19 / 54
第一章
第十三話 幾星霜 仁狐
しおりを挟む
仁狐:『忘れたい 記憶』
『誰にも 言えない』
仁狐:ねぇ、助けてよ……
オサキ怪異相談 幾星霜 尾先仁狐
【間】
茜:え……
骸:何気ない言葉で人を傷つけることは多々ある
オサキにとって……
いや、僕が言うのはおかしいか
茜:私…もしかして、尾先さんのこと
謝らなきゃ!
骸:いや、違うんだ茜ちゃん
茜:え?
骸:僕の言い方が悪かった
確かに人を傷つけることはあるけど
オサキの場合は、越えなきゃいけないことなんだ
それに、キミも
茜:っ……、はい……
骸:もし、オサキがキミに何か話した時は
キミは、オサキの力になってほしい
茜:えっ……
骸:怪異屋として、ではなく
僕個人からの依頼だよ、山本茜に対しての
茜:……はい
骸:もうすぐ、流星群らしいね
茜:え?そうなんですか?
骸:幾度も星が流れ巡り、霜が積もるのを数える程に
長い年月のことを幾星霜、と言うね
もしかしたら、みんな
幾星霜を越え、今を生きているのかもね
茜:それは……
骸:ん?
茜:骸さんも、ですか?
骸:……さぁ……
どうだろうね
【間】
尾先:もしもし……
あぁ、赤羽山の件は助かった
……俺はもう、子供じゃない
いつまでも、頼ってばっかじゃねーよ
あの頃とは違うって
あぁ、だから……心配はいいよ
ははっ、そっちこそ大丈夫か?
っっ!?うるせー!子供に戻ってねぇよ!
くそ…やっぱ話すと調子狂うわ
……あぁ、良いやつだよ、あいつは
あー、迷惑だ、だから会いに行くな、絶対だ
あいつには……いつか話せたらと思うこともある
あぁ、じゃあ、また
尾先:…………
【間】
尾先:『星を超え、いつかの過去へ
誰にも話すことは無かった、ある過去へ』
何も言葉を発せず、ただウロウロとしているしかない男が一人
蛍:………
…………
!?来たか!
綾:あなた……
蛍:おお!男、男か!
綾:はい……
蛍:そうか…、そうか!
なぁ、名前はどうしようか?
綾:それが……
蛍:……すまない、みんな
席を外してくれ
この子も、頼む
数人、部屋から退出していく
蛍:……何か、あったのか?
綾:天啓が、降りました
蛍:天啓、だと?
綾:名前に狐を入れろと
蛍:なっ……、ふむ…それは天啓なのか?
綾:分かりません
しかし、産まれた瞬間に私だけ聞こえたのです
蛍:従う他、ないかもしれないな
なに、そう暗くなるな
大丈夫だ
綾:本当に大丈夫なんですか!?
憑物筋とは、妖を祀っているのですよね!?
これは、妖の言葉ではないのですか?
蛍: ……これも、縁なのだろう
私たちの家系は狐を祀っている
……しかし、本来低級霊のはずが語りかけてくるだと?
綾:私は…あの子が無事に育ってくれれば
名前なんか気にしません
どうか、あの子を
蛍:名付けには意味がある
しかし、無視もできない
……よし、仁を与えよう
綾:仁、ですか?
蛍:狐に一つ取られるのであれば
もう一つ、私たちから意味を与えよう
親切心、それに道徳と人として生きて行くために
必要な正義の心と、それと私たちが込めるのは
綾:愛情、ですか?
蛍:そうだ
心と愛を込めた仁ならば
あの子は大丈夫だ
綾:…はい
蛍:仁狐、うん、良いじゃないか
綾:きっと良い子に、育ちます
尾先:(俺が、名付けの意味を知ったのは後のこと
自分の名に意味があることも
この時は、まだ何も知らなかった)
仁狐 5歳
仁狐:……
あっ、待って!
あっ、行っちゃった
蛍:何してるんだ?仁狐
仁狐:あ、お父さん
居なくなっちゃった
蛍:何がだ?虫か?
