オサキ怪異相談所

てくす

文字の大きさ
34 / 54
外伝

叢雲

しおりを挟む
八剱:『この夢が 未来なら
   この光景が 来るべき未来なら
   お前は どうする?
   ……なぁ、八剱やつるぎ そう

八剱は、見ている。何かを。
それは、未来に起こる厄災か、否か。
もう、自分では……どうすることもできないのだ。

日和:ごめんなさい、八剱さん
   私……

八剱:大丈夫だ

ある一枚の紙を見る八剱

八剱:怪異相談所……
   行くしか、ないか


オサキ怪異相談所 外伝:叢雲


オサキのところに一本の電話がかかる。
その相手に苛立ちを覚えている尾先。

尾先:だから、それについては話しただろう!
   金額面もそうだが、説明も不十分だ
   俺は便利屋じゃない、自分の命は惜しい
   ……だから!情報がないって言ってるだろ!

茜:……尾先さん、怒ってますね
  一体、何の依頼なんですかね?

骸:茜ちゃん、この話知ってる?

茜:全然、気にしてないんですね骸さん…

骸:ある男女の恋愛話なんだけど

茜:え!?骸さんそんなの見るんですか?

骸:ある一人の男がものすごーーく、一途で
  何十年と片思いをしたんだけどさ
  結局、報われずに好きな人を殺すんだ

茜:…期待した私が馬鹿でした

骸:殺された女は地縛霊になるんだけど
  最後に仕返しをするんだ
  茜ちゃんならどうする?

茜:私ですか?うーん…殺されて、ですよね
  …それでも私は何も出来ない気がします

骸:あはは、いい子だね
  恨んだりしないの?

茜:幽霊だから、取り憑いたりしても
  そのあとどうするか、あんまり思い付かないです

骸:なるほど
  たしかに幽霊になったこともないし
  何ができるか解らないね

茜:それに、私は苦しんでるのを見るのとか、グロい系とか苦手で

骸:うんうん、なるほどね

尾先:愛憎ってのは、実際その身に起こらないと、湧かない感情かもしれないな

茜:あ、尾先さん
  大丈夫でしたか?

尾先:あぁ、なんとかな

骸:生きている間の自分と
  死んだあとの自分の違い、か

尾先:なんだそれは?

骸:いや、この話もそうだけど
  生きている間に苦手なことも
  未練や恨みを残して死んだ場合は
  それも引き継がれるのか……ちょっとね

茜:それを考えてたんですか?
  引き継がれないなら…やっぱり
  恨みを晴らそうとするんですかね

尾先:さぁな
   まぁ、霊はそっちの欲望に忠実な気もするが
   というより解り易いんだよなぁ

骸:恨みを晴らすのに執着する奴は多いね

尾先:その話の結末は何なんだ?

骸:あぁ、男は女に会いたくて死を望むんだ
  女は、男の死刑執行間近に姿を見せて
  まだ現世に居ることを暗示させ、男に未練が残るようにするんだ
  恨みが晴れた女は成仏
  男は……どうなるだろうね?
  ハハッ、今でも彼女を探す為に這いずり回ってるかもね

茜:女の人は成仏して、男の人は現世に縛られる…?
  ってことは、もう会えない…?

尾先:はは、それは良い仕返しだな
   縛られて動けないだろうから
   茜の考察で正解だ

茜:直接手を出すわけじゃなくて
  そういった仕返しもあるんですね

骸:まぁ、よくある話だよ
  それに……手を出してはいるんだけどね
  ま、そんな霊を除霊するのもオサキの仕事だね

尾先:悪霊になりやすいからな

茜:へぇ…そういうものなんですね
  ロマンスホラーサスペンス…?

尾先:…嫌なジャンルだな
   ロマンスではないだろうが

茜:あるんですかね…あはは…

骸:混ぜるな危険、ってね
  ん?

尾先:客か?

茜:あ、私行ってきます

尾先:あぁ

骸:……同業、かな

尾先:…よく解らんな


【間】


茜:では、こちらに

八剱:あぁ、すまない
   ありがとう

日和:ありがとうございます

茜:少し、お待ちください

尾先:いや、大丈夫だ

八剱:あっ、君が…その、怪異相談所の

尾先:それはコイツが勝手に付けた名前だ
   別に相談所をしている訳ではない

八剱:では、此処はそういった場所ではない、と?

