12 / 42
12. 皇宮への道中①
しおりを挟む
迎えの馬車は六人程度が余裕で乗れる広さだった。
馬車にはアリスとシェリル、ギルバートとエリックが乗り、クロードは他の兵達と共に馬で随行する。
「ーーなあ、機嫌を直してくれよ」
向かいに座るギルバートが困ったように笑う。
馬車に乗ってから、アリスが子供のようにシェリルにしがみついて離れないのだ。
しかも、一丁前に威嚇する子猫のようにギルバートを睨みつけている。
元皇族の将軍に対して無礼だという自覚はあったが、先ほどのギルバートの発言で、シェリルの命が自分の行動にかかっている事をアリスは思い知った。その結果、彼女の中で
(シェリルは私が守らないと・・・・・・!)
という使命感が生まれた。
「さっきは脅しまがいな事を言ったが、ちゃんと来てくれれば、あんた達の事は守るから」
そう言われても、すぐに信じる事はできない。
しかし、シェリルが困ったような顔をして、
「ありがとうございます、お嬢様。私は大丈夫ですから」
と言うので渋々離れた。
そんなやり取りの後、ギルバートがアリスに話し掛ける。
「さて、アリスちゃん。窓の外を見てみな」
「えっ?は、はい」
突然の馴れ馴れしい呼び方に驚いたものの、言われた通りに窓から外を見る。
「ーーもうこんなに移動していたんですか?」
外の景色を見たアリスはまたもや驚く。
グランディエ帝国の国境の街は、重厚な石造りの建物が建ち並んでいたが、窓の外には建物の姿はなく、のどかな花畑が広がっていたのだ。
馬車が動いた気配はしなかったのに、いつの間にか街を抜けていたらしい。
「高貴な方向けの馬車ですからね。『魔石』を馬車に埋め込んで、揺れないよう魔法で制御してあるんです」
エリックが説明をした。
『魔石』は魔力が高い土地で生成される、魔力を帯びた石の事。魔法道具の核に使われたり、魔法の使用による疲労を癒す作用がある。
アリスが育ったレノワール王国では採掘量が少ないので、他国からの輸入に頼っていた。それでも天然の魔石は高価なので、質の劣る人工の魔石も流通している。
(レノワール王国では貴重なあの石を馬車に・・・・・・それだけ資源が潤沢って事よね)
と、国力の差を思い知る。
「凄いですね・・・・・・」
シェリルも感心しながら呟いた。
「グランディエ帝国は精霊の加護がある国なので。こちらでは『精霊石』とも呼ばれています」
「石の話はそのくらいにしておけ。俺が見せたかったのは外だ。何か見えないか?」
ギルバートが再び外を見るよう促す。外に見せたい物があるらしい。
「綺麗な花畑が見えますが・・・・・・あっ」
よく見ようと外を凝視したアリスが声を上げた。
色とりどりに咲く花の間や、少し上のあたりをフワフワと何かが飛んでいる。初めは蝶かと思ったが、蝶よりも少し大きな何かも一緒に飛んでいた。
「あっ、あれは精霊ですか!?」
初めてみる精霊に声が上擦り、頬がほんのり赤くなるほど興奮してしまうアリスを見て、ギルバートが頷く。
「ああ。街中よりも自然の中の方が姿が見えやすいからな。あんたも見てみろよ」
ギルバートに言われて反対の窓から外を見たシェリルも、すぐに感嘆の声を漏らしてはしゃぎ始める。
「お嬢様!精霊ですよ!私、初めて見ました!」
「私もよ、シェリル!」
精霊の加護を受けるグランディエ帝国以外では、精霊の姿を見る事は滅多にない。絵本に描かれた精霊しか知らなかったアリスとシェリルは、初めて精霊を目の当たりにし、小さな子供のように喜んだ。
そんな二人を微笑ましく眺めていたギルバートだが暫くしても二人の興奮が静まりそうにないので、咳払いをする。
「ーーさて、思っていた以上に喜んでもらえて何よりだ。そろそろ良いか?」
馬車にはアリスとシェリル、ギルバートとエリックが乗り、クロードは他の兵達と共に馬で随行する。
「ーーなあ、機嫌を直してくれよ」
向かいに座るギルバートが困ったように笑う。
馬車に乗ってから、アリスが子供のようにシェリルにしがみついて離れないのだ。
しかも、一丁前に威嚇する子猫のようにギルバートを睨みつけている。
元皇族の将軍に対して無礼だという自覚はあったが、先ほどのギルバートの発言で、シェリルの命が自分の行動にかかっている事をアリスは思い知った。その結果、彼女の中で
(シェリルは私が守らないと・・・・・・!)
