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番外編 ただ君が愛しくて(星見視点)
ただ君が愛しくて④
しおりを挟む「なあ、兄貴。俺が持つよ」
「いいって。金も出してもらったし、俺の酒がほとんどなんだから俺に持たせろって」
「いや、いいから」
「お前もしつこいね。一体なんだって言うんだよ?」
押し問答が続いたが、兄は一向に譲ろうとしない。
ドラッグストアで、化粧品とチョコレートのあいだに挟んで、なんとかスキンをレジに持っていくまでは成功した。ところが、支払いが済んで袋詰めが終わった途端、兄に袋を奪い取られたのだ。
マンションに到着して、静かに玄関に入る。リビングに行き、兄がダイニングテーブルの上に袋の中身を出し始めた。
まるで生きた心地がしない。こんなことなら、それだけ購入済みを示すテープを貼ってもらって、ポケットに入れてくればよかった。
「はい。お楽しみのもの」
一瞬ドキリとしたが、目の前に置かれたのはさっき買ったチョコレートだ。
兄はその下にある紙袋に入ったものには、気づかなかったらしい。自分も缶チューハイを取り出して、ダイニングの椅子に座った。
「菜のかちゃん、かわいいよな。いくつだっけ?」
プシッ、というプルタブを倒す音とともに、兄が尋ねる。
俺はたいして食べたくもないチョコレートのパッケージを開けた。
「二十六だよ。俺の六つ下」
「へえ、歳より若く見える」
「そうかもな。でも、しっかりしてるんだ。料理はうまいし、掃除も完璧。人当たりもいいから、ご近所とも仲良くやっていけると思う」
「へえ……お前からのろけ話を聞くようになるとはね」
チョコが変なところに入って、軽くむせた。
「からかうなって」
「俺は嬉しいんだよ。お前は俺と違ってイケメンだし、成功者のくせに今まで結婚のけの字もなかったからさ」
「それは……この人なら、と思う相手がいなかっただけだ」
「へえ」
兄はニヤニヤして、缶チューハイをあおる。
――そうだ。今までの俺は本当の恋を知らなかった。
人は、結婚を考えるほど深い愛情を知った瞬間に、それまでの恋とはなんだったのだろう、と思うものだ。
ただ相手を思う感情だけではない。
何かを楽しいと思うこと。美しいと思うこと。おいしいと思うことだっていい。
すべての感情をこの人と共有できたら。この先の人生を一緒に歩んでいけたら、どんなに素晴らしいことかと考える。
実際、ここ数か月の俺の人生は、過去にないほど満ち足りたものになっていた。
仕事で疲れて帰っても、トラブルに打ちのめされた日でも、「おかえりなさい」と朗らかに迎えてくれる菜のかの笑顔に、心癒される毎日だ。
「――だな」
ふと気づくと、兄に話し掛けられていた。
「ん? ……ごめん、聞いてなかった」
俺がそう言うと兄は、仕方ないな、という風に含み笑いをする。
「今日のお前、なんかおかしいよな。まあ、いろいろ積もる話もある。今夜はお前もちょっとくらい飲めよ」
と、ドラッグストアの袋に手を突っ込んだ。が、すぐに何かに気づいて、袋の中を覗き込んだ。
「……あれ? なんだこれ」
兄が袋から取り出したものを見て、俺は息をのんだ。手にしているのは、ドラッグストアで買ったスキンが入った袋だ。
慌てて奪い取ると、兄はすべてを悟ったのか申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「あー……そういうことか。それは気づかなくて悪かったな。さて、と。俺も今日は寝るとするか。じゃ、おやすみ」
会はお開きだ、とばかりに、兄は手を振って洗面所に向かう。その姿が完全に消えてしまうと、俺は深いため息を吐いて頭を抱えた。
どうせバレるのなら、最初からそう言ってしまえばよかった。兄弟相手にかっこつけるものじゃない……。
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