骸:いや、そういった場所でいいよ

尾先:骸、お前な

骸:やぁ、まずは自己紹介から始めようか


八剱:俺は八剱
   個人で探偵をしている
   それで、こっちは助手の

日和:綾瀬 日和です
   普段は大学に通っています
   アルバイトで八剱さんにお世話になってて

尾先:探偵…なるほどな
   よかったな茜、歳の近い依頼者だ

日和:え、そうなんですか?

茜:あ、えっと、私も大学生で
  ここにはアルバイトで
  名前は山本 茜です

日和:似てますね

尾先:それで、俺がオサキだ
   長い木と書いてオサキ……
   いや……尾の先と書いて尾先だ

八剱:いい、のか?偽名じゃなくて

尾先:あぁ、大丈夫だ

骸:僕は骸
  これはあだ名であり、ハンドルネームであり
  二つ名だったり、通り名だったり、異名と
  まぁそんなもんだよ

日和:凄い、ですね

骸:あはは、ありがとう
  僕は此処の人間じゃない
  別で怪異屋ってものをやっているよ
  あと、蒐集家でね
  色んなものを蒐めているんだ
  オサキとは親友って感じかな?

尾先:いつそうなったんだ?

骸:都合の良い時だけだねぇ、オサキは

八剱:怪異相談所に怪異屋……
   とりあえず、依頼をしたい
   …無理そうなら断ってくれてもいいが
   正直、困ってはいる

尾先:あぁ、聞くだけはタダだ
   …茜、上でその子と話をしろ

茜:え?別々に聞くんですか?

骸:歳も近いし、僕たちと話すよりね

日和:あの、八剱さん…

八剱:あぁ、構わない

日和:わかりました、お願いします

茜:じゃあ、案内します

骸:茜ちゃん

茜:はい?

耳打ちをする骸

骸:あとで情報共有するから
  ある程度、聞けることは聞いてね

茜:は、はい!

骸:じゃあ、よろしく

尾先:面倒見がいいことで

骸:キミが怠るからだよ

八剱:……見えて、いるのか?

尾先:いや、だが粗方そうだろうなという、勘だ

八剱:…君たちなら任せられそうだ


【間】

茜と日和、別室にて

茜:え、じゃあ同い年だ

日和:あはは、じゃあ敬語は無しにしよう
   境遇も似てそうだから

茜:わかった
  あの…八剱、さんって人とは
  どうやって知り合ったの?
  探偵ってアルバイト中々聞かないけど

日和:それは私も聞きたい
   怪異相談所ってのも聞かないよ
   っていうか、初めて聞いたし

茜:あはは…、じゃあ、私から
  私は……友達に、ね…呪いをかけられたの

日和:呪い?

茜:あっ、ロマンスホラーサスペンス…

日和:え?何それ?

茜:ううん!さっき日和ちゃんたちが来る前に
  少し話してて……愛憎、っていうのかな?
  私が呪いをかけられたのもそんな感じで
  好きな人に色目使ってたーとか言われて
  全然、そんなことなかったんだけど

日和:分かるよ
   私も八剱さんと出会って
   恋愛でおかしくなっちゃった人、見たことある
   人を狂わせる感情って言ってたから

茜:それでね、それを助けてくれたのが尾先さん
  それから、色々あって手伝ってるの

日和:……怪異相談所っていうのは?

茜:…その名前の通りなんだけど
  怪異に纏わることを専門にしてる
  そうじゃないこともあるんだけど
  本業、って言ったらいいのかな

日和:じゃあ、見えるんだ

茜:私はまだまだなんだけどね

日和:……じゃあ、私の番
   私は、八剱さんに助けられたの
   あはは、私たち本当に似てる
   私の場合は呪いじゃなかったんだけど
   幽霊絡みで事件に巻き込まれて
   私は霊感っていうのはないんだけど

茜:じゃあ、八剱さんは霊感が?

日和:うん、だけどあの人は少し特別

茜:特別?


【間】


八剱:俺は探偵をやっているが
   これは、紛れもなく本業だ

骸:の割には、少し違いそうだけど?

八剱:骸、と言ったかな
   その目は誤魔化せそうにないな

尾先:骸の目について、何か知っているのか?

八剱:いや、そういう訳じゃない
   ただ、俺の目がそう教えてくれる

尾先:……
   っ!?その目は…

骸:……反応した?

