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第14話 枢機卿の悪事
②
しおりを挟む「陛下にお目にかかりたい」
ルシオは扉を守る近衛兵にそう告げた。
整った顔立ちの青年は敬礼をしたのち、くるりと背を向ける。彼が扉をノックすると、はい、と男性にしては高い声が室内から響いた。
「ルシオール殿下がお見えでございます。陛下に謁見をお求めになられております」
「入ってもらってくれ」
明るい声とともに、中で人が椅子から立ち上がる音がする。近衛兵が扉を開けた時には、王国の現王である兄、ジュリアスがすぐそばまで来ていた。
「やあ、ルシオ。よく来たね」
ジュリアスはそう言って、今着ている王の装束よりも白い頬を綻ばせる。
「陛下」
ルシオは胸に拳を当て、恭しく腰を折った。が、すぐに肩に手がかけられて顔を上げる。
兄が子供時代のように、屈託のない笑みを浮かべていた。王になって三年が過ぎても、彼は昔のまま変わらないようだ。
「そんな堅苦しい挨拶はいいよ。兄弟じゃないか」
ジュリアスが握手を求めてきたので、ルシオはその手を握った。少し痩せただろうか。元々ルシオよりもひと回り小柄な彼の手が、随分と骨っぽく感じる。ジュリアスの美しい顔は儚げで、今は会えなくなった母の姿が脳裏に浮かんだ。
ルシオとジュリアスの母親は、先王である父が投獄された際、離宮から一日ほど馬で駆けたところにある田舎の城に連れて行かれた。
母が王宮から引き離されたのは、現王であるジュリアスに近づかせないためだ。兄の力になる者を極力そばに置きたくないと、ロンデルは考えたらしい。
それ以来、王室との行き来を絶たれた母は、庭木の手入れをしつつひっそりと暮らしていると噂に聞く。経済面では王室からの補助があるので、何不自由なく暮らしているはずだ。しかし、事実上軟禁状態にある母親の境遇を、ルシオは案じている。
力づくで奪還することも考えたが、控え目でたおやかな母のこと、争い事は望んでいないだろう。ならば、兄を介してロンデルを説得しようとも試みたが、肝心のジュリアス自身が難色を示した。彼は即位して以来、ロンデルの言いなりなのだ。その理由が、ほかならぬ母親を人質に取られたことにあるのだから、致し方ない。
「ロンデル伯と話がしたい」
ルシオは単刀直入に切り出した。枢機卿の呼び出しに応える前にここへ来たのにはわけがある。
「ロンデル? 隣の控室にいるよ。――ロンデル!」
ジュリアスが部屋の隅にある扉に向かって声を張った。すぐに扉が開いて、中からロンデルが姿を見せる。やけに早い。聞き耳を立てていたのだろうか。
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