仁狐:わかんない
蛍:っ!?仁狐、あとで私の部屋に来なさい
仁狐:え?
蛍:お母さんも一緒にな
仁狐:うん…わかった
【間】
綾:見たのですか……
蛍:あぁ、五歳だ、五歳だぞ?
私が見たのは残穢だが……見えている
綾:やはり…そういう運命なのですね
蛍:まだ、解らん
家系によるものかもしれない
とりあえず連れてきてくれ
話を聞こう
仁狐、部屋に入る
仁狐:あの…
蛍:今日の昼間、見ていたものはいつから見える?
仁狐:……わかんない
蛍:あぁ…別に怒っているわけじゃないんだ
聞きたいだけなんだ
綾:仁狐、わかる?
仁狐:本当にわかんないの
時々遊びに来るから
蛍:話したのか?
仁狐:うん!話せる子もいる!
綾:そう…そうなのね
仁狐:お母さん?
蛍:いいか、仁狐
あれは、幽霊というやつなんだ
仁狐:幽霊?怖いの?
蛍:うーん…そうだなぁ
怖いのもいるし、危ないのもいる
ただ、ほらウチの庭に狐の置物があるだろ?
あれも実は幽霊のお家なんだ
あそこにいる幽霊は怖くないんだ
綾:だけど、仁狐はまだ
怖いのと大丈夫なのわかんないでしょ?
だから、お父さんたちは聞いてるのよ
仁狐:うん……
蛍:見えるのは仕方がない
ただ、これだけは覚えておくんだ
仁狐:何?
蛍:普通の人には見えない
見えないから怖いものなんだ
見える人も怖がられることもある
だから、他の人に話しちゃいけないよ?
仁狐:うん、わかった
綾:それじゃ、夕食の準備をしましょう
仁狐、手伝う?
仁狐:うん!
蛍:手伝い、よろしくな
2人、部屋を出て行く
蛍:……家系の問題、なのか
あの子はやはり…
尾先:(この時、俺が見ていたのは怪異
その中でも妖怪に近いモノだった
不思議と恐怖は無かったのを覚えている
あの頃は……友達だと、思っていた)
仁狐 6歳
尾先:(その時は突然訪れた
今なら解る、それは防ぎようがない
人では到底理解できない、恐怖だ)
蛍:仁狐は?
綾:別室に
蛍:……そうか
綾:やはり……こうなるんですね
蛍:すまない、綾……すまない
綾:私は、あの子が幸せになってくれれば、他に望むものはありません
だから、此処に居るんです
蛍:あぁ、皆もすまない
部屋に集まった面々、尾先の家系の者たち
互いに顔を見合わせ、頷く
全員、気持ちは同じであった
綾:最後に、一度だけ
いいですか?
蛍:私も行こう
仁狐の寝ている部屋に行く
綾:仁狐……
ごめんなさい…ごめんね……
蛍:……また、会える
そうだろ?仁狐
仁狐:……
寝ており、全く反応はない
蛍:ははっ、そのまま事が終わるまで寝ていてくれ
尾先:(なぜ、気づかなかったのだろう
目と鼻の先では、大人達が騒いでいたはずなのに
考えても考えても答えは出なかった
それほどに俺は幼く、弱かった)
【間】
蛍:何故だ……?何も動きが無い
綾:もしかして……仁狐!
蛍:おい!……クソ!そういうことか!
綾:仁狐!仁狐……!
あっ……あぁ……
蛍:っ!?……そうだったのか
名付けの主は、お前か……
其処には、仁狐が立っており、その隣には
九本の金色の尾を持つ雪よりも白い狐が居た
蛍:白面金毛…!
仁狐:『あぁ、感謝するよ
この子に名を与えてくれた事に
お陰で色々……楽ができた』
綾:私が……私のせいで…
蛍:綾!取り乱すな!
綾:っ…
蛍:皆!封陣の型!