八剱:まずは俺の生い立ちについて話した方がいいか
   俺は生まれて間もなくして
   妖怪、と呼ばれる存在に目を刺された

尾先:刺された?

八剱:あぁ、そいつを調べる為にも探偵という
   特殊なものをやっているとこもあるんだが
   そのせいで、本業は探偵だが、裏では怪異探偵なんて呼んでいる奴もいる

骸:へぇ、初めて聞いた
  あまり動いてはないね?

八剱:あぁ、この目が反応した時だけ
   俺は怪異に関わっている
   普段は霊感なんてものもない
   ただ、この目が教えてくれる
   そして、お前たちにも……

尾先:反応しているって訳か

骸:ねぇ、それって何に刺されたの?

八剱:刺した本人は解らない
   ただ、俺の目を貫いたのは、霊剣と呼ばれるものだ

尾先:霊剣……天叢雲剣あまのむらくものつるぎ…?

骸:流石だね、だから八剱か

八剱:……そこまで、解るのか

骸:八剱、と言えばそうなる
  安易と言えばそうだけど
  知らなきゃ解らない
  名前自体にも力はあるし、餌とも考えられる

尾先:八剱なんて解り易い名前をぶら下げていれば、いつかは本命に辿り着ける
   まぁ、やり方は間違ってないか

八剱:そのことはいい
   今回の依頼についてだ

骸:あの子、のことだよね

尾先:あぁ、茜が聞き出しているものもあるが
   とりあえず、話してくれ


【間】


茜:女の子の幽霊?

日和:多分、なんだけど
   八剱さんとある事件の調査をしていて
   そこで、憑かれたというか

茜:それって心霊絡みの依頼だったの?

日和:ううん、そうじゃなかったの
   普通の事件の調査だったんだけど
   そこが偶々、霊道?っていうのかな
   それが通ってて
   怪異の依頼だったり、近くにいれば、八剱さんの目が反応するんだけど

茜:その、特別な目ってやつ?

日和:そう
   ただ、その時は反応がなくて
   全く解らない状況で取り憑かれたの

茜:その割には、うーん…

日和:そんな感じがしない?

茜:うん、普通に話してるし
  幽霊の気配も全然解らない

日和:多分、それがね……
   私の特性だと思う

茜:特性…?


【間】


骸:……

尾先:どう思う?

骸:特別な存在、と言えば簡単だけど
  ここまでは聞いたことはないね

八剱:大丈夫そうか?

尾先:とりあえずはやってみるが
   取り憑いたモノが解らんからな

骸:一度見れればいいんだけど

尾先:最後に聞きたい
   なぜ、俺たちの所へ来た?

八剱:……この目は、怪異を見ることができる
   しかし、自分の意思じゃなく、だ
   それと同じで、もう一つ
   夢を見るんだ

尾先:夢?

八剱:俺が俺に問いかけて来るんだ、夢の中で
   それが暗示だったり、未来視に近い現象もある

骸:正夢になると?

八剱:あぁ、未来に起こることを夢に見て
   俺に問いかけるんだ
   『この夢が 未来なら
   この光景が 来るべき未来なら
   お前は どうする?
   ……なぁ、八剱やつるぎ そう』と

尾先:その夢の中のお前は、霊剣を持った奴か?

八剱:……解らない

骸:未来予知くらいなら
  霊剣のカケラが入った目なら見てもおかしくない
  その夢で僕たちを見たのかい?

八剱:あぁ、それと別の状況もな

尾先:それを俺たちは覆せると?

八剱:確定した未来なんてないからな
   俺はそれに賭けている

骸:解った
  これは受けるべきだね、オサキ

尾先:あぁ、そのつもりだ

八剱:……来たか

茜:あ、すみません
  まだでした?

尾先:いや、大丈夫だ
   とりあえず準備をする
   そこで待っていてくれ

日和:あの、よろしくお願いします

尾先:あぁ


【間】

準備をしつつ、話の擦り合わせを行う三人

骸:なるほど
  まぁ、二人の話は一致しているし
  特に変わったこともなさそうだね

茜:あれってどういうことなんですか?

尾先:日和、といったか
   霊感はないと話したんだな?

茜:はい、今まで見たことも気配を感じたこともないそうです

尾先:そうか
   あれは簡単に言えば、蓋がしっかりしているんだ

茜:蓋、ですか?

骸:茜ちゃんもくねくねを見たり、呪いを受けたり、コトリバコだったり
  自分の中に別のモノが入る感覚は少しは解るよね?

茜:はい、あれが取り憑かれた感覚と似てることは
  尾先さんに聞きました

尾先:取り憑かれる場合、自分の中に別のモノが入る
   それは色々と状況、状態にもよるが
   蓋が開いている状態なんだ

茜:なんとなく、分かります

尾先:それで、取り憑いた後は蓋が閉じて
   中に入った状態になる

骸:だけど、ほとんどの場合
  蓋の隙間から霊力みたいなものが漏れてて
  僕たちはそれを感じて、取り憑かれていると認識できるんだ

茜:それは、私も何となく解るようになってきました
  だけど、日和ちゃんには全くそれが見えませんでした

尾先:あぁ、あれは蓋が密閉されている状態に近い
   だから、霊力も漏れないし、取り憑いた霊が表に出れないんだ

骸:そんな蓋を持ってる人間は少ない、というより
  希少と言う方がいいレベルで現れないんだ
  だけど、怪異は

茜:何が起こるか解らない…

骸:そう、密閉されている状態でも
  外に出る方法があるのかもしれない
  何が鍵になるかも解らない
  それと、八剱が見た光景も気になるね

尾先:あぁ、俺たちを指名して依頼したんだ
  夢の話は詳しく話さなかったということは
  まぁ……良い夢ではなかったんだろうな

骸:驕ってるわけじゃないけど
  僕がいるのに…ねぇ?

茜:気を引き締めた方がよさそうですね…

尾先:……あぁ


【間】



日和:八剱さん…

八剱:大丈夫だ
   確定した未来なんてない
   お前は助かる、それに…

日和:私の力、ってことですか?

八剱:あぁ、使い方を知るいい機会になるかもしれない
   まだ、大丈夫そうか?

日和:はい…中に居る感覚はあるんですけど
   外に出て行く感覚は無いです

八剱:俺の目も反応はしていない
   ……何が起ころうと、絶対に助ける
   だから、安心しろ

日和:……はい

骸:……

茜:骸さん?

骸:いや、何でもない

尾先:準備ができた
   現場に向かおう

八剱:あぁ、案内する



【間】



ある場所へ向かう5人

八剱:此処だ

尾先:確かに霊道が通っているな
   この辺りに何かあったか

骸:見た感じ、悪いものではないけど
  偶々かな

茜:……

日和:みなさん、凄いですね
   見ただけで解るなんて

茜:ここ、と…ここ
  あと、2階にも何かある…?

尾先:よく視えているな
   2階のは下の霊道に当てられて
   溜まり場になっているものだろうな

骸:此処は入って良い場所なのかい?

八剱:いや、家の中はダメだ
   一応持ち主は健在だからな

骸:それじゃあ、移動かな
  辿ってみるしかないね

尾先:……いや、多分これだろう

茜:神社?そんなものありました?

尾先:廃神社だな
   行ってみるか

更に移動する

八剱:これは……酷いな

骸:まぁ、こんなモノだよ
  鳥居は避けようか

日和:以前来た時には気づきませんでした
   八剱さんは知ってたんですか?

八剱:いや、俺も周囲は気にしてなかった
   霊道の件も日和が憑かれてから解ったから

尾先:本当に万能なモンじゃねぇな、ソレ

八剱:俺の意思で、どうこうできるモノでもないし
   こういう状況の時、お前たちが羨ましくなる

骸:あはは、良いモノでもないけどね

茜:持つ人次第なところありますからね…

日和:色々見てきたっぽい言い方だね

茜:うん…色々あったからね

尾先:よし、此処でいいだろう
   ……ふだが無いな

骸:剥がされ訳でもなさそうだけど
  元々貼ってなかったのかな……
  あ、手抜きだね、これ

八剱:手抜き?

骸:元々は貼ってたみたいだけど
  管理する人がいなくなったのか
  今では何もされてないみたいだね

茜:それは…幽霊も溜まりそうな気がします

尾先:実際、溜まって行き場が無くて
   あの家に霊道が通ったということだ
   お前に取り憑いた霊は此処で行き場を無くした奴だな

日和:悪い霊、なんですか?

尾先:いや、それは解らんが……
   おい、骸、あれ

骸:……行こうか

茜:な、何ですか、あの場所…

八剱:……

日和:異様な雰囲気だね…

茜:日和ちゃんも解る?

日和:いや、見えたりじゃないんだけど
   雰囲気が凄くて…

骸:僕の勘が正しければ、アレが本命かな

八剱:勘、だと?

尾先:行けば解るだろう

日和:……行きましょう

八剱:…あぁ

廃神社を見回ると、そこには地下へ続く穴があった
異様な雰囲気を纏い、それはあった
それを見つけた一行は、地下へ続く道を進む

茜:これ……は?

尾先:お前も以前関わったな

茜:関わった?

骸:ここは水子堂だね
  ……もうあまり居ないみたいだけど

八剱:水子堂…だと?

日和:水子堂ってなんですか?

八剱:水子…所謂、死産や何らかの理由で亡くなった
   子供たちの供養をする所だ

尾先:水子専門の寺や、それを祀る施設なんかは色々ある
   観音像の中にそういう場を設けたり
   此処のように地下に作ったり

茜:何か意味があるんですか?

尾先:色々、あるんだろうが
   前にも話したが、水子霊は無邪気だ
   無邪気ゆえの祀り方もあったり
   あとは、遺族の意向なんかもあるな

骸:風鈴に地蔵、中央の祭壇みたいなものは、大元おおもとだね
  風鈴は音によって鎮魂する道具かな
  地蔵に関しては入れ物だね

茜:入れ物?ですか?

骸:うん、魂の、ね

日和:魂の入れ物……

八剱:やはり……

尾先:……

日和:八剱さん…?

骸:その様子、その子には話してないね
  さて、どうする?答え合わせでもするかい?
  時間はそれほど無いけど

茜:……何か…来る?

尾先:解るか?

茜:はい…これは…

尾先:クダ、行け

骸:クダが時間を稼いでくれるとは言え、急ごうか
  僕たちに依頼をしたキミが
  本当の依頼者である綾瀬日和に何も話してないのは
  少々、軽率だ

尾先:俺らが何も解らないまま依頼を受けると思うか?
   お前は特別な目を持っているとはいえ
   俺や骸と同列とは言い難い
   まだ、甘いな

八剱:何が、解る

尾先:全部、とは言わない
   関わってきた場数も違うからな
   綾瀬日和は確かに希少な存在でもある
   言いたくはないが、ムカつく奴の言葉を借りるなら
   性能調査でもやってるんだろ

八剱:そこまで解ってなぜ、依頼を受けた

骸:僕が居る

尾先:それと、お前は完璧じゃねぇ

八剱:完璧じゃ、ない?

尾先:お前のその目は、不完全だ
   お前の見る予知夢も未来視も
   不完全で信用に足りん
   覆すことは出来ない領域に達して無い

骸:もっと言えば、その目はそういうモノ
  危険察知、とでも言えばいいかな?
  未来視や予知夢じゃなくて
  こういうことが起こるから気を付けてね
  程度のお知らせかもしれないね?

八剱:…なん、だと

骸:その目で見た不幸は変えられただろう?
  今までも、これからも

日和:ど、どういうことですか?
   一体、何の話をしてるんですか?

茜:日和ちゃん、ちょっと落ち着いて!

日和:ご、ごめん

尾先:感情的になるな
   何が理由で蓋が開くか解らん

骸:綾瀬日和
  キミの中に在るモノは水子霊だ
  無邪気な彼等は悪さで取り憑いたりしない
  無邪気であって好奇心もある
  キミが何か魅力的に見えたんだ
  だけど、入ってしまったら閉じ込められた

日和:子供の幽霊…?
   でも、私!

骸:誰かを傷つけた、かい?

日和:ど、どうしてそれを…

骸:それは中の子の仕業じゃない
  その子の親、だよ

日和:親……?

骸:無理心中かな?
  その子が死んで親も死んだね
  だから、繋がっているんだ
  その子が急に居なくなった
  親は、どう思う?

日和:えっ、それ、は…

尾先:確かにお前は悪くない
   だが、霊と言うのは良くも悪くも、感情が簡単に出来てやがる
   嫌なことがあれば怒る
   生きていれば冷静になれることも
   霊では感情がもろに出る
   霊道になっていたこともあって
   真っ先にあの家が原因と思ったんだろう
   しかし、どうだ?
   霊道を辿ってみたものの、子はいない

八剱:あの場にいた俺たちの中に
   取り憑かれた形跡を見つけられなかった
   それで、また怒りが…

茜:もしかして
  繋がってるから、何か起こせば、見つけられると思ったんですか?
  たがら、日和ちゃんに

尾先:正解だ
   そうして当たりを付けた
   しかし、この特殊体質だ
   手が出せなかった

骸:近くには霊剣の気配もある
  言っとくけど、その目
  幽霊からしたら嫌なモノだよ

八剱:だから下手に近づかなかった
   だが、どうにかしたくて
   何度か日和に繋がって苦しめていた…?

尾先:見方が違うな
   苦しめたんじゃない
   子供を助けようとしたんだ

八剱:なっ……

日和:…親からしてみたら
   私が閉じ込めていると思われても…おかしくない
   あ、あの!私、どうすれば!?

骸:此処なら、その蓋を開けられる
  なんせ、その子の家だからね
  さて、取り憑いた霊の答え合わせは、これで一件落着
  次はキミの番だよ、八剱蒼やつるぎそう

八剱:俺、だと?

尾先:解らないと、思ったのか?
   此処に来て確信に変わった
   お前が見た夢の話
   俺が聞かせてやるよ

八剱:……何が、言いたい

尾先:お前が見た夢はその水子の霊の親による、此処にいる全員の死、だろう

茜:えっ…?

八剱:……

尾先:死、または重症
   それくらいの事になるのは解っていた
   夢の話をしないということはそれなりのリスクがある
   だが、その状況になる理由が解らなかった
   しかし、お前の夢が完璧じゃないと解ったのは
   骸の存在だ

八剱:何?

骸:僕は、霊関係の事では何も受けないんだ
  僕を殺すにはより、人間的に扱わないとね

尾先:お前は骸を見て安心もしなかった
   常に危険はあると、そう考えていた
   綾瀬日和が助かるのであれば、犠牲は付き物だとな

八剱:最初から…解っていて
   何故、何も言わない!

尾先:お前が言わないからだろう
   こっちだって情報をタダでやるほどお人好しじゃねぇよ
   それに、お前の狙いも解ってる

八剱:狙い?何のことだ

尾先:茜を入れ物にする筈だった、だろう?

八剱:なっ!

茜:私を、入れ物にする?

尾先:大方、助けるために犠牲は払うつもりだった
   まして、今日会った俺たちだったら罪悪感も薄い
   ここで蓋が開いて解放された霊
   追ってきた親の霊
   供物として、茜に霊を取り憑かせ鎮める
   茜と綾瀬日和の中にある魂の入れ替えをするつもりだったな?

日和:八剱、さん?本当ですか?

八剱:……

骸:そうでもしないと、夢の惨劇が本物になって
  助かるどころか、みんな死ぬ
  イレギュラー的に僕たちがいるものの
  夢では蓋を開けてくれる手伝いをしたくらいかな?

八剱:……助けてくれ

尾先:……

八剱:そこまで解っているなら!
   犠牲無く終われるなら助けてくれ!

尾先:……最初からそのつもりだ
   ウチの従業員の命もかかってるんだからな

茜:尾先さん…

骸:アハハ、面白いね

茜:…ちょっと、この状況の何が面白いんですか!

骸:あははは、ごめんね
  さて、そろそろ来るよ
  親は僕に任せて、キミたちは蓋をお願いね

八剱:すまない、日和
   俺は…

日和:助けてくれようとしたんですよね
   大丈夫です、あの時と同じです

八剱:……あぁ

尾先:茜、凪を使え

茜:は、はい!
  凪、力を貸して

尾先:綾瀬日和、イメージしろ
   自分の中に閉じ込めているやつを、外に出すイメージだ

日和:は、はい!

八剱:(俺は……助ける為に犠牲を払おうとした
   間違っていると分かっていても
   あれを見たら、もう)

誰も知らない、夢の中

尾先:ア、がぁぁあぁぁあ!!

