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番外編
秘め事は隠された小部屋の中で ①
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とある休日の午後のこと。
莉緒と恭吾は、篁家の屋敷内にある『開かずの間』にいた。ここは、かつての執事が鍵を紛失して以来、使う予定もなかったため三十年近く放置されていたという、いわくつきの部屋である。
中に何があるのかは、現当主である恭吾でも知らなかった。当然好奇心でいっぱいのふたりは、鍵を開けにきた業者が帰ってすぐに、室内に足を踏み入れたのだが――。
その途端、廊下の窓から強い風が吹きつけ、背後にある扉が勢いよく閉まった。慌ててふたりがかりで押してみるものの、建てつけが悪いせいかびくともせず。
……そんなわけで、莉緒と恭吾はこの『開かずの間』の中に、閉じ込められてしまったのである。
「どうしましょう、恭吾さん……!」
莉緒は震えの止まらない手で彼にしがみつき、泣きべそをかいた。
「莉緒さん、そんなに怖がらないで」
「だって、まさか閉じ込められちゃうなんて」
「大丈夫ですよ。そのかわり、私にぴったりくっついていてください。いいですね?」
耳元でそう優しく囁く彼が、莉緒を強く抱きしめてくる。この場に似つかわしくない、低く甘い声。大きな彼のぬくもりに、不安がすうっと溶けていく。
カーテンで閉め切られた室内は暗く、どこか不気味だった。コレクション置き場として使われていたのか、古い調度品やアンティークグッズがごちゃごちゃに置かれ、中には骨のようなものや、薄汚れたぼろきれみたいなものまである。
と、突然高いところから何かが落ちる物音がして莉緒は飛び上がった。恐る恐るそちらに目を向けて、ひっ、と声を上げる。
「きょ、恭吾さん、あれ……!」
「ああ、呪いの面ですね」
さらりと言った彼の顔を、莉緒は凝視した。
「呪いとか、冗談ですよね……?」
「さあ、どうでしょう」
恭吾がにやりと口角を上げる。
(こんな時にからかうなんて……)
意地悪な彼に怒りをぶつけたいところだが、あいにくそんな心の余裕はない。ムッとする代わりに、恭吾の胸に顔を押しつけた。
「怖いなら何も見なければいいんですよ」
大きな腕が、背中をぎゅっと抱きしめてくる。
その言葉に従って目を閉じれば、とくん、とくん、と伝わる彼の心音。ゆっくりと力強くて、とても落ち着いている。でも……。
「あ、あの」
「ん?」
色っぽくかすれた彼の声。莉緒が腰を引こうとすると、恭吾は益々身体を押しつけてきた。お腹に当たる彼の身体の一部は硬く、猛々しく己の存在を主張していて――。
「恭吾さん……こんな状況なのに」
「こんな状況?」
莉緒がこくりと頷く。
「開かずの間に閉じ込められて、周りを呪いの仮面や何かの骨とかに囲まれてるんですよ? それなのに――」
必死に説明を試みる莉緒の頬に手が掛かり、彼の方へと向けられた。
「怪しげな密室に莉緒さんとふたりきりでいるなんて、私はむしろ興奮しますが」
静かに囁く彼の長い睫毛が、緩やかに瞬く。ふたたび開けられたまぶたの中で、はしばみ色の美しい瞳が揺らめいた。
「あなたは私だけを見ていればいいのです」
すべてを言い終わらないうちに、彼の唇が莉緒の唇に触れる。そして、ベルベッドみたいな感触がふわりと重なった。
そろりと忍び込んできた熱い舌が、莉緒の口内を丹念に味わうように開かせる。そこにあるあらゆるものの形を確かめるように、未踏の森の中を探索するかのように。
「ん……う、恭吾、さん――」
「しっ。何も言わないで」
莉緒と恭吾は、篁家の屋敷内にある『開かずの間』にいた。ここは、かつての執事が鍵を紛失して以来、使う予定もなかったため三十年近く放置されていたという、いわくつきの部屋である。
中に何があるのかは、現当主である恭吾でも知らなかった。当然好奇心でいっぱいのふたりは、鍵を開けにきた業者が帰ってすぐに、室内に足を踏み入れたのだが――。
その途端、廊下の窓から強い風が吹きつけ、背後にある扉が勢いよく閉まった。慌ててふたりがかりで押してみるものの、建てつけが悪いせいかびくともせず。
……そんなわけで、莉緒と恭吾はこの『開かずの間』の中に、閉じ込められてしまったのである。
「どうしましょう、恭吾さん……!」
莉緒は震えの止まらない手で彼にしがみつき、泣きべそをかいた。
「莉緒さん、そんなに怖がらないで」
「だって、まさか閉じ込められちゃうなんて」
「大丈夫ですよ。そのかわり、私にぴったりくっついていてください。いいですね?」
耳元でそう優しく囁く彼が、莉緒を強く抱きしめてくる。この場に似つかわしくない、低く甘い声。大きな彼のぬくもりに、不安がすうっと溶けていく。
カーテンで閉め切られた室内は暗く、どこか不気味だった。コレクション置き場として使われていたのか、古い調度品やアンティークグッズがごちゃごちゃに置かれ、中には骨のようなものや、薄汚れたぼろきれみたいなものまである。
と、突然高いところから何かが落ちる物音がして莉緒は飛び上がった。恐る恐るそちらに目を向けて、ひっ、と声を上げる。
「きょ、恭吾さん、あれ……!」
「ああ、呪いの面ですね」
さらりと言った彼の顔を、莉緒は凝視した。
「呪いとか、冗談ですよね……?」
「さあ、どうでしょう」
恭吾がにやりと口角を上げる。
(こんな時にからかうなんて……)
意地悪な彼に怒りをぶつけたいところだが、あいにくそんな心の余裕はない。ムッとする代わりに、恭吾の胸に顔を押しつけた。
「怖いなら何も見なければいいんですよ」
大きな腕が、背中をぎゅっと抱きしめてくる。
その言葉に従って目を閉じれば、とくん、とくん、と伝わる彼の心音。ゆっくりと力強くて、とても落ち着いている。でも……。
「あ、あの」
「ん?」
色っぽくかすれた彼の声。莉緒が腰を引こうとすると、恭吾は益々身体を押しつけてきた。お腹に当たる彼の身体の一部は硬く、猛々しく己の存在を主張していて――。
「恭吾さん……こんな状況なのに」
「こんな状況?」
莉緒がこくりと頷く。
「開かずの間に閉じ込められて、周りを呪いの仮面や何かの骨とかに囲まれてるんですよ? それなのに――」
必死に説明を試みる莉緒の頬に手が掛かり、彼の方へと向けられた。
「怪しげな密室に莉緒さんとふたりきりでいるなんて、私はむしろ興奮しますが」
静かに囁く彼の長い睫毛が、緩やかに瞬く。ふたたび開けられたまぶたの中で、はしばみ色の美しい瞳が揺らめいた。
「あなたは私だけを見ていればいいのです」
すべてを言い終わらないうちに、彼の唇が莉緒の唇に触れる。そして、ベルベッドみたいな感触がふわりと重なった。
そろりと忍び込んできた熱い舌が、莉緒の口内を丹念に味わうように開かせる。そこにあるあらゆるものの形を確かめるように、未踏の森の中を探索するかのように。
「ん……う、恭吾、さん――」
「しっ。何も言わないで」
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