仁狐:『この子は貰う。ハハッ、なんと滑稽なことか
数十人程度の封印術で抑えられると?』
蛍:大妖怪だろうが、なんだろうが
ウチの息子に手を出すなら
この世に生まれたことを後悔させて
あっちに送ってやる
仁狐:『九重』
蛍:来るぞ!気合い入れろ!
尾先:(俺の知らない記憶
あの時、何があったのか
それを視るまでは……)
仁狐:うぅ……ぅん
……えっ?
仁狐を守るように覆い被さる綾
頭からの出血が見える
綾:仁狐……
仁狐:お母……さん?
うっ、あっ…うわぁぁぁあ!!
蛍:繋がりが切れた!
皆!やれ!
しかし、狐は笑っていた
仁狐:(あれは……白?
どうして皆んなを虐めているの?)
仁狐の心に話しかける狐
仁狐:『ハハハハ!目が醒めたか!仁狐
あぁ、私の可愛い子よ』
それを察したのか、吠える
蛍:お前のモノじゃないんだよ!
仁狐:やめて、やめてよ!白!
蛍:名付け……だと?
お前、いつから…
仁狐:あぁ、あぁあぁああぁあ
尾先:(そう、俺は出会っていた
ずっと前から、俺の心に、いた)
蛍:くっ…
仁狐:あぁ…やめて……やめて……
綾:大丈夫だよ
仁狐:……えっ
綾:大丈夫、大丈夫よ
仁狐:…………
蛍:心配するな!仁狐!
大丈夫だ!
仁狐:お父さん…お母さん……?
大丈夫だ、心配するな、なんとかするぞ、平気だ
大人たちは口々に言葉をかける
そんな声が響き、仁狐に届く
仁狐:大丈夫……?
綾:うん、大丈夫
だからね、仁狐
仁狐:何?
綾:元気でね、いつまでも
仁狐:えっ?
仁狐に憑いている狐の霊は、仁狐と同じ声を発する
しかし、その声には疑問と苛立ちが見える
仁狐:『何……何故、人間、何故…』
蛍:あぁ、妖怪
よく覚えておけ、親ってのはな
子を守るためなら強くなれるんだよ!
仁狐:『巫山戯るな!そんなモノでどうにか出来る筈が!』
蛍:父親舐めるんじゃねーよ
綾:口調が昔に戻ってますよ、あなた
蛍:久しぶりに喧嘩してるからな
仁狐には見せたく無いが、もう少しだ
仁狐:『巫山戯るなぁぁあ!!』
蛍:人の息子の声を勝手に使ってんじゃねーよ!
仁狐:『……やめ』
綾:!?
仁狐:『やめて、お父さん』
綾:仁…狐…?
蛍:っ……お前…それで俺が騙せると思ってるのか!
冥土に還れ、白面金毛!
狐は仁狐の姿に変貌する
仁狐:『痛いのは……嫌だ』
蛍:っっ…く…そ…
仁狐:『……滑稽、だ』
蛍:ぐっっ……あっ…
その瞬間、尾の一つが、蛍を貫いていた
仁狐:あぁっ!
綾:あなた!!…あっ
もう一つの尾が綾を貫く
そして、尾は意志を持っているかのように、次々に人を貫いていく
仁狐:あぁ、あぁあ…ぁあああ
仁狐:『ハハハ!無様、滑稽、脆弱
人とは全て、塵に等しく、鏖だ』
仁狐:やめろおおおお!!
蛍:……じん…こ…
お前……まさ、か…
仁狐:『なっ…なぜ、私の…』
仁狐:赦さない、赦さない…
仁狐:『やめろ 仁狐 やめろ』
仁狐:……消えろ、白
尾先:「大丈夫だよ」と誰かが笑う
「心配するな」と誰かが笑う
大丈夫じゃない、それくらい解る
だけど、声に出せない、行かないでと言えない
最初の後悔は自分の弱さ、愚かさ
最期に笑いかけてくれた2人は
尾先:目の前から消えた
尾先:そして、次に目覚めた時
仁狐:………嘘、だ…
尾先:其処にはもう、何も無かった
【間】
綾:(仁狐……仁狐……)
尾先:(懐かしい声がする
誰だったか……昔に聞いたことがあるような)
綾:(元気でね、いつまでも)
尾先:(心にずっと残っている言葉だ
これは……確か……)
茜:仁狐
目が覚めるオサキ
尾先:……ん…
茜:あ、ごめんなさい!