という使命感が生まれた。
「さっきは脅しまがいな事を言ったが、ちゃんと来てくれれば、あんた達の事は守るから」
そう言われても、すぐに信じる事はできない。
しかし、シェリルが困ったような顔をして、
「ありがとうございます、お嬢様。私は大丈夫ですから」
と言うので渋々離れた。
そんなやり取りの後、ギルバートがアリスに話し掛ける。
「さて、アリスちゃん。窓の外を見てみな」
「えっ?は、はい」
突然の馴れ馴れしい呼び方に驚いたものの、言われた通りに窓から外を見る。
「ーーもうこんなに移動していたんですか?」
外の景色を見たアリスはまたもや驚く。
グランディエ帝国の国境の街は、重厚な石造りの建物が建ち並んでいたが、窓の外には建物の姿はなく、のどかな花畑が広がっていたのだ。
馬車が動いた気配はしなかったのに、いつの間にか街を抜けていたらしい。
「高貴な方向けの馬車ですからね。『魔石』を馬車に埋め込んで、揺れないよう魔法で制御してあるんです」
エリックが説明をした。
『魔石』は魔力が高い土地で生成される、魔力を帯びた石の事。魔法道具の核に使われたり、魔法の使用による疲労を癒す作用がある。
アリスが育ったレノワール王国では採掘量が少ないので、他国からの輸入に頼っていた。それでも天然の魔石は高価なので、質の劣る人工の魔石も流通している。
(レノワール王国では貴重なあの石を馬車に・・・・・・それだけ資源が潤沢って事よね)
と、国力の差を思い知る。
「凄いですね・・・・・・」
シェリルも感心しながら呟いた。
「グランディエ帝国は精霊の加護がある国なので。こちらでは『精霊石』とも呼ばれています」
「石の話はそのくらいにしておけ。俺が見せたかったのは外だ。何か見えないか?」
ギルバートが再び外を見るよう促す。外に見せたい物があるらしい。
「綺麗な花畑が見えますが・・・・・・あっ」
よく見ようと外を凝視したアリスが声を上げた。
色とりどりに咲く花の間や、少し上のあたりをフワフワと何かが飛んでいる。初めは蝶かと思ったが、蝶よりも少し大きな何かも一緒に飛んでいた。
「あっ、あれは精霊ですか!?」
初めてみる精霊に声が上擦り、頬がほんのり赤くなるほど興奮してしまうアリスを見て、ギルバートが頷く。
「ああ。街中よりも自然の中の方が姿が見えやすいからな。あんたも見てみろよ」
ギルバートに言われて反対の窓から外を見たシェリルも、すぐに感嘆の声を漏らしてはしゃぎ始める。
「お嬢様!精霊ですよ!私、初めて見ました!」
「私もよ、シェリル!」
精霊の加護を受けるグランディエ帝国以外では、精霊の姿を見る事は滅多にない。絵本に描かれた精霊しか知らなかったアリスとシェリルは、初めて精霊を目の当たりにし、小さな子供のように喜んだ。
そんな二人を微笑ましく眺めていたギルバートだが暫くしても二人の興奮が静まりそうにないので、咳払いをする。
「ーーさて、思っていた以上に喜んでもらえて何よりだ。そろそろ良いか?」
1,886
あなたにおすすめの小説
世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。
妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる