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第2話 捕獲作戦
⑥
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いずみの瞳が、鷹山の両目のあいだで揺れている。彼女は何度か目をしばたいてから、ようやく口を開いた。
「嬉しいです。私も鷹山さんが好き。でも……」
「でも?」
「両親が……いい顔をしないんです。歳が、離れすぎてやしないかって」
言い切るのがやっと、といった具合だった。それはそうだろう。これほど言いづらいことは他にない。
鷹山は俯いてしまった彼女の頭を抱きよせ、その髪にそっと口づける。
「無理もありません。私があなたの父親だったとしても、同じことを言うでしょう。では、一度改めてご挨拶に伺います」
「お付き合いしている、と話すんですか?」
「そうです。更には、『結婚を前提に』と付け加えることをお許しいただきたい」
鷹山が言った途端、いずみは弾かれたように顔を上げた。
「結……婚?」
「はい。若いあなたには戸惑いも大きいでしょう。ただ、私は結婚によってあなたの活動が制限されてしまうことは望みません。留学などもお考えでしょうから、全力でサポートさせていただきます」
そう言って、鷹山はにっこり微笑む。
たちまち、直前まで困惑を呈していたいずみの顔に、笑顔の花が咲き綻んだ。色に表せばピンクだ。希望と高揚感に満ち溢れた、鮮やかで瑞々しい大輪の花。
「鷹山さん……!」
いずみが鷹山の胸に飛び込んでくる。この華奢な背中を守りたい――ブラウスに包まれた体温を感じながら、鷹山はいずみの匂いを思い切り胸に吸い込んだ。
そのとき、どこかで微かに、スマホのバイブが着信を知らせているのに気づいた。おそらく、いずみのバッグの中にスマホがあるのだろう。
「きっとご両親が心配しておられるのでしょう。今日はもうお帰り下さい。玄関までお送りしますから」
いずみは頷き、鷹山の腕から抜け出して電話に出た。相手はいずみの父親らしい。叱責を受けている風ではないが、彼女の声は硬い。いずみは電話が終わると洗面所を借りると言って、口紅を直して戻ってきた。
「どうぞ」
鷹山は片手でいずみの猫、サスケを抱いたまま、反対の手を差し出す。
いずみが遠慮がちに鷹山の手に指を絡めた。力を込めて握ると、彼女の頬がほんのりと染まる。もう一度その唇を奪いたいという衝動を、なんとかして堪えようと鷹山は必死になっていた。
玄関までたどりついて、鷹山はいずみにサスケを手渡した。そして彼女の細い肩に触れ、耳元に唇を寄せる。
「いいですね。あなたは何も心配いりません。すべて私にお任せ下さい」
「はい、鷹山さん」
うっとりとした目つきで見上げられ、鷹山の胸は少年のように高鳴った。
いずみが玄関のドアを開け、一歩を踏み出す。
本音を言えば、返したくなどなかった。どうせ隣なのだから、ここから学校に通えばいいのに、とさえ思う。絡めた指の最後の一本が離れる瞬間まで、鷹山はずっといずみを見ていた。
静まり返った玄関ホールには、佳恵さんが餌を催促する声だけが響く。それでもしばらくのあいだ、鷹山は立ち尽くしていたが。
やがて無言のまま両手で顔を覆い、その場に蹲った。
――なんてかわいらしいのだろう。今すぐにでも結婚したい。
深いため息とともに、鷹山は佳恵さんを抱いて立ち上がった。顔を上げると表情を一転させ、愛しい姿の消えたドアを睨みつける。
自分の気持ちは固まった。そうとなれば、早速いずみの両親という牙城を崩す準備をしなければ。
(第2話 捕獲作戦・終)
「嬉しいです。私も鷹山さんが好き。でも……」
「でも?」
「両親が……いい顔をしないんです。歳が、離れすぎてやしないかって」
言い切るのがやっと、といった具合だった。それはそうだろう。これほど言いづらいことは他にない。
鷹山は俯いてしまった彼女の頭を抱きよせ、その髪にそっと口づける。
「無理もありません。私があなたの父親だったとしても、同じことを言うでしょう。では、一度改めてご挨拶に伺います」
「お付き合いしている、と話すんですか?」
「そうです。更には、『結婚を前提に』と付け加えることをお許しいただきたい」
鷹山が言った途端、いずみは弾かれたように顔を上げた。
「結……婚?」
「はい。若いあなたには戸惑いも大きいでしょう。ただ、私は結婚によってあなたの活動が制限されてしまうことは望みません。留学などもお考えでしょうから、全力でサポートさせていただきます」
そう言って、鷹山はにっこり微笑む。
たちまち、直前まで困惑を呈していたいずみの顔に、笑顔の花が咲き綻んだ。色に表せばピンクだ。希望と高揚感に満ち溢れた、鮮やかで瑞々しい大輪の花。
「鷹山さん……!」
いずみが鷹山の胸に飛び込んでくる。この華奢な背中を守りたい――ブラウスに包まれた体温を感じながら、鷹山はいずみの匂いを思い切り胸に吸い込んだ。
そのとき、どこかで微かに、スマホのバイブが着信を知らせているのに気づいた。おそらく、いずみのバッグの中にスマホがあるのだろう。
「きっとご両親が心配しておられるのでしょう。今日はもうお帰り下さい。玄関までお送りしますから」
いずみは頷き、鷹山の腕から抜け出して電話に出た。相手はいずみの父親らしい。叱責を受けている風ではないが、彼女の声は硬い。いずみは電話が終わると洗面所を借りると言って、口紅を直して戻ってきた。
「どうぞ」
鷹山は片手でいずみの猫、サスケを抱いたまま、反対の手を差し出す。
いずみが遠慮がちに鷹山の手に指を絡めた。力を込めて握ると、彼女の頬がほんのりと染まる。もう一度その唇を奪いたいという衝動を、なんとかして堪えようと鷹山は必死になっていた。
玄関までたどりついて、鷹山はいずみにサスケを手渡した。そして彼女の細い肩に触れ、耳元に唇を寄せる。
「いいですね。あなたは何も心配いりません。すべて私にお任せ下さい」
「はい、鷹山さん」
うっとりとした目つきで見上げられ、鷹山の胸は少年のように高鳴った。
いずみが玄関のドアを開け、一歩を踏み出す。
本音を言えば、返したくなどなかった。どうせ隣なのだから、ここから学校に通えばいいのに、とさえ思う。絡めた指の最後の一本が離れる瞬間まで、鷹山はずっといずみを見ていた。
静まり返った玄関ホールには、佳恵さんが餌を催促する声だけが響く。それでもしばらくのあいだ、鷹山は立ち尽くしていたが。
やがて無言のまま両手で顔を覆い、その場に蹲った。
――なんてかわいらしいのだろう。今すぐにでも結婚したい。
深いため息とともに、鷹山は佳恵さんを抱いて立ち上がった。顔を上げると表情を一転させ、愛しい姿の消えたドアを睨みつける。
自分の気持ちは固まった。そうとなれば、早速いずみの両親という牙城を崩す準備をしなければ。
(第2話 捕獲作戦・終)
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