起こしちゃいました?
尾先:……あ、あぁ、いや
茜:どうしたんですか?
尾先:なんで名前言ってたんだ?
茜:ちょっとノートに纏めてて
最近、色々ありましたから
私なりの勉強です
尾先:そうか……
懐かしい夢を見ていた気がする
茜:懐かしい夢、ですか?
尾先:あぁ
茜:仁狐って珍しい名前ですよね
尾先:……父が付けてくれたらしい
茜:そうなんですね
私の名前はどっちが付けてくれたんだろ?
尾先:(昔を思い出したのも、もしかしたら…)
……茜
茜:はい?
尾先:あ、いや……
仁狐:『忘れたい 記憶』
『誰にも 言えない』
『ねぇ、助けてよ……』
尾先:(助けて……か…)
山本 茜
茜:はい
尾先:俺の話を、聞いてくれないか?
【間】
骸:やぁ、キミからなんて珍しいね
……あぁ、どうやら話したみたいだよ
恥ずかしがって依頼として頼んだみたいだけど
まぁ茜ちゃんがそんな事、気づくはずないのにさ
さて、オサキがやっと心を許せそうな人と
出会ったかもしれないタイミングでキミからの電話
監視でもしているのかい?息子可愛さにさ
……そう、僕たちは僕たちで動いている
キミはキミで勝手にやるだろう?
僕の邪魔だけは、しないでね
あ、そうそう
茜ちゃんと会うつもりかい?
だったら、僕からも一ついいかな?
もし……茜ちゃんに何かしたら
僕は多分、キミを殺すよ
あの子は鍵だ、オサキにとっても
僕にとってもね
必要な存在だと……うん、そう
じゃあ、次に会う時は面白いことをしよう
じゃあね
骸:廻門
幾星霜 仁狐 終
『誰にも 言えない』
仁狐:ねぇ、助けてよ……
オサキ怪異相談 幾星霜 尾先仁狐
【間】
茜:え……
骸:何気ない言葉で人を傷つけることは多々ある
オサキにとって……
いや、僕が言うのはおかしいか
茜:私…もしかして、尾先さんのこと
謝らなきゃ!
骸:いや、違うんだ茜ちゃん
茜:え?
骸:僕の言い方が悪かった
確かに人を傷つけることはあるけど
オサキの場合は、越えなきゃいけないことなんだ
それに、キミも
茜:っ……、はい……
骸:もし、オサキがキミに何か話した時は
キミは、オサキの力になってほしい
茜:えっ……
骸:怪異屋として、ではなく
僕個人からの依頼だよ、山本茜に対しての
茜:……はい
骸:もうすぐ、流星群らしいね
茜:え?そうなんですか?
骸:幾度も星が流れ巡り、霜が積もるのを数える程に
長い年月のことを幾星霜、と言うね
もしかしたら、みんな
幾星霜を越え、今を生きているのかもね
茜:それは……
骸:ん?
茜:骸さんも、ですか?
骸:……さぁ……
どうだろうね
【間】
尾先:もしもし……
あぁ、赤羽山の件は助かった
……俺はもう、子供じゃない
いつまでも、頼ってばっかじゃねーよ
あの頃とは違うって
あぁ、だから……心配はいいよ
ははっ、そっちこそ大丈夫か?
っっ!?うるせー!子供に戻ってねぇよ!
くそ…やっぱ話すと調子狂うわ
……あぁ、良いやつだよ、あいつは
あー、迷惑だ、だから会いに行くな、絶対だ
あいつには……いつか話せたらと思うこともある
あぁ、じゃあ、また
尾先:…………
【間】
尾先:『星を超え、いつかの過去へ
誰にも話すことは無かった、ある過去へ』
何も言葉を発せず、ただウロウロとしているしかない男が一人
蛍:………
…………
!?来たか!
綾:あなた……
蛍:おお!男、男か!
綾:はい……
蛍:そうか…、そうか!
なぁ、名前はどうしようか?
綾:それが……
蛍:……すまない、みんな
席を外してくれ
この子も、頼む
数人、部屋から退出していく
蛍:……何か、あったのか?
綾:天啓が、降りました
蛍:天啓、だと?
綾:名前に狐を入れろと
蛍:なっ……、ふむ…それは天啓なのか?
綾:分かりません
しかし、産まれた瞬間に私だけ聞こえたのです
蛍:従う他、ないかもしれないな
なに、そう暗くなるな
大丈夫だ
綾:本当に大丈夫なんですか!?
憑物筋とは、妖を祀っているのですよね!?
これは、妖の言葉ではないのですか?
蛍: ……これも、縁なのだろう
私たちの家系は狐を祀っている
……しかし、本来低級霊のはずが語りかけてくるだと?
綾:私は…あの子が無事に育ってくれれば
名前なんか気にしません
どうか、あの子を
蛍:名付けには意味がある
しかし、無視もできない
……よし、仁を与えよう
綾:仁、ですか?
蛍:狐に一つ取られるのであれば
もう一つ、私たちから意味を与えよう
親切心、それに道徳と人として生きて行くために
必要な正義の心と、それと私たちが込めるのは
綾:愛情、ですか?
蛍:そうだ
心と愛を込めた仁ならば
あの子は大丈夫だ
綾:…はい
蛍:仁狐、うん、良いじゃないか
綾:きっと良い子に、育ちます
尾先:(俺が、名付けの意味を知ったのは後のこと
自分の名に意味があることも
この時は、まだ何も知らなかった)
仁狐 5歳
仁狐:……
あっ、待って!
あっ、行っちゃった
蛍:何してるんだ?仁狐
仁狐:あ、お父さん
居なくなっちゃった
蛍:何がだ?虫か?
仁狐:わかんない
蛍:っ!?仁狐、あとで私の部屋に来なさい
仁狐:え?
蛍:お母さんも一緒にな
仁狐:うん…わかった
【間】
綾:見たのですか……
蛍:あぁ、五歳だ、五歳だぞ?
私が見たのは残穢だが……見えている
綾:やはり…そういう運命なのですね
蛍:まだ、解らん
家系によるものかもしれない
とりあえず連れてきてくれ
話を聞こう
仁狐、部屋に入る
仁狐:あの…
蛍:今日の昼間、見ていたものはいつから見える?
仁狐:……わかんない
蛍:あぁ…別に怒っているわけじゃないんだ
聞きたいだけなんだ
綾:仁狐、わかる?
仁狐:本当にわかんないの
時々遊びに来るから
蛍:話したのか?
仁狐:うん!話せる子もいる!
綾:そう…そうなのね
仁狐:お母さん?
蛍:いいか、仁狐
あれは、幽霊というやつなんだ
仁狐:幽霊?怖いの?
蛍:うーん…そうだなぁ
怖いのもいるし、危ないのもいる
ただ、ほらウチの庭に狐の置物があるだろ?
あれも実は幽霊のお家なんだ
あそこにいる幽霊は怖くないんだ
綾:だけど、仁狐はまだ
怖いのと大丈夫なのわかんないでしょ?
だから、お父さんたちは聞いてるのよ
仁狐:うん……
蛍:見えるのは仕方がない
ただ、これだけは覚えておくんだ
仁狐:何?
蛍:普通の人には見えない
見えないから怖いものなんだ
見える人も怖がられることもある
だから、他の人に話しちゃいけないよ?
仁狐:うん、わかった
綾:それじゃ、夕食の準備をしましょう
仁狐、手伝う?
仁狐:うん!
