眠りの巫女と野良狐

眠りは世界を救う、のでしょうか？

3

「今の……知り合い、なの？」
「俺は森で過ごすことが多いからな」

　夢穂はなるほど、と思った。
　影雪の自然に溶け込むようなこの存在感は、普段の暮らしで培われたものなのかと。
　
「私、やっぱり違う匂いがするのかな？　自分じゃわからないけど」
「こちらにはない匂いだからな、興味本位で食われる可能性がある」

　穏やかではない言葉に顔を青くする夢穂。
　
「理性より本能が強いあやかしたちもいるからな。釘は刺しておいたし、俺の側にいれば問題ない」

　自分より強い者には逆らわない、というのもあやかしの本能だろうか？
　だけど先ほどのあやかしたちは、影雪を怖がっている感じはしなかった。
　友達と呼べるほどの親しさはなくても、互いに尊重し合い、共存しているように思えた。

「私、あやかしってみんな影雪みたいなのかと思ってたわ、全然違ったのね」
「そうか？　俺からすればあまり変わらない気がするが」

　警戒するよう辺りに目を配りながら、先を進んでくれる影雪。
　風にそよぐ銀色の長髪を眺めながら、後ろをついて歩く夢穂。

「じゃあ、影雪も私を食べたいとか思うの？」
「……そんなことは思わないが」

　夢穂には自信があった。ほとんど人間にしか思えない影雪が、人喰いなどするはずがないと。

「甘噛みはしたいと思う」

　人が真剣に考えてやっているのに、なんなんだその答えは。
　夢穂は全身の力が抜けそうだった。

「それは……たぶん、さっきのあやかしたちとは全然違った意味だと思うから、大丈夫よ」
「そうなのか？」

　軽く振り向いて尋ねる影雪に、夢穂は「たぶんね」と付け加えた。
　確証はなかった。夢穂もその感情について、まだ詳しく知らなかったから。