて、エレイナの腰を震えが走った。そのはじめてのあたたかさに唇を固く閉じると、顎にかかったアデルの手に強引に唇を開かされる。
「ん……は」
薄く開いた歯の隙間に、彼女の舌が忍び込んだ。あたたかく、艶めかしい動きをするそれは、エレイナの舌を優しく絡め取り、吸いたてる。
広間の中央でまばゆいばかりに輝くシャンデリアも、部屋の隅にある猫の隠れ家までは届かない。それをいいことに、ふたりは互いの唇を深く、深く貪った。
やがて唇が離れた時、エレイナの息はすっかり上がっていた。頬が熱い。胸が激しく上下して、わけもなく泣きたい気分になる。
ふたりの乱れた唇を、アデルがハンカチで拭った。そしてポケットから取り出した口紅を、妖しく微笑みながらエレイナの唇にさす。
「私たち、同じ口紅をつけましょう。あなたの唇は私のもの。私の唇はあなたのものなの。ねえ、素敵だと思わない?」
0
あなたにおすすめの小説
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる