わけあって極道の妻になりました

番外編

龍臣さんのはじめてをください④

　いちかは唇の端を上げて、もう一度龍臣の乳首を口に含んだ。
　舌で転がしたり、甘く噛んだり、優しく吸ってみたり。そうしながらも、彼の昂りを自分の肉鞘で愛撫するように、腰を前後に揺らしたり、滑らかに回してみる。
　室内には、ぐちゅん、ぐちゅん、と蜜壺をこねる淫らな音が響いていた。どちらのものともわからない蜜が、いちかのお尻をしたたかに濡らしている。
　彼を攻めながらも、いちかは自分でも気持ちがいい場所を探し続けた。よく感じる入り口あたりに始まり、へその裏側を探索して、今は一番奥で彼を感じて……
「んっ……ねえ、龍臣さんも気持ちいい？」
「ああ、だいぶな。くそっ……なんて奴だ」
　龍臣は食いしばった歯の隙間から声を洩らした。そして、狂おしげに揺れるとろりとした眼差しでねめつけてくる。
　目が合った途端、ぞくりという震えとともに、いちかの胸に謎の征服感が込み上げた。脚のあいだが熱い。ちょっとしたきっかけで、またのぼりつめてしまいそうなほど。
「きゃっ」
　その時、龍臣に突然腕を引かれて逞しい胸の上に落ちた。抱きすくめられたかと思うと、体勢が逆になるようぐるりと回され、上から圧し掛かられる。
「ったく、お前は――」
　龍臣はそう呟くと、力任せに奥を突いてきた。
「かわいい女だ」
「あっ、は、やあぁんっ」
　彼は片足を床につき、いちかの一方の太腿を持ち上げて、激しく律動した。腰を打ちつける音が響くほど。いちかの息が止まりそうになるほどに。
「やっ、だめぇっ、んんっ――」
　いちかの唇は、龍臣の濡れた唇に塞がれた。すぐにねじ込まれた舌が、口内をけだもののように蹂躙する。
　歯と歯がぶつかり合って、唇が切れるのではないかと思った。唾液がつらつらと流れ込む。それをいちかはごくりとのみ込んで、竜が棲む彼の背中をぎゅっと抱きしめた。
(龍臣さん……)
　欲望を隠しもせずにぶつけてくる彼が、愛しくて堪らない。
　汗だくになった素肌も。
　燃えるような吐息も。
　猛々しくみなぎる昂りも。
　彼との結婚生活は安泰とはいかないかもしれない。それでも、この先何があっても絶対に離さないと心に誓う。
「ずっと、俺だけだよな？」
　唇をつけたまま、龍臣が尋ねた。いちかは急に込み上げてきた涙をのみ込んで頷く。
「当たり前でしょ……大好きだもん……っ」
「いちか……愛してる」
　満足げに囁く彼の楔が、一層硬さを増したように感じた。
　龍臣は一心不乱に腰を振り続ける。腰と腰がぶつかり合う音。恥ずかしいほどの水音を吐息でかき消して、獣のように愛しあう。
　身体の奥底から耐えがたいもどかしさがせり上がってきて、いちかは彼の腕にしがみついた。
「んあ、あっ、龍臣さんっ、いくっ……いっちゃうっ――」
　その直後、ぎりぎりまで膨れ上がった快感が、花火のように弾け飛んだ。
　全身を燃え盛る血が駆け巡る。肌が一斉に粟立ち、天にも昇る心地よさがさざ波のごとく広がっていく。
　それから一瞬遅れて、いちかの胎内に龍臣が精を放ったのを感じた。どくん、どくんと力強く跳ねる昂りを、放すまいときつく抱きしめる。
　やがて、盛大なため息とともに、龍臣がぐったりと覆いかぶさってきた。
　汗でぐっしょりになったその肌を、いちかは慈しみを込めて撫でる。彼の唇が首筋に触れ、そして、唇にキスが舞い降りた。
　唇を優しく押しつけては食み、また角度を変えてそっと吸い……
　愛の行為の名残を孕んだ、スイーツよりも甘い口づけ。いちかは龍臣の広い背中を強く抱きしめて、彼のまごころを受け取った。
「さすがに女に犯されたのははじめてだ」
　唇を離した龍臣が静かに呟く。いちかは思わずくすくすと笑った。
「本当？　嬉しい」
「嬉しい？　何が」
「龍臣さんの『はじめて』を奪うことができたから」
　得意げに答えると、彼が複雑そうな笑みを浮かべる。
「言ってくれるね。薄汚れた俺にだって、未体験なことはいくらでもあるぞ？」
　いちかは唇を尖らせて、龍臣の頬を両手で優しく挟んだ。
「そうやって自分を卑下しないで。私の大好きな人なんだから」
「お前……」
　そう言ったきり、彼は口ごもった。いちかの頭の脇に肘をつき、参った、というふうに額を手で押さえる。
「ちくしょう……俺の嫁、かわいすぎかよ……」
　いちかが噴き出して、龍臣も声を立てて笑った。それがくすくす笑いになり、また甘い口づけが始まる。ひとしきり濃厚なキスを交わして、吐息とともに唇が離れた。
「続きはベッドで」
　龍臣の三白眼が妖艶に輝く。
　軽々と抱き上げられてベッドに移動したいちかは、色鮮やかな東京の夜景が朝日にかき消されるまで、深く、深く、愛されたのだった。


※番外編／龍臣さんのはじめてをください
これにて完結です。本編「わけあって極道の妻になりました」全国書店、ネット書店で発売中です。よろしくお願いします。