神なき世界で悪魔にモテたので、ついでに人類救済します。

ナナツメ蜜柑

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ep.3 悪魔付きジルは、だいたい想像の三割増しでひどい

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(アリシア視点)

 ――最初に思ったのは。

(……この人、本当に大丈夫なの?)

 シェルター都市《カレイド》の中央通り。
 私は少し距離を取りながら、“悪魔付き”の青年――ジルを観察していた。

 悪魔を連れているという一点だけでも危険人物なのに、
 本人は驚くほど飄々としている。

「いやー、さすがシェルター都市。人多いな」
「ねー。人間いっぱい。ごはんいっぱい」
「その言い方やめろって言ってるだろ!」

 ……もうこの時点で不安しかない。

 隣を歩く悪魔の少女――ルナは、
 腕に絡み、羽を揺らし、笑顔で人間を威嚇している。

 街の人々の反応?
 言うまでもない。

「……見た?」
「悪魔よね……」
「防衛隊は何してるの?」

 ひそひそ声。
 怯え。
 嫌悪。

 それを――

「人気者だな、俺たち」
「ねっ」
「ポジティブすぎる……」

 ジルは、あまりにも自然に受け流していた。

(この人、慣れすぎている)

 悪魔と一緒にいることに。
 拒絶されることに。
 ――そして、危険と隣り合わせであることに。

「さて、今日は宿探しだな」
「ベッドあるところがいいなぁ。主と一緒の」
「却下」

 私は反射的に足を止めた。

(……宿?)

 嫌な予感しかしない。

 予感は、的中した。
---------------------------------------------------------------

「申し訳ありませんが……その……悪魔の方は……」

「だめかー」
「だめだねー」

 一軒目、即アウト。

「他を当たってください」
「はいはい」

 二軒目も、三軒目も、結果は同じ。

 門前払い。
 露骨な拒否。
 時には、悲鳴。

「悪魔を連れてるなんて聞いてない!」
「すみません、すみません」

 謝っているのは、ジルだけだった。

 ルナはというと――

「ねえ主、あの人震えてるよ?」
「だから煽るなって!」

(この悪魔……反省する気が一切ない)

 それでもジルは、怒らない。
 諦めた様子もない。

 ただ、少し困ったように笑って、次の宿へ向かうだけ。

(……どうして)

 どうして、この人は、
 こんな扱いを受けても平然としていられるのか。

 気づけば、私はずっと二人を目で追っていた。

 そして――

「……はぁ」

 四軒目を断られたところで、
 私はついに、深いため息をついた。

「見てられない……」

 口から、勝手に言葉がこぼれた。

 ジルが振り返る。

「あれ、アリシア?」
「あなたたち……本気で今日、野宿する気ですか」
「まあ、最悪は」

「だめです」

 即答だった。

「この都市で、悪魔付きが野宿なんてしたら、
 夜までに騒ぎになります」
「それは……まあ、そうか」

 私は少し迷ってから、続けた。

「……防衛隊の寮に、空き部屋があります」
「え」
「一時的に、ですからね!」

 念を押すと、
 ルナが目を輝かせた。

「えっ、人間のおうち!?」
「正確には寮です」
「ベッドある?」
「あります」
「やったぁ!」

 ……なぜ悪魔のテンションが一番高いのか。

 ジルは一瞬きょとんとしたあと、
 照れたように頭を掻いた。

「助かるよ、アリシア」
「勘違いしないでください」

 私は、冷たく言った。

「あなたを信用したわけではありません。
 ただ――」

 ちらりと、ルナを見る。

「都市の秩序のためです」
「そっか」

 ジルは、それ以上何も言わなかった。

 その背中を見ながら、私は思う。

(……この人)

 悪魔を連れているのに、
 悪魔みたいに笑うのに、
 どうして、こんなにも――

(人間らしいのよ)

 こうして私は、
 絶対に関わるべきではない二人を、
 自分の寮へ連れていくことになった。

 後悔する未来が、
 もう、はっきり見えているというのに。
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