蛍:手伝い、よろしくな
2人、部屋を出て行く
蛍:……家系の問題、なのか
あの子はやはり…
尾先:(この時、俺が見ていたのは怪異
その中でも妖怪に近いモノだった
不思議と恐怖は無かったのを覚えている
あの頃は……友達だと、思っていた)
仁狐 6歳
尾先:(その時は突然訪れた
今なら解る、それは防ぎようがない
人では到底理解できない、恐怖だ)
蛍:仁狐は?
綾:別室に
蛍:……そうか
綾:やはり……こうなるんですね
蛍:すまない、綾……すまない
綾:私は、あの子が幸せになってくれれば、他に望むものはありません
だから、此処に居るんです
蛍:あぁ、皆もすまない
部屋に集まった面々、尾先の家系の者たち
互いに顔を見合わせ、頷く
全員、気持ちは同じであった
綾:最後に、一度だけ
いいですか?
蛍:私も行こう
仁狐の寝ている部屋に行く
綾:仁狐……
ごめんなさい…ごめんね……
蛍:……また、会える
そうだろ?仁狐
仁狐:……
寝ており、全く反応はない
蛍:ははっ、そのまま事が終わるまで寝ていてくれ
尾先:(なぜ、気づかなかったのだろう
目と鼻の先では、大人達が騒いでいたはずなのに
考えても考えても答えは出なかった
それほどに俺は幼く、弱かった)
【間】
蛍:何故だ……?何も動きが無い
綾:もしかして……仁狐!
蛍:おい!……クソ!そういうことか!
綾:仁狐!仁狐……!
あっ……あぁ……
蛍:っ!?……そうだったのか
名付けの主は、お前か……
其処には、仁狐が立っており、その隣には
九本の金色の尾を持つ雪よりも白い狐が居た
蛍:白面金毛…!
仁狐:『あぁ、感謝するよ
この子に名を与えてくれた事に
お陰で色々……楽ができた』
綾:私が……私のせいで…
蛍:綾!取り乱すな!
綾:っ…
蛍:皆!封陣の型!
仁狐:『この子は貰う。ハハッ、なんと滑稽なことか
数十人程度の封印術で抑えられると?』
蛍:大妖怪だろうが、なんだろうが
ウチの息子に手を出すなら
この世に生まれたことを後悔させて
あっちに送ってやる
仁狐:『九重』
蛍:来るぞ!気合い入れろ!
尾先:(俺の知らない記憶
あの時、何があったのか
それを視るまでは……)
仁狐:うぅ……ぅん
……えっ?
仁狐を守るように覆い被さる綾
頭からの出血が見える
綾:仁狐……
仁狐:お母……さん?
うっ、あっ…うわぁぁぁあ!!
蛍:繋がりが切れた!
皆!やれ!
しかし、狐は笑っていた
仁狐:(あれは……白?
どうして皆んなを虐めているの?)
仁狐の心に話しかける狐
仁狐:『ハハハハ!目が醒めたか!仁狐
あぁ、私の可愛い子よ』
それを察したのか、吠える
蛍:お前のモノじゃないんだよ!
仁狐:やめて、やめてよ!白!
蛍:名付け……だと?
お前、いつから…
仁狐:あぁ、あぁあぁああぁあ
尾先:(そう、俺は出会っていた
ずっと前から、俺の心に、いた)
蛍:くっ…
仁狐:あぁ…やめて……やめて……
綾:大丈夫だよ
仁狐:……えっ
綾:大丈夫、大丈夫よ
仁狐:…………
蛍:心配するな!仁狐!
大丈夫だ!
仁狐:お父さん…お母さん……?
大丈夫だ、心配するな、なんとかするぞ、平気だ
大人たちは口々に言葉をかける
そんな声が響き、仁狐に届く
仁狐:大丈夫……?
綾:うん、大丈夫
だからね、仁狐
仁狐:何?
綾:元気でね、いつまでも
仁狐:えっ?
仁狐に憑いている狐の霊は、仁狐と同じ声を発する
しかし、その声には疑問と苛立ちが見える
仁狐:『何……何故、人間、何故…』
蛍:あぁ、妖怪
よく覚えておけ、親ってのはな
子を守るためなら強くなれるんだよ!
