私が産まれる前に消えた父親が、隣国の皇帝陛下だなんて聞いてない

丙 あかり

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11. 信じられない

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 「皇帝陛下が私の父親・・・・・・?」

 ギルバートの言葉が信じられずに、アリスは呆然と呟いた。
 
 「ん?何も聞いてないのか?」

 「はい。今、初めて知りました」

 アリスが答えると、ギルバートが表情はそのままに沈黙する。

 「・・・・・・少々失礼。ーーエリック、ちょっと来い」

 一旦差し出した手を下ろした将軍は、アリスへ向けたにこやかな表情はそのままに低い声でエリックを呼びつけた。
 足取りの重いエリックが馬車の向こうに連れて行かれるのを、クロードが憐れみの眼差しで見送る。

 その隣では、アリスとシェリルがすっかり動揺していた。

 「私が皇帝陛下の娘・・・・・・。シェリル、貴女は知っていた?」
 
 「いいえ!私も何も知りませんでした。侯爵様はご存知だったのでしょうか・・・・・・」

 「たぶんね。教えてくれても良かったのに。そうしたら・・・・・・」

 (帝国と反対方向に逃げていたのに!)

 父親の正体をはっきりと明かさなかった祖父に対して沸々と怒りが湧いてくる。
 今までは、隣国の妻子ある貴族と母がそういう仲になったのだろうと思っていた。
 まさか、自分が皇帝の隠し子という身の上だったとは。俄には信じられない上に、とても面倒な事になったと思う。

 (行きたかったグランディエ帝国だし、お祖父様が初めて父親の話をするものだから・・・・・・。つい、会っておこうだなんて思わなければ良かった)

 アリスがうっかり興味を抱く程、祖父がアリスの父親の話をする事は皆無だったのだ。
 己の判断を後悔していると、ギルバートとエリックが戻って来た。心なしかエリックはやつれたように見える。

 「女性をこんなむさ苦しい所にお待たせして申し訳ない」

 「いいえ。お気になさらず」

 「ーーさて、と。何もご存知無かったとは知らずに失礼を。さぞ驚いただろうな」

 「ええ、とても」

 「詳しい話は俺から話そう。どうぞ、こちらへ」

 そう言いながら馬車に乗るよう促すが、アリスは素直に従う事ができない。

 「その馬車の行き先は皇宮ですか?」

 そう尋ねる声音から警戒心を読み取ったギルバートは、苦笑を浮かべながら言った。

 「突然父親の事を明かされて、すぐに会いに行こうとなれば、確かに不安になるな。俺もこんな形で連れて行くのは気が引けるが・・・・・・これは、あんたを守る為でもある」

 「私を守る?」

 「あんたはこの国は初めてだ。今はこうして兵が守っているが、そちらの侍女と女二人で慣れない旅をするのは簡単じゃない。たとえ、あんたに魔法の才があったとしても、だ」

 確かにギルバートの言う通りだ。
 レノワール王国から出る時は、祖父の根回しと、おそらくはエリックの助けもあって無事に出国する事ができた。
 しかし、なんの後ろ盾もない状態で旅をするのは、危険と隣り合わせだ。アリスは魔法が使えるが、シェリルは魔力を持たない一般人。いざと言う時、実戦経験の少ない自分は彼女を守りながら逃げ切れるのか。

 「それに、あんたの正体を知った、陛下に仇為す者に捕えられたら?あんたに価値を見出した輩は、帝国に不当な取引を持ち掛けるだろうな。場合によっては陛下の御命も危険に晒されるかもしれない」

 「・・・・・・」

 帝国の将軍は厳しい表情で言った。

 「そうなったら、俺達は迷わず、あんた達を見捨てる」

 アリスの存在は帝国でもまだ公表されていないのだろう。
 帝国側は、『そんな娘は知らない』と切り捨てる事ができるのだ。
 交渉が決裂すれば、人質としての価値を失ったアリスの末路は容易に想像できる。もちろん、シェリルも同じ運命だ。
 自分一人なら良いが、幼い頃から共に過ごしたシェリルが巻き込まれるのは、アリスには耐えられない。

 「さあ、どうします?あんたが望むなら、俺達はあんた達を置いて皇都に戻るが?」

 ギルバートがにやりと笑う。
 アリスがそう望まないとわかっていて、わざとそう聞いているのだ。

 「・・・・・・わかりました」

 そう答えて、ギルバートが差し出した手をとる。

 「わかってくれたみたいで嬉しいよ。それに、あんたは、あいつと一度話した方が良い」

 ギルバートがそう言いながら、ホッとした表情を浮かべた。
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