茜:や、……め、て

黒く、濁った霊は何かを発し、吼える

八剱:日、和…今のうちに…

日和:イヤァァァァァア
   あっ、あぁ…中から…出て……

茜:ウッ…アッ、あぁ

尾先:あか…ね……

骸:……

八剱:供物は揃った…
   これで、日和だけでも……

一瞬で静かになり、日和以外の命は消える

八剱:『この夢が 未来なら
   この光景が 来るべき未来なら
   お前は どうする?
   ……なぁ、八剱 蒼
   変えるか 未来を
   変えられるか 未来を
   その目で ミロ スベテヲ』



戻り、現在ーー。



八剱:ありもしない未来に畏れていたのは
   俺だけだった…それだけだった

尾先:解ったなら手伝え
   気を失うぞ、支えてやれ

八剱:あぁ

茜:行くよ、日和ちゃん

日和:…うん

尾先:……よし、開いた

骸:話はつけてきた
  こちらに危害は加えないよ
  ちゃんと返せば、の話だけど

尾先:勝手に帰るだろ、親元なんだ

茜:出た!尾先さん!

尾先:あぁ、行ってこい

外へ出て行く子供の霊

尾先:これで、終わりだな

八剱:…っと、日和、大丈夫か?

尾先:まだ目は覚まさんだろうな
   蓋が強い分、力も多く使うからな

八剱:……すまなかった、それに君も

茜:え、あ…いえ、気持ちは分かります

八剱:怒らないのか?

茜:大切な人、なんですよね?

八剱:…あぁ、何物にも変え難い

茜:…え、あれ?もしかして恋人同士…?

八剱:…ぷっ、はははっ
   あ、いや、すまない
   俺の片思いだ
   俺たちにも色々あったんだ
   それは眠っている日和を差し置いて話すことじゃない

茜:そうですね
  また遊びに来た時に色々聞きます!

八剱:……
   あぁ、そうしてくれ

尾先:本当、お前ってやつは…

茜:え?

骸:また命を狙われたのに許すんだね、茜ちゃんは
  良いところでも悪いところでもあるけど
  …まぁ、オサキといれば大丈夫かな

八剱:…お前たちも、そうなのか?

茜:えっ?いやいや!そんな!

尾先:いや、全く

茜:ちょ!尾先さん!

八剱:ありがとう
   報酬の話は後日また伺う

尾先:あぁ、それでいい

八剱:縁が、出来てしまったかな

尾先:同業、ではないが
   まぁ、その目の事もある
   いつかまた、その日が来ればな

八剱:分かった

茜:日和ちゃんもちゃんと休ませないと!
  帰りましょう!

尾先:あぁ、そうだな



【間】



後日ーー

尾先:一回無料券ねぇ

八剱:あぁ、本業だからな
   一応渡す

骸:上が騒がしいね
  女の子は恋バナが尽きないなぁ

八剱:一つ、依頼をしてもいいか?

尾先:その目の怪異についてか?
   多分だが、俺たちでも見つけるのは困難だ
   今後の依頼ついでにってことなら受けるが

八剱:それでいい
   情報が多い方が助かるからな

骸:じゃあ、僕の方でもやっておくよ

八剱:助かる

茜:あ、終わりました?

日和:また遊びに行くね

茜:うん!私も日和のところに行ってみたい

日和:うん、待ってる

骸:随分、仲良くなったね

茜:え?そうですか?

尾先:さ、見送りしてやれ

茜:はい!

帰る二人、それを見送る

骸:元を辿れば、これも愛憎の話だったのかな?

尾先:誰も恨んではないが
   恋や愛ってのは間違ってないな

茜:ロマンスホラーサスペンス?

尾先:本当に嫌なジャンルだ
   命までかかってるんだからな

茜:尾先さんは、大切な人のために
  他人を犠牲にしますか?

骸:……茜ちゃん、それは

尾先:あぁ
   ……するだろうな
   お前は自分を犠牲にしそうだな

茜:そう、ですかね

尾先:何を犠牲にするかは人それぞれだ
   だが、犠牲なんて無い方がいい
   それでも、俺たちは選ばなきゃいけない時がある
   間違えるな、茜
   そして、俺が間違ったときは止めてくれ

茜:……尾先さん

骸:……(犠牲、ね
  それは、辛い話だよね、オサキ)

尾先:よし、今日は依頼の話がある
   ちょうどいい、骸も来い

茜:はい!行きましょう!骸さん

骸:あぁ、行こうか、二人とも


叢雲  終
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

意味が分かると、分からないと怖い話【体験談+】

緑川
ホラー
ショートショートの寄せ集め。 幻想的から現実味溢れるものなど様々、存在。 出来の良し悪しについては格差あるので悪しからず。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

処理中です...