仁狐:『巫山戯るな!そんなモノでどうにか出来る筈が!』
蛍:父親舐めるんじゃねーよ
綾:口調が昔に戻ってますよ、あなた
蛍:久しぶりに喧嘩してるからな
仁狐には見せたく無いが、もう少しだ
仁狐:『巫山戯るなぁぁあ!!』
蛍:人の息子の声を勝手に使ってんじゃねーよ!
仁狐:『……やめ』
綾:!?
仁狐:『やめて、お父さん』
綾:仁…狐…?
蛍:っ……お前…それで俺が騙せると思ってるのか!
冥土に還れ、白面金毛!
狐は仁狐の姿に変貌する
仁狐:『痛いのは……嫌だ』
蛍:っっ…く…そ…
仁狐:『……滑稽、だ』
蛍:ぐっっ……あっ…
その瞬間、尾の一つが、蛍を貫いていた
仁狐:あぁっ!
綾:あなた!!…あっ
もう一つの尾が綾を貫く
そして、尾は意志を持っているかのように、次々に人を貫いていく
仁狐:あぁ、あぁあ…ぁあああ
仁狐:『ハハハ!無様、滑稽、脆弱
人とは全て、塵に等しく、鏖だ』
仁狐:やめろおおおお!!
蛍:……じん…こ…
お前……まさ、か…
仁狐:『なっ…なぜ、私の…』
仁狐:赦さない、赦さない…
仁狐:『やめろ 仁狐 やめろ』
仁狐:……消えろ、白
尾先:「大丈夫だよ」と誰かが笑う
「心配するな」と誰かが笑う
大丈夫じゃない、それくらい解る
だけど、声に出せない、行かないでと言えない
最初の後悔は自分の弱さ、愚かさ
最期に笑いかけてくれた2人は
尾先:目の前から消えた
尾先:そして、次に目覚めた時
仁狐:………嘘、だ…
尾先:其処にはもう、何も無かった
【間】
綾:(仁狐……仁狐……)
尾先:(懐かしい声がする
誰だったか……昔に聞いたことがあるような)
綾:(元気でね、いつまでも)
尾先:(心にずっと残っている言葉だ
これは……確か……)
茜:仁狐
目が覚めるオサキ
尾先:……ん…
茜:あ、ごめんなさい!
起こしちゃいました?
尾先:……あ、あぁ、いや
茜:どうしたんですか?
尾先:なんで名前言ってたんだ?
茜:ちょっとノートに纏めてて
最近、色々ありましたから
私なりの勉強です
尾先:そうか……
懐かしい夢を見ていた気がする
茜:懐かしい夢、ですか?
尾先:あぁ
茜:仁狐って珍しい名前ですよね
尾先:……父が付けてくれたらしい
茜:そうなんですね
私の名前はどっちが付けてくれたんだろ?
尾先:(昔を思い出したのも、もしかしたら…)
……茜
茜:はい?
尾先:あ、いや……
仁狐:『忘れたい 記憶』
『誰にも 言えない』
『ねぇ、助けてよ……』
尾先:(助けて……か…)
山本 茜
茜:はい
尾先:俺の話を、聞いてくれないか?
【間】
骸:やぁ、キミからなんて珍しいね
……あぁ、どうやら話したみたいだよ
恥ずかしがって依頼として頼んだみたいだけど
まぁ茜ちゃんがそんな事、気づくはずないのにさ
さて、オサキがやっと心を許せそうな人と
出会ったかもしれないタイミングでキミからの電話
監視でもしているのかい?息子可愛さにさ
……そう、僕たちは僕たちで動いている
キミはキミで勝手にやるだろう?
僕の邪魔だけは、しないでね
あ、そうそう
茜ちゃんと会うつもりかい?
だったら、僕からも一ついいかな?
もし……茜ちゃんに何かしたら
僕は多分、キミを殺すよ
あの子は鍵だ、オサキにとっても
僕にとってもね
必要な存在だと……うん、そう
じゃあ、次に会う時は面白いことをしよう
じゃあね
骸:廻門
幾星霜 仁狐 終
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる