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第15話 囚われの王と翼を持つ弟
②
しおりを挟む「もちろん、ただ発表するだけではだめだ。ここはあえて民衆を味方につけたい」
「と、おっしゃいますと……?」
「サンデリン卿の手を借りる。彼は口が固いし、平民をまじえた新たな選挙制度を推進しようとしている。彼なら、民衆の支持も厚いだろう。あらかじめ裏から手を回して、政府の公表と同時にサンデリン卿に演説を打ってもらうんだ」
ルシオは目を輝かせて意気揚々と語った。それにもかかわらず、ロンデルは一層神経質そうに眉根を寄せる。
「それは確かに妙案ですが、彼もまた王統を廃しようという不遜な貴族では――」
「伯爵」
ルシオが遮った。
「サンデリン卿は確かに王室にとっては敵だが、このまま枢機卿を野放しにしていては、この国の存続自体が危ない。共通の敵を相手にして、今だけは敵と手を組もうというだけの話だ」
ルシオはそう言って、伯爵を安心させようと頬を緩めてみせる。
ロンデルは深いため息を吐き、やっとわずかながら緊張を解いた。
「なるほど。サンデリン卿とは、私も古い付き合いです。彼の協力は私が仰ぎましょう。……殿下。本来はあなたのような方こそが、王であるべきでしょうな」
ルシオは一瞬言葉を失ったが、微かに笑みを浮かべてロンデルの肩に手を置く。
「それは聞かなかったことにする。ロンデル伯、頼りにしているよ」
「終わったのか」
ルシオが宰相の部屋から出てくると、執務の途中だったらしいジュリアスが顔を上げた。彼の問いかけに、ルシオは、ああ、とだけ返す。執務と言っても、ジュリアスの仕事はロンデルが承認した書類にサインと捺印をするだけだ。
兄を交えずに宰相に国政の相談をするのは、やはり気が引ける。しかし、人柄はよくても世間知らずな兄では国は守れない。
宰相は父王殺しの黒幕で食えない奴だが、義理堅く、家柄は代々続く生粋の王統派だ。ヴィクトラス王国のことも、兄のこともきっと守ってくれるだろう。
ジュリアスは書類の内容を見もせずにサインをして、封蝋を手に取った。
「ロンデル伯の娘と結婚することになりそうだ」
「それはおめでとう。幸せになってくれ」
眉をぴくりとも動かさないルシオを見て、ジュリアスはにやりとする。彼は封蝋を置いて赤いビロード張りの椅子から立ち上がると、ルシオを入り口付近にいざなった。
「並みの貴族のように舞踏会なんかで相手を見つけたかったよ」
おどけて言うジュリアスを見て、ルシオは思わず苦笑いした。頭の中には、お世辞にも美人とは言えない宰相の娘の顔が浮かんでいる。
「気持ちはよくわかるよ。僕だってたまに、王家に生まれたことを恨んだりもする」
ルシオが同意すると、ジュリアスは白い歯を見せた。
「今、王宮は仮面舞踏会とやらの話で持ち切りなんだ。実はちょっと羨ましい」
「仮面舞踏会? そんなものがあるのか」
ルシオが目を